中毒はなはだし 後編 ~焦がれ根の巣、ダンルート窟にて~
セイドン公爵の依頼で、反転の杯を探し出してくることとなった。
その杯は、焦がれ根の巣、ダンルート窟という場所に隠されているらしい。
しかし、その洞窟に入るには、フェルデューという物を摂取する必要があるという。
フェルデュートハ、エリトラの体液。そして、麻薬のようなものなのだ。
俺は、ものすごく嫌な仕事を引き受けてしまったような気がする……
ダンルート窟前には、エリトラが待ち構えていた。
緑娘は新しい弓を試しているようだが、その距離、弓である必要があるか?
弦を離す前から、既に鏃の先がエリトラに刺さっているのですが!
文字通り、ゼロ距離射撃ですなぁ……
それで、こいつの体内には、体液とフェルデューが存在するわけで……
「何よ、気持ち悪いわね」
「俺もこんなの口にしたくねーよ!」
「そんなのやめちゃえばいいのに」
「依頼をこなしていかないと、戦慄の島をこの手にできないと思うけどな」
「あっ、それ飲みなさい! 飲んで反転の杯を取ってくるのよ!」
「…………(。-`ω´-)」
他人事だと思って好き勝手言いやがる。
最初は俺の身体を心配してくれたが、この島の覇権を口走ったら突然反応を変えたな?
当然緑娘はこんなの口にしたくないと言って、焦がれ根の巣には俺一人で向かうこととなった。
ちなみに、フェルデューの採取できるエリトラは、表面が淡く緑色に輝いているのな。
さしずめこいつは緑虫といったところか。
焦がれ根の巣入り口は、見たこともない壁で閉ざされていた。
確かにこれだと中へ進めない。
俺は意を決して、フェルデューを口にしてみた。
甘くて辛くて苦くてしょっぱくて、なんだかハッピー!
おおっ、なんだか目の前が開けたような気がするっ!
これで先に進めるのだね!
なんだかよくわからない高揚感に浸りながら、焦がれ根の巣内部へと入っていった!
「れええぇぇぇぇいほおおぉぉぉのゆびっ! かぁいりょおばーじょんっっ!!」
雷撃のドカーン!
おお、快なり快なり!
これはまさに、未成年には辿りつけぬ秘境そのものだねっ!
しかし……
「苦しい……、苦しいーっ。薬が切れて苦しい……」
徐々にフェルデューの効用が薄れ、進む力が失われてきた。
足が重い、腕が重い、身体がだるい……
これはやはり、続けて服用する必要があるのか……?
洞窟の中で見つけた緑虫、フェルデュー持ちのエリトラを退治して、再びフェルデューを採取して摂取する。
びよーん、ばよーん、ぼよーん!
くの字に曲がった背中も、三段階をへてシャキーンと戻るのであった。
甘くて辛くて苦くてしょっぱくて、なんだかハッピー!
「らあああぁぁむるうぃぃぃーずぁぁぁびいいぃぃぃぃーーーーむぅぅっ!」
光の矢がズババババーン!
向かうところ敵なしだぜ!
パーフェクトは強さ! パーフェクトこそ真実なりぃぃぃっ!
しかし……
「苦しい……、薬が切れて苦しいーっ……」
徐々にフェルデューの効用が薄れ、以下同文――
こうして俺は、エリトラを退治しつつ、フェルデューを摂取しつつ、洞窟の奥へと進んでいった。
フェルデューって、すぐに効果が出てくるけど、切れるのも早かったりする。
たぶんなんだか暗い未来しか見えない……などと薬が切れたときにはそう思うのだが、摂取すればそんな不安は消し飛ぶのだ。
気がつくと、洞窟の奥に石造りの遺跡が隠されていたね!
こういうのを見ると、なんだかわくわくしちゃう!
遺跡内部の見た目は、これまでに見てきたものとほぼ同じ。
違うのは、なんだか血走った目つきをした集団が住み着いていることだけ!
