妄執 第一幕 ~ベルナドットの調査~
スキングラードの二日目の朝は、監視の監視というよくわからない展開から始まった。
この街で出会ったグラアシアは、誰かに監視されていると言っていた。そこで、ベルナドット・ペネレスから調べるという話になったのだ。
早朝、まだ日も昇っていないうちから、俺はグラアシアの家の前で見張りをしていた。
ベルナドットと家は、ちょうどその向かいにあるということなので、二つの家の入り口が見えるところで待機する。
朝五時、グラアシアが家から出てきた。結構早起きだな。
彼の話では、この後にベルナドットが出てきて彼の後を付けて監視するという話だが……
グラアシアと家の前に移動して、ベルナドットの家の入り口を見張る。
何度か探偵のしごとをしてきたが、これも探偵の仕事みたいなものだろうか?
朝六時、グラアシアの言うとおり、ベルナドットは家から出てきた。
そのままグラアシアの向かった先、教会の方へと歩いていく。
ベルナドットを追尾すると、彼女はそのまま教会へと入っていった。朝の礼拝か?
しかしグラアシア、お前は何をやっているのだ?
道の真ん中で突っ立っていて、そっちの方が怪しい気がするのだが、気のせいか?
グラアシアは「日中は話しかけるな」と言っていたので、そのまま放置しておくことにするが……
ベルナドットの監視を続けることにする。俺も礼拝を装って、彼女の隣に腰掛けた。
ん? ここも神様を祭っているのか?
お供え物とかして依頼を聞いて、お宝を貰ったりできないのか? などと思いながら、さりげなくベルナドットに話しかけてみた。
彼女は、スキングラードでブドウを育てているらしい。それは監視役としての仮の姿か? それとも本職か?
さらにさりげなく、グラアシアについて尋ねてみた。
彼女の話では、グラアシアは「かなり頭のおかしい変人」だそうで、まぁなんとなくそんな気は俺もせんでもない。
それはそれでおいといて、グラアシアが変なのか、ホントにこの人が監視しているのか調べるために、一日張り込ませてもらうよ。
しばらくすると、ベルナドットは礼拝が終わったのか教会を出て行くために立ち上がった。
俺も後を追おうとすると、突然衛兵に呼び止められてしまったのだ。
ディオンと名乗った、頭頂部がちょっとさびしい衛兵は、グラアシアの件について追求してきた。
この衛兵も、グラアシアは「変わった」住民だと思っているようで、いろいろとたずねてきたのだ。
とりあえず、「手伝って欲しいと頼まれた」と素直に答えて、相手の様子を見ることにした。本当に住民ぐるみで監視しているのなら、この一言で何かのリアクションを得られるはずだ。
すると、ディオンは厳しく言ってきた。グラアシアは、気が触れている、と。
このままグラアシアに加担すると、俺まで要注意人物とみなす、と脅しまでかけてきたのだ。
ただ、グラアシアの依頼が妙なものだったら、迷わず伝えて欲しいとも付け加えてきた。
うむ、ひとまずベルナドットの監視は続けよう。
監視を続けるだけなら何の害も無い。もしそれ以上の要求をグラアシアがしてきたら、迷わず衛兵に報告すればいいだけだ。
ひょっとしたら、衛兵も監視側の人間かもしれないからな。
ベルナドットは、日が昇るころにはブドウ畑で働いていた。
ずっと見ていたが、特に何の変哲も無い、普通のブドウ畑の従業員だ。
昼過ぎに休憩を始めたので、再び世間話を交えつつ、グラアシアについて尋ねてみた。
すると、彼女の方がグラアシアに後を付けられていたと言い、毎朝教会に行こうとすると、必ず彼が居ると言ってきた。
うん、教会には入ってないけど、教会前の道端でぼーっと立ちつくしていたね。
で、ベルナドットは普通にグラアシアに挨拶しようとしたこともあるけど、彼は全く聞こえていない振りをするのです、と言ってきた。
これはやはり、グラアシアが変人なのか?
昼下がりにはブドウ畑での仕事は終わったらしく、街へと戻っていったので、俺も街へと戻る。
丁度グラアシアが家に入っていく時と、ベルナドットが家の前を通るのが同じぐらいだった。
ひょっとして、偶然が積み重なって、グラアシアはベルナドットに監視されていると思っているんじゃないのか?
たまたまグラアシアの行動とベルナドットの行動が重なっているからさ。それにグラアシア、君は今の間に何をやっていたのだ? ひょっとしてずっと教会の前に突っ立っていたんじゃないだろうな?
ベルナドットは、それから日が暮れるまで、家の裏のワイン圧搾機の前で働き続けていた。
彼女に怪しいところは全く無く、むしろグラアシアの方が怪しいのではないか? と思わせる一日だった。
それでも夜になったら再び教会裏でグラアシアと会わなければならない……。
なんか気味が悪くなってきたので辞めたいが、グラアシアは今夜も教会裏へと向かっているのが見えたので、仕方なく会うことにしたのだ。
グラアシアは、ベルナドットが僕を監視していただろう? と聞いてくるので、俺はそんなことは無い、と言ってやった。
すると彼は、ずっと監視していると確信していたので驚いたようだ。
一応一日ベルナドットを監視し続けたことにより報酬をくれたが、グラアシアはさらに調査を依頼してきた。
今度はトーティウス・セクスティウスという人物が監視していないかどうか調べて欲しいと言うのだ。
そして、明日の晩もまたここで会おう、と。
これは何かの試練か?
しかし、監視しろだけでは妙な依頼とは言えないので、ここは聞いてあげるしかない。
また明日も朝から張り込みか、めんどくさくなってきたぞ!
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