再び現れたあの娘、再び現れた汚職衛兵 ~命の恩人~
さて、新しいブルーマギルドの支部長はジュラーエルに決まった。
なんか勝手に話を進めているみたいだが、アークメイジの俺が決めたのだからラミナスも文句は無いだろう。
再び大学へと戻ってきた。
しかしアークメイジの私室は気が滅入るのだよなぁ。
ブルーマのギルド再建が終われば、また私室に居なければならなくなるのか……
それはそれでつらいな。もっと自由にできるという権限を作るか? アークメイジは自由に外出してもよいとかそんな条約。
待てよ、「魔術師ギルド綱領」に、「アークメイジは私室に篭っていなければならない」といった条件は書いていなかったはずだ。
ならば、俺が自由気ままに外に出て行っても問題ないはずだ。うん、問題ない。
たちまちは、新しく生まれ変わったブルーマギルドにしばらく滞在してみるのも悪くは無い。
それに大学は建て方が悪い。
なんで建物に行くために階段を降りたり登ったりを繰り返さなければならんのだ?
入り口から本館に向かうときも、一旦入り口から階段をおりてまた登らなければならない。
めんどくさいんだよ。
ん? 目の前にあるこの足は?
待てよ、この靴見覚えがある……、踵から尖った針のような物が突き出ていて――
まさかっ――?!
「でっ、出たぁ!」
「出たあじゃないわよ、やっと見つけた!」
「な、何故ここが? フロイライン?」
「何そのフロイラインって。先日あなたを見つけた場所に居た獣族に、あなたの行きそうな場所を教えてもらったらここだと言っていたのよ」
「ジ=スカール先輩、余計なことを……、そうか、それでは某は失礼仕る。ではさらばだ!」
とうっ――って待てよ、逃げるんじゃなくてあの娘と向かい合うんじゃなかったのか?
オークのマゾーガ卿や、アルゴニアンのダル=マと比べてみろよ、普通に可愛いじゃないかあの娘は!
しかし許婚が怖い、やっぱり怖い!
「ここで会ったが百年目! 見つけたぞ、英雄気取りの卑怯者め!」
「いや、違う、違うんですよ! お嬢さん!」
――って待て、お嬢さんじゃない。誰だこのおっさんは!
なんで俺がこんな見知らぬおっさんに因縁付けられなくちゃならんのだ?!
「あれっ? 誰だお前は?!」
「死ね! 借りは返してもらうぞ!」
「ちょっと待て! 待ちたまえ! 話せば分かる!」
というか、あの娘のことばかり考えていて正面に敵が迫っていることに気が付かなかった。
気圧されて思わずひっくり返ってしまった、やばいぞ!
「殿中! 殿中でござる! じゃなくて、ここは大学の敷地内だぞ! 衛兵! 何をしておる! アークメイジがやられるぞ!」
「このハゲオヤジ! あたしのラムリーザに何をするのよ!」
慌てていたために何もできなかった俺とこのハゲオヤジの間に割って入ったのは、あの娘だった!
鋭い蹴りを一撃、突然現れた暴漢は、一発で退治されてしまった。見れば、蹴られた喉元に穴が開いており、そこから血が噴出していた。
ああなるほどね、踵から伸びたあの鋭く尖った針は、こういった使い方をするためのものなんだ。確かにあんな靴で蹴られたらたまったもんじゃないな。
「あ、ありがとう、なんだかよく分からないけど助かったよ」
「いんえー、あたしの大事な許婚なんだから助けてあげなくちゃね」
「いやその許婚っていうのがちょっと――、まぁその話は置いといて、こいつは誰だよ」
踵の針に付いた血をぬぐっている娘の隣で、俺は倒れたハゲオヤジの懐を探ってみると、一枚の走り書きが出てきた。
オーデンス・アヴィディウス? 誰だっけ?
英雄気取りって俺のこと? 刑務所から脱獄? ルスラン? ルロンク?
……(。-`ω´-)
あの汚職衛兵か。
あの時嬉しげに牢屋まで着いていったのがまずかったか。それで俺の顔を覚えられて、襲い掛かってきたと。
英雄気取りだと? いや、英雄だよ、魔術師ギルドの。
「それでラムリーザ、あなたのことについてだけど――」
「わかった、君の話を聞いてみるよ。とりあえず、もう逃げないから時間をください」
「わかったわ」
少なくとも命を救ってくれた相手だ。敵というよりもむしろ味方だ。
逃げ回らずに向かい合って、話を聞いてみよう。それに、今まで出会ってきた女性たちと比べて、はるかに美人だしな。
ただしその結果がどうであれ、アークメイジとして生きていくのだということをこの娘にうまく伝えられれば良いのだけどな。
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