エブロッカの砦にて ~火葬場とディンの灰~
さて、エリトラをミリリに届けて身軽になったので、改めて見つけた遺跡を探索することにした。
ミリリの話では、「エブロッカの砦」という名前らしく、主に遺体を火葬して、その遺骨を集めた納骨堂としての役割を持っているらしい。
ハイクロスの町から見て、ぐるりと回ったところに砦の入り口はある。
まるで侵入者を始末する任務を帯びているかのごとく、スケイロンがこちらに駆け寄ってくるが、接近される前に霊峰の指一発で終わらせるのであった。
「なんだかゲートキーパーみたいなのが倒れているな」
「つまり、ここに死霊術師が居るのね」
かつて遺体を火葬して、遺骨を集めていた納骨堂。
つまり、ここには多くの遺体が運び込まれたわけで――
まさかな……?(。-`ω´-)
ちなみにこのちっちゃいゲートキーパー、ヴォイド・エッセンスなる赤い宝石を持っていた。
素材かただの宝石かわからんけど、珍しい物は一応回収しておく。
――と思ったけど、ミリリから受け取っている錬金素材のメモに、しっかりと書かれていたりして。
「ちょっと待って」
「なんぞ?」
「ここにはあたしと一緒に冒険できる以外の宝はあるんでしょうね?」
「ある。もしも死霊術師が住み着いているのだとしたら、どうする?」
「東部連峰で羊さんを皆殺しにした罪は許せない!」
そう言えばそんなことは――無かったか。
あの時は山賊が羊肉を集める名目で、東部山脈農場で飼われていた羊を皆殺しにしたことがあった。
それを知った緑娘はすごく怒ったものだが、それを死霊術師の責任ということにして、緑娘の死霊術師に対する憎悪を煽ったっけ。
実は山賊でした、などといまさらネタばらしするのもあまり意味が無いので、そのまま死霊術師がやったことにしている。
まぁ死霊術師は良くない連中なので、緑娘の敵意を買っておかせるのも悪くないだろう。
遺跡の中は、遺体を集めて納骨堂になったという経緯もあり、やたらと骨が散らばっている。
棺桶が立てかけられているのは、ここに棺桶を持ちこんで、中身の遺体を火葬にしたってことだろうね。
「俺がこの中で寝るって言ったらどうする?」
「吸血鬼って呼んであげるわ。ただし、邪な土を敷き詰めてから寝てね」
「ここは火葬場らしいが、君はどういった埋葬を望む?」
――などと質問してから、今頃リリィは向こうの世界における緑娘の遺体を埋葬したのかな、などと考えたりした。
「そうねぇ、棺を担いでみんなで歌い踊りながら墓地まで運んでもらいたいわ」
「なんやそれ」
「忘れたの? ああ、覚えてないのね。あたしたちの生まれた村では、よく生きてよく働いて、ご苦労さんって言われて死ぬのはめでたいって言われていたわ」
「子供や若い者が死んでも?」
「それはいけない、めでたいとは言えないわ」
「そうか……(。-`ω´-)」
どっちにせよ、めでたくはなかったわけだ。
こういう所も火葬場らしいといったところか?
観察者の目という謎の錬金素材らしきものがあるので頂いておく。
遺跡のどこにも棺だらけだ。
奥の間は、床が開閉する罠になっていて先に進めない。
下を見ると、地面から無数の針が突き出ているのがわかる。
つまり、飛び降りると串刺しになってしまい、さようならってわけだ。
それ以外と言えば、剣や盾の置いてある武器庫のような場所だった。
と言っても、盾四つに剣が一本だけ。後はチェストにいくつかの薬が入っているのみ。
盾が多いのが妙だ、防御しか考えていないのかな?
