突然の出立 ~望まぬ船旅~

 
 さて、魔術師大学で杖を作ってもらうことになったが、完成までしばらくかかるということで帝都見物をすることにしてみた。
 うん、まあ、都会だね。あまり都会は好みじゃないね。素朴な田舎でのんびりと暮らすほうがいいね。
 そんなことを思いながらうろうろしているうちに、日も暮れてしまった。
 大学に戻るか? と思ったけど、あそこは集団部屋だしベッド争奪戦があるからなぁ……
 

 というわけで、今夜はここへ泊まってみることにした。
 ブローテッド・フロート。船を宿屋にしているというのが珍しい。船旅気分を味わいながら、一晩過ごせると言うのだろうか?
 

 中は船室を食堂にしたような感じ。
 ここだけを見たら、船の中だとは思えないだろう。
 

 ちょっと甲板に出てみた。
 ん、海賊になるのも面白いかも。魔導師海賊、強そうじゃないか。
 ラピッドストリームという陣形も覚えられるしな! すばやいぞ!
 

 というわけで、おやすみ。
 ペルズ・ゲートり宿屋と違って、ゆったりとしたスペースがある。
 やっぱり泊まる場所は、相部屋でもなく、狭い部屋でもなく、こんなところがいいねい。
 
 ………
 ……
 …
 
 翌朝かな?
 俺は、体が揺れるのを感じて目が覚めた。
 そういえば船の上の宿屋に泊まったっけ、浮かんでいるから揺れるのも当然か。
 ――と思うが、それにしては揺れが大きいな。
 

 船室から外に出ると、なんか物騒な人が待ち構えていた。
 
「おい! お前は誰だ! ブラックウォーター盗賊団には見えないぞ!」
「魔術師大学の見習いだ!」
「何だと? 乗組員は二人だけだと聞いていたぞ? それに魔術師大学の見習いって何だ?!」
「すまん、冗談だ。お前らの仲間だよ」
「メンバーは俺たち4人だけだ! 何の連絡もなしに、ブラックウォーター盗賊団が新メンバーを迎えるはずがねぇ!」
 

 めんどくさいので、とっとと始末することにした。
 どうやら寝ているうちにこの宿屋が盗賊団にのっとられてしまったらしい。
 これだけ船が揺れるということは、もしかして出航してしまったか?
 
 持っていたメモを見ると、こいつはリンチという名前で、船室を全て制圧するのが仕事だったらしい。
 で、おてんば娘の邪魔はしないことだそうだが、おてんば娘って誰だ? アリーナ姫か?
 
 また、他の部屋には舵取りのオークも監禁されていた。
 ブラックウォーター盗賊団は、船主のオーミルを人質にして出航させたと聞いた。
 甲板まで連れて行ってくれればフロート号を帰路につけることができるが、危険が無くなるまでは動くつもりは無いと言い出した。
 顔に似合わず臆病だな! マゾーガ卿とは大違いだ!
 

 というわけで、船の中央部、広間へと戻っていった。
 そこにはおてんば娘らしき人が見張りをしているようだが、オテンバという名前はどうかと思うぞ!
 とか考えていたら、あっさりと見つかってしまった。
 
「こらっ、そこのお前! どこに行くつもりだ! セレーネはそういうのを嫌がるんだ!」
「えーとね、リンチという人にここに来るよう言われたよ。なんか同盟軍に反乱を起こすクーデターを起こす計画書を帝国軍から持ってきたらしい」
「リンチの命令? セレーネと話をするために?」
「たぶんそんなところ」
「あの人にどんな手伝いが要る? なんかおかしいな、リンチに何があった?」
「査閲部長の額を撃ち抜いた後に、その部下達に蜂の巣にされて死んだ。名誉か、くだらん」
 

 めんどくさ、また襲い掛かってきた。
 どうも俺は交渉術が下手糞なようだ。まぁ盗賊団と仲良くするつもりはないけどな。
 

 広間を解放すると、舵取りはそこまで上がってきた。
 ああ、盗賊団は当然のごとく追い剥ぎするよ。これが俺の収入源だからな。
 
 さて、こんどは甲板の解放だ。

「あんたはいったい何をしているのだ? 黄金のガレオン船は見つかったのか?」
「んーや、命令を待っているだけぞな、もし」
「セレーナからは何も命令を聞いてないし、助っ人が居るなんて言ってなかったはずだ。いつの間にこうなった?!」
「今でしょ!(`・ω・´)」
 

 また争いになってしまった……(。-`ω´-)
 しかしこれで舵輪も解放できた。舵取りに頼んで帝都へ戻ってもらおうかな。
 ――と思ったけど、人質となっている船主のオーミルが助け出されるまでは船は動かさないと言う。頑固なやつだな!
 

 船長室に入ると同時に、セレーネというリーダーは俺の目の前に迫ってきた。
 ちょっと近いよ! 鍵はゲキドにもらったよ!
 
「ゲキドには舵輪を見張るように命じたはず。お前は何者だ?」
「史上最強のコックです!(`・ω・´)」
 

 ダメだ、全然説得できねぇ……(。-`ω´-)
 盗賊団を説得してどうなるのかという疑問もあるけどな。
 衛兵を見習って、悪即斬でいいだろう、こんなの。
 
 これで船主のオーミルも解放できた。舵取りも甲板へ向かい、船を帝都に戻してくれることになった。
 オーミルはこの事件はすべて自分のせいだと言い出した。なんでも商売が低調だったので、ある作り話をでっちあげたのだという。
 それは黄金のガレオン船という純金製の置物の話で、前の船主がこの船に隠したという物語を作ったのだ。
 それを話のネタにして、野次馬や宝探しの冒険者がやって来て、この結果客が増える。そういう話になるはずだった。
 しかしやってきたのがブラックウォーター盗賊団で、今回の事件が発生してしまったと。
 
 まああれだ。
 宿屋を経営するより、山賊や盗賊狩りをして追い剥ぎしたほうが儲かるよ。
 宿屋もどうせ、一人一晩10Gでしょ?
 追い剥ぎしたら、一回で百人分の宿代ぐらいが余裕で稼げるよ。
 こんな市場になっているこの国がおかしいのだけどな!

 そんなことを考えながら、帝都に戻っていくまでの間、船旅を楽しんでいるのであった。
 
 ちなみにセレーネは、賞金首になっていたらしくて、帝都につくなりその遺体は引き取られていったのだという。
 助けてくれたお礼に、その賞金はそのままこちらへと譲ってくれたのだった。
 450G。
 ソリス・アレニム大金を出して買った杖の二倍以上の懸賞金を頂いた。
 山賊を狩って追い剥ぎをしてその装備を売り払った額の半分以下の懸賞金を頂いた。
 

 以上、もう杖は出来上がっているかな?
 時間も十分つぶせたし、大学に戻るとしますかな。
 
 
 
 




 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Posted by ラムリーザ