コインの表と裏 前編 ~ラムリーザキック炸裂!~
こうしてブルーマの街で生活していると、いやおうなく馴染んでしまう。うむ、実に馴染むぞ!
物乞いなどがお金を恵んでくれなどと言ってくるが、俺も無いけど心配するな、見ろよ青い空――
レイニル事件でいくらかの収入を得ることができたが、魔術師ギルドで定期的な収入を得ることができない以上、無駄遣いはできん。
などと、街の人と雑談とかしていると、いろいろな情報が入ってくるのだ。
今日は、ブルーマで起きた事件を一つ。
アルノラという人が住んでいて、ボーイフレンドのジョランドルにお金を盗まれて一文無しらしい。
それで現在、彼は牢屋で、彼女は極貧生活だそうだ。恋人にお金を盗まれるなんて、気の毒な話だ。
この話はお金になりそうになかったが、ブラブラ生活するのも退屈なので、一つこの問題を解決してあげますか。
さて、噂話ではこの二人は元々仲の良い恋人だったが、ジョランドルが強盗をして、その際に捕まる前に二人のお金を全部持っていって隠したのだそうだ。
んで、ジョランドルはアルノラを捨てて逃げ出そうとしたけど、その途中で捕まってしまい、今に至ると――。
うん、事件を解決して、隠したお金を分けてもらえたらいいかもな。
早速アルノラの家へと向かう。
アルノラは、地下で魔法の修行でもやっているみたい。
そんなに魔法が好きなら、魔術師ギルドに入ればいいのに。
新入りができて、イタズラの実行犯を代わってもらえ――
そんなことはどうでもいい、とにかくジョランドルのことを聞いてみよう。
しかし、知らない人には元恋人の話をしたくないと言い出すのだ。仕方が無いな!
はい、魅了っと。
これで話をしてくれる気になったし、盗まれた金を取り戻せばいくらか分け前をくれるらしい。
そうこなくちゃ!
えーと、話を要約すると、二人は輸送している物資を強襲して奪い、山に隠れていたが、アルノラが食料を集めに離れている間に、ジョランドルは捕まってしまったということ。
その時、奪ったお金は無くなっていて、彼が別の場所に隠したのだ、と。
そういうわけで、ブルーマにある城の地下牢に囚われているジョランドルに会って、金の隠し場所を聞き出すことになった。
石像のモチーフは誰だろう? なんか叫び声をあげているように見えるが……?
ジ=スカール先輩もどうせイタズラするなら、この石像を動かして街をパニックに陥れてみろってんだ。
そういうわけで牢屋だが、衛兵の監視付きじゃないと囚人に面会させてもらえないらしい。
この状況で金の隠し場所を聞き出しても、側で聞いていた衛兵が先に取り上げてしまうんじゃないだろうか……。
そんな心配もしながらジョランドルに話しかけてみたのだが、やっぱり信用されていない。
衛兵のティレリウスの手先も嗅ぎまわっているようで、用心深くなっているみたい。
ならばこうだ、魅惑の術!
……無駄だった。好感度関係なく、話をしたくないのね。
このことをアルノラに伝えると、彼女はとんでもないことを提案してきやがった。
彼に全てを喋らせるために、捕まって彼と一緒の牢屋に入れ、と。
「なんで俺がそんなことせんといかんのや?!」
「上手くいけば、手に入ったお金をいくらかあげると言ったはずよ」
「んじゃ、この家にあるものを盗んでいくかな」
「それはやめて」
「では、どうしろというのだ?」
「衛兵にワンパンでも入れれはいいんじゃないかしら」
「…………」
えーと……
騒乱罪ぐらいなら、一晩ぶち込まれるだけで済むかな?
流石に殺人とかやったら、死刑もありうるからいかんな。
そういうわけで、ほとんどやけくそで衛兵に飛び掛った!
この世に悪がある限り、俺は戦い続ける! 衛兵覚悟!
ラムリーザキック!!
待てよ、突然暴れだしたら狂人扱いされてしまうかも……
しまった、酒でも持ち歩いて飲みながらやればよかったか?
ほら、よく言うじゃないか、酒が罪を被ってくれるから人間が救われると……
後の祭り……
いや、何も盗んでいません!
罰金? 衛兵暴行は罰金で済むの?!
あーでも今回は、服役しなければいかんのだな、仕方が無い。
こうして俺は、ブルーマに来て二週間もたたないうちに、牢屋に入れられることになったのである――
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