ここはどこだ? 死後の世界?
遥か遠くで、耳鳴りのようにかすかな雑音が、こだましているような気がした。
初めはやさしくサラサラと、そして突然激しく、またやさしく、再び荒々しく……。
それは次第に大きくなり、やがてはっきりと聞き取れるほどになっていった。
この音は、海……そう、砂浜に打ち寄せては引いていく、それは波の音だった。
俺は突然意識を取り戻した。打ち付ける波の音が心地よい。しかし、ここはいったいどこなのだろう。
草むらの中で身を起こして周囲をうかがってみる。明らかに知らない場所だ。
海の中に二つの岩山がそびえ立っているが、妙に殺風景だ。
ここはいったいどこなのだろう?
俺はもう一度頭の中で問いかけてみる。
しかし、何も答えは出なかった。ひょっとして、俺はもう死んでいて、ここは死後の世界なのか……?
俺は嫌な予感を振り払って立ち上がった。どうやら身体に異変は無いようだ。
殺風景な岩山のある海とは反対側は、断崖絶壁になっていた。
こんな山、登れるわけがない。
山肌は岩がむき出しになっていて、これまた殺風景。
空の色だけが、心を落ち着かせてくれる。
しかし、本当にここはいったいどこなのだろう?
俺は、断崖絶壁と海に挟まれた、狭い陸地を北だと思われる方向へと進んでいった。
歩いていくと、やがて断崖絶壁はなだらかとなり、山の頂上が見えるようになってきた。山の頂上には、数は少ないが樹木が生えているのが確認できる。
よかった、一応生命はあるようだ。
山肌は相変わらずごつごつとした岩肌だが、なんとか山頂まで行くことができれば、希望が見えてくるかもしれない。何に対しての希望なのかは不明だが……。
俺は、岩山を登ってみようと試みた。しかしそれはすぐに無駄な努力だと分かった。
岩肌にはつかむところがほとんど無く、それに俺はロッククライミングが得意なわけではない。というかやったことはない。
しかたなく、平地を歩んでいくしかなかった。相変わらず、山と海に挟まれただけの地で、他には何も無い。
さらにしばらく歩くと、岩山が途切れているような場所にたどり着いた。
これなら登山のように歩いて登っていけるかもしれない。
海岸ばかりにいても仕方が無いので、俺はなだらかになった所をゆっくりと登っていった。
岩肌は徐々に土の地面に変わり、ところどころにキノコが生えていたりしている。
それに、最初に見た断崖絶壁の場所とは違い、ここはそれほど高度は高くなかった。
山頂に到着すると、一息つく。
ここまでくれば、先ほどまでの殺風景さは無くなり、ふつうの自然といった感じになっている。
周囲を警戒しながらしばらく進むと――
はて、あの塔はいったい何だろう?
とりあえず建造物があるということは、誰かが住んでいるかもしれない。
俺は、ひとまずここがどこなのか知りたいので、一刻も早く誰かに会いたかった。
そういえば、ここに来てから誰にも出くわしていない。
生命と言えば、樹木とキノコだけだ。
建物の側までたどり着いた時には、そろそろ日も傾きかけていた。
どうやらこの世界にも、昼夜の概念はあるようだ。なかったらなかったでそれは困るが……。
しかし建物の左側にある石像が普通じゃない。悪魔か何かをかたどっているのか?
どっちにせよ、この建物の住人は普通じゃないかもしれない。
しかし迷っている場合ではない。
俺は建物への入り口を探した。
建物は塔のようだが、それほど高いわけではない。しかし、どこを探しても入り口らしき場所は見当たらなかった。
あったのは、魔方陣。塔の正面には、この魔法陣のみが存在していた。
ひょっとしてここに立つと、自動的に塔の中に入れるのだろうか?
悩んでいても仕方が無いので、俺は意を決して魔方陣の上に立ってみた。
すると、あっさりと塔の中に入れたようだった。
「ごめんください~」
とりあえず声をかけてみる。しかし、反応は無かった。
それもそのはず、建物の中には誰一人として人は住んでいなかった。
空き家か? それとも外出中か?
空き家にしては立派な内装だから、きっと誰かの住処なんだろう。
塔の屋上へ出てみた時には、すっかり夜になっていた。
離れた場所に、もう一つ建物があるようだ。
いずれは訪れてみようかと思うが、ひとまず今日は休むとしよう。
誰か知らないが、この塔の住人が戻ってきた時には、事情を説明して……