「というわけで、盾を構えてみたぞ」
「大きすぎて、こっちが見えてないでしょ?」
「君は何でいつも俺の装備に否定的なんだよ」
「だって似合わないんだもん。それよりもそこにあるスイッチ押しなさいよ」
どうせ俺は魔術師ですよ、と。
無骨な装備は戦士に任せたらいいんだ。元戦士ギルドのマスター緑娘とかさ。
――とまぁ緑娘の指摘した通り、盾に隠されていたがその下にスイッチがあったりするのだ。
「これを押したら、天井が崩れてきたらどうする?」
「避けるから大丈夫。それよりも、向こうのトラップが止まると思うわ」
「なるほど、奥に進めるようになるわけだな」
俺はスイッチを押してみた。
グオゴゴゴと、近くから重たい石が動くような音が、部屋に響き渡る。
「ところでこの盾だが――」
「なんだか通路が開いたわ。行ってみましょうよ」
「盾は?」
「要らない。円盤みたいに投げてしまいなさいよ」
まぁ実のところ、俺も要らんのでその辺に放りだして、新たに表れた扉の先へと進んでみることにした。
扉の奥は、武器庫よりも広い部屋になっていて、大きな斧を構えた骨が、こちらに襲い掛かってくるところだった。
針を骨の隙間に突っ込んでしまっては意味が無い。
しかし緑娘は、頭蓋骨を貫くように蹴り刺すのであった。
これで骨も緑娘の敵ではない。
あとは実体を持たないゴーストとか、軟体動物のスライムが難敵と言ったところか?
「火葬場のブレゴールを退治したわ」
「ただの骨に、勝手に名前を付けるな」
さて、この部屋の住民は他には居なさそうなので、落ち着いて周囲を見回す。
テーブルの上に、鍵と宝石、そして火葬の方法を書かれた書類が一通。
内容は、タイトルそのまんま火葬の方法で、装備とか関係なしに、容器に遺体を入れてスイッチを押すだけだという。
思ったより簡単なのだな、火葬とやらは。
テーブルの隣にある棚やテーブルには、無数の壺が置いてある。
そして、中には遺灰が詰まっいるのであった。
「何遺灰を集めているのよ」
「遺灰も錬金素材になるんだよ」
「あ、そうなの」
基本的に「死灰」というものが詰まっている。
しかし、壺の一つにだけ「ディン」と名前が彫られていたりするのだ。
なんだろう? ディンの遺灰かな? ディンってだろだろうね?
アリクイが大きくなれば、オオアリクイ。ディンが大きくなったらオーディンかな?
アリクイがお化けになればオバケアリクイ。ディンがお化けになればオバケディン。
そしてアリクイを火葬したら、アリクイの遺灰が残り、ディンを火葬したら、ディンの遺灰が残るといった寸法か。
アリクイを例に出した意図は、無い。
部屋の一角に、鉄格子の向こうに置かれた箱があったりする。
書類に書かれていた容器かな?
試しに骨や要らない道具を中に入れて、扉の傍にあるスイッチを押してみる。
ん、全部灰と化しましたとさ。
「さて、他に見るべきものも無いし、そろそろ引き上げるか。
「で、お宝は何かしら?」
「ディンの遺灰……」
「知らない人の遺灰を集めて何になるのよ」
「錬金素材……」
形勢は不利だが、ミリリのために素材を集めてあげたということにして、緑娘の追及を避けるのであった。
元来た道を戻ると、どのスイッチと連動していたのか知らないが、別の部屋が開いていたりする。
そこに置かれている物は――牢屋?
「俺がそこに入ってみたいと言えば、どうする?」
「入ってみなさいよ」
普通の反応だな。
自分から牢屋に入りたいなんて変、などと言ってくると思ったものだがな。
そんな反応をされたら仕方がないので、牢屋の中に入ってみたのだ。
「えーと、そこに座り込まれたら、出られないのですがー」
「罪人は大人しく、その中で服役しなさい」
「……(。-`ω´-)」
やはり遺灰しか手に入らなかった探検に、緑娘はご立腹のようであった。
おしまい。
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