コロールへの旅 ~弱点を補う物~
シェトコーム農場を通り過ぎ、さらに北東へと旅を進める。
コロールへ近づけば、どこかで川の流れる細い道に辿りつくはずだ。
その途中、俺にとっては因縁深い場所へと辿りついた。
サングイン……(。-`ω´-)
「さ、三大邪神のサングイン……」
「そんなにこの神様は悪いの?」
「ではこういった話はどうだろうか」
俺は、サングインの恐怖を知らない緑娘テフラに、事例を持ち出して説明してやった。
「君がつまらないパーティを楽しい場にしようと思ったら、どうするかい?」
「そうね、みんな脱いで乱交パーティにでもしたら、とりあえずはその場は盛り上がると思うわ」
「……それが本気で言っている意見なら、婚約解消だ」
「ちょっと待ってよ、なんでよ! 冗談に決まっているでしょ、そんな破廉恥騒ぎ」
「若い男を見たらすぐにクネクネしだす奴が、何が破廉恥だ。まあいい、サングインは、俺にパーティを楽しませろと言って、一つの魔術をよこしてきた」
「魔術で楽しませる。ああ、その手もあるわね、うまくすれば花火みたいに楽しませるかも」
「だがその魔法を使ったところ、その場に居合わせた人全員、すっぽんぽーん!」
「…………」
「俺は騒乱罪で留置所入りだ。サングインめ、ゆるさん……」
「でも報酬は出たのでしょ?」
「こんな杖一本。使ったら魔物を召喚するだけ」
「……たしかに邪神ね」
こんな感じに、サングインの祭殿などをすれ違ったりしていた。
しばらく進むと、コロールから南に伸びる川沿いの道へと到着した。
ここからはこの川に沿って北上すれば、コロール周辺の街道に辿り付ける。
この道はジェメイン兄弟の依頼で、ウェザーレアなどを取り戻す時によく通った道だ。あの兄弟は元気にやっているかな。
「この辺りでいろいろと手伝ってやったジェメーン兄弟は、元気にやっているかな」
「兄弟? ふ~ん、元気しているんじゃないの」
思わず口に出てしまったが、緑娘は興味なしと言った感じだ。
兄弟ならいいのか、やはり女が絡むと不機嫌になるのか、これは嫉妬だな。
これがジェメーン姉妹を助けたなどと言うと、騒ぎ出すに違いない。
そんな時、突然この細道にトロールが出現した!
素早い動きでこちらに迫ってくる! 危ない!
グサッ!
蹴りの音が、グサッだ。レイピアじゃないんだからさ、いやまぁ、足にレイピアを装備しているようなものだけど。
それにしても、素早いスピードで突進してきたトロールの眉間を正確に蹴り刺せるんだな。適当に蹴りを放っているのではなくて、ピンポイントにニードルヒールを刺す命中精度もかなり良さそうだ。
「それにしても、よく眉間を狙い撃ちできるね」
「まずは正確に蹴りを当てられるよう訓練して、徐々に狙った場所一点に命中できるよう精度を上げていったのよ、角度とか」
「でもまだくたばってないみたいだね」
「あらそう?」
動きを封じられると、こうしてとどめを刺されるからな。
これまでこの国をいろいろと旅してきたが、こんな攻撃をするのはこの緑娘が初めてだ。
剣のように腕に装備するのではなくて、足に針を装備するという発想が斬新と言うか何と言うかねぇ……
コロールに近づき、あとは石段を越えれば目の前という川のほとりで一休み。
「あなたと一緒に武術を学んでいたときにね――」
唐突に昔話をし始める緑娘。俺は忘れてしまったが知っているはずの話。
身体が体術での戦いを覚えていたのか、無意識のうちに逮捕一直線のラムリーザキックを放っていたとでも言うのだろうか。
そうか、俺がこの緑娘と一緒にね――
「――どうしても超えられない壁のようなものにぶつかったのよね」
「へぇ、あんなに蹴り技だけで敵を退治できるのに壁ね。あ、それを乗り越えたってことか」
「そうなの。どれだけ鍛えてもあたしの攻撃はあなたに通用しなかった」
「マジ? 俺ってそんなに強いのか?」
「ううん、あたしが弱いの」
この娘は何を言い出すのだろうか。
あれだけの戦いを見せておきながら自分は弱いなどと。謙遜か?
「じゃあ思い出させてあげる。あたしの弱さを」
そう言うと緑娘は立ち上がり、俺も立ち上がるよう促した。
それから一撃を放つから、気合を入れて受けて頂戴と言ってきた。
次の瞬間、突然緑娘は殴りかかってきた。
とすっ――
音で表現するとこんな感じ。
多少衝撃はあるが、とにかく軽い。せいぜい強く押された程度である。
俺は突き一閃でマニマルコにとどめをさしたことがある。だがこの軽い拳では無理だな。
「どう?」
「軽いね」
「的確な表現だわ」
次に緑娘は、自分の履いていたニードルヒールを脱いで構えた。
そして俺に蹴りつけてきた。
「ちょっと待て――」と言おうとしたが――
ビシッ――
痛い。叩かれたという感じだ。
しかしやはり軽い。この蹴りでは――
「どう? っていうより、普通に立っているね」
「本気で蹴っていないのだろ?」
「ううん、あたしは本気で蹴った。でもあなたには通用しないの。ううん、たぶんあなたぐらいの体格の人相手なら通用しないわ」
「まぁ女の子は軽いからね」
マゾーガ卿のようにゴッツイ体格ではない。この緑娘は普通に一般的な村娘体格だ。
それを補うために、武器や魔術というものがあるのだ。
「あ、それであの靴か」
「そう、非力を補うには刃物。でもあたしは蹴り技が好きだから、蹴りに特化した武器を作り上げたのよ」
「この武器なら、蹴りでもあなたに勝てるかも」
「俺に勝ってどうするんだよ……」
「別に――。ただ、あなたに守られるだけってのが嫌なだけ。お互いに守りあえる関係を作りたかったのよ」
「そうか……。ごめんよ、長い間ほっといて。そしていろいろ忘れてしまって」
「あなたの記憶を戻せる方法、これまでの体験からなんとなくわかってきているけど、下手したら荒療治になりかねないから少しずつやっているのよ」
「そ、そうなのか」
記憶を戻せる方法――
俺もなんとなく気がつき始めている。
この緑娘と深く接したら、過去の記憶が蘇ったりするのだ。
スキンシップを取ろうとした時や、名前を見たとき。
「さ、コロールに行きましょう。ダル=マに言い聞かせなくちゃならないからね」
「いや、何を言い聞かせるのだよ」
さて、あと少しの道のりだ。
石段を登っていくと、コロールの外壁が見えてきた。
………
……
…
「ダル=マさん、こちらがミド――テフラです。それでテフラさん、こちらがダル=マさんです」
「えっ?」
「初めましてテフラさん。この街は初めて?」
「え、あ、はい。お会いできて嬉しい――です?」
「こちらこそ! 新しい出会いは、いつでも嬉しいものです。母もあなたにお会いしたら喜ぶと思います」
コロールの町についてから、真っ先にダル=マと緑娘を対面させてやった。
初めて会った人にも好意的で、人との出会いを大切にしているダル=マ。
どうだ、悪い人(?)じゃないことがわかっただろう?
緑娘も、相手がどんな女の子を想像していたのか知らんが、アリーレさんの時のように詰め寄ることもなく、ぎこちない挨拶をしていたものだ。
よし、この分だとマゾーガ卿も大丈夫だな。
他に緑娘が騒ぎそうな女性とは知り合っていない。
まったく、めんどくさい娘だ。
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