ヴァーミルナ 前編 ~森の中の行軍~
いい加減コロルに戻らないと、ギルバートやレイナルドをどれだけ待たせるのだ、って話だ。
しかし、先日泊まったシェイディンハル橋で、耳寄りな情報を仕入れてしまったのだ。
なんでも、このシェイディンハルから南に向かった森の中に、ヴァーミルナの祭殿があるのだという。
祭殿、神様事か、この世界の神様は本当に居て、要求を達成したら宝をくれるのだ。これは行ってみる価値はありそうだ。
その祭殿には、「ブラック・ソウルジェム」を捧げるとよいらしいが、丁度手元に一つある。
先日の魔術師ギルドでの準会員行方不明事件で、ファルカールが隠し持っていたそれが一つ残っているのだ。
ファルカールの部屋からは二つ出てきたが、ディーサンは一つだけ証拠として持ち去ったわけで、何のために使うのか分からないこの黒くて細長い石は、一つある。
早速朝一で、シェイディンハルの街を出て南に向かうことにした。
ブルーマ近辺は針葉樹林だったが、この辺りは広葉樹林になっている。
朝焼け目指してどんどん南へと進んでいこう。
道なんてものはない、お日様が昇ってきているほうが東、それを左手にして進めば良いだけだ。
進めば進むほど、周囲は森の中へとなっていく。
本当にこんな所に祭殿があるのか? そもそも祭殿に居る人たちは、どういった生活をしているのだ?
神様が本当に居るってことは、信心深く生活していたら神様が何とかしてくれるのだろうか……。
ってか俺、神様相手に八方美人なことやってて良いのだろうか? 普通、どれか一つの宗派に絞るよな?
待てよ、世の中には八百万の神々を祭る国もあると聞く。十や二十の神様を信仰しても、不都合はなかろう。
そもそもナーミラのような不浄なる神様が居ること自体が妙なのだ。
そんなことを考えながら進んでいると、いよいよ深い森に突入って感じになってきた。
あの中に入っていくのか……
戻ってこれるのだろうか……
道なんてものはどこにもない。お日様の位置だけを頼りに南下するだけだ。
これで何もなかったら、遭難しちゃうなぁ。
………
……
…
そろそろお日様も頂点に、ってぐらい南に進んだ時、その深い森の中にそれは姿を現した。
あったよ、祭殿。
この人たちがどんな生活を送っているのか、さっぱりわからないけどね。
この森の中に、隠れ里でもあるのだろうか……
ここの司祭らしき人と話をすると、ヴァーミルナと話がしたければブラック・ソウルジェムを捧げよ、と来た。
他の人の話では、ヴァーミルナは夢をつかさどる神様らしきことを言っている。
夢の中か、行ってみたいと思いませんか?
早速ブラック・ソウルジェムを捧げてみると、これまでと同じように神様が語りかけてきた。
これは俺にだけ聞こえているのか? それともこの辺りに居る人全員に聞こえているのだろうか?
再び会えたな、とか言っているが、初対面です。
と思ったけど、ヴァーミルナの言い分では、夢の中に棲んでいるからということで、夢で会ったとでも言うのだろうか。
俺はこの世界の人間ではないが、最近そんなことはどうでもよくなってきている。
力を貸せというなら貸しましょう。ただし、お宝はきちんと頂戴ね。
で、ヴァーミルナの話では、アルクェイドという魔術師が、オーブを奪い去ったという。
そのオーブを取り戻して来いという話だった。なんでもそのオーブは、信徒の夢の中にあったもので、アルクェイドによって目覚めの世界に持ち込まれたとか。
夢の中にあるものを持ち出す……
そのうち、鍵爪をつけた夢の中の殺人鬼の帽子でも持ち出すのだろうか?
というわけで、アルクェイドの住む塔があるという、さらに南へ向かうことになった。
静かな湖畔の森の影とでもいうのか、良い景色だ。
しかし森は酷い。
ついに視界まで遮られるほどの深さになってしまった。
アルクェイドも変なところに住みたがるものだ。