「フェルデューが来たぞ! 飲ませろ!」
「ひんじ! ひんじ!」
「まごろすきまりのまーきんぐ!」
「おしょっきんぐばーなーどおおおぉぉっ!」
「黙れ、さぶっちー共が! その昔、うまいラーメンを、らうめんといっておりましたーっ! トゥルットゥー!」
「召しませ、らうめんーっ! このひどひどぼんだー共がっ! トゥルットゥー!」
ここに狂人vs狂人集団の戦いが勃発したのであった。
お互いに意味不明な叫び声を挙げながら、どたばたと暴れ続ける。
殴られても全然痛くない、これぞフェルデューの神秘なりーっ!
「ぱぁろおおぉーーーまああぁぁぁぁっ! こぉんぐぁるぃぃーーー、ていっ! トゥルットゥー!」
叫んでいる言葉は意味不明でも、俺がやっていることは、集団相手専用のプリズムスプラッシュで動きを止めて、火炎放射でこんがりと焼くだけであった。
薬の力で高揚しているとはいえ、戦法だけは身についているのだね、トゥルットゥー!
しかし……
「苦しい……、苦しいーっ。薬が切れて苦しい……」
戦いで興奮したためか、一気にフェルデューの効用が薄れ、進む力が失われてきた。
足が重い、腕が重い、身体がだるい……
しかたなく、採取してきたフェルデューを摂取する。
びよーん、ばよーん、ぼよーん!
くの字に曲がった背中も、三段階をへてシャキーンと戻るのであった。
甘くて辛くて苦くてしょっぱくて、なんだかハッピー!
この広間の中央に、それはあったぞこんちくしょう!。
まるで杯を上下逆さまにしたような物、反転の杯だ、やったねらむちゃん!
そしてこの杯を手にしたとたん、先ほどまで身体を支配していた気怠さや狂気は、いずこかへと消え去っていたのであった。
ちなみに奥のテーブルに置いてあるのが「フェルデュー」な。
あからさまに身体に悪そうな代物だということが、お分かり頂けるだろう。
こうして俺は、焦がれ根の巣、ダンルート窟で、反転の杯を入手するのに成功したのである。
なんだかご都合主義みたいに薬の副作用が消え去ったが、そこはまぁ気にしない。
………
……
…
「ほいっ、反転の杯一丁!」
「勇者の凱旋だ! ――で、この経験を通じて違いは感じるか?」
「いいえ、わかりませんっ」
「次の一服が欲しいだろう? 私はこの盃で一服するが、これがまた自己嫌悪!」
「お薬なんて、止めたほうがいいと思います……」
「いいのいいの、聖杯が助けてくれるさ。それよりもだ、いやあ、あんたがゲートキーパーと戦うのを見たよ。狂気の門の番人が倒されると思った者などいなかったのに、あんたはそれを皆に見せつけてやったんだ! ハハハハハ!」
「情報が古いです、公爵閣下……(。-`ω´-)」
「勇者には、マニア廷臣の称号と、その全ての特権を与えよう」
「忝い」
――で、結局俺は何なのだ?
ディメンシアの廷臣か? マニアの廷臣か?
ここまでの話でなんとなくだが、マニアとディメンシアは相反しているような感じだった。
二人の公爵を助けてあげた結果、自分の立場が余計ややこしくなったような気がする……
人はそれを、蝙蝠と呼ぶ……(。-`ω´-)
あとはおまけ、シェオゴラスの間に、反転の盃を大きくしているものが飾られているのだった。
どうやら俺の活躍を、オブジェクト化して飾ろうという魂胆があるみたいだね。
「どうだ、これが反転の杯だ。聖杯にも見えるだろう」
「この杯で水を飲んだら、一瞬で老化してミイラ化して骨だけになって砕けて塵になりそう」
「なんやそれ……(。-`ω´-)」
なんか知らんけど、恐ろしい杯もあったものだ……
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