スプリットの村にて 大いなる隔たり ~とりあえず保留~
実は腐れ林――不浄なる森に訪れた時、近くに町の存在を確認していたりする。
この通り、不浄なる森側から見ると、三段キノコに挟まれた橋から見えるその先に、建物が見えていたのだ。
今回は、そこへと向かってみる。
ニュー・シェオスかもしれないからな。
ざっくりと全景はこんな具合である。
ヘイルの村よりも規模が大きいので、ここがニュー・シェオスかな?
入り口近くに二人の女性が居たので、まずはここがどこか尋ねてみよう。
「こんにちは、ここはニュー・シェオスですか?」
「いいえ、ここはスプリットの町ですよ」
「ニュー・シェオスではなかったか。ところで、あなたの名前は?」
「私はジャステイラです」
「こんにちは、ジャステイラさん。私はラムリーザです、そちらの方は?」
「私はジャステイラです」
「は?」
顔がそっくりだなと思ったら、名前も同じ、双子かな?
確かマリオブラザーズって、マリオ・マリオとルイージ・マリオの兄弟だったよな?
さしずめこの二人は、ジャステイラ姉妹ってところかな?
――と思ったら、二人ともジャステイラ・ナヌスらしいのだ。
まぁ、同姓同名の人も居るよな?
顔もそっくりで同姓同名――ルイス・レットラッシュとか?
「そうだあなた、丁度いい所に来たわ。私の相方を始末してくれないかしら?」
「相方?」
「待ちなさい、私の相方こそ最悪。もう一人のジャステイラなんて大っ嫌い!」
「ちょっと考えさせてください!」
俺は急いで二人の女性の傍から立ち去った。
名前も同じで容姿もまっつくついの二人、ついに俺も狂い始めたか?
本当は目の前には一人しか居ないけど、狂った脳が幻覚で二人に見せつけているのだろうか?
背後からは、「ホルクヴィルに話をしてなんとかしてもらって!」などと聞こえてくる。
幻聴でなければよいけどな……
町の中央部は、露天の食堂となっていた。
丁度夕食時なのか、結構賑わっているようだ。
オーク二人にカジート二人、そっくりなような気がするけど、気のせいかな?
同じやん!
二人ともジ=ザゾやん!
「テフラ……、俺は狂ってしまったのかもしれん……(。-`ω´-)」
「何を言っているのよ」
「なんか同じ人が二人居るように見える……」
「そこのカジートなら二人居るわ」
「えっ?」
なんだと?
本当に二人居るのか?
緑娘も狂っている……のかなぁ?
いや、このオークもまっつくついだよね?
とりあえず、ホルクヴィルって人がこの町の長らしいので、彼を探すとしよう。
――と思ったら、そのホルクヴィルも一緒に食事をしていたよ。
「えっと――、なんでこの町には同じ人が二人居るのですか?」
この質問も要領を得ないな。
しかしそう表現するしかないのだから、仕方がない。
「魔法使いだよ、のらくら魔術師め。人間には二面性があると仮説を立てて、呪文を使いやがったんだそしたら見てみろよ!」
「二つの面が実体化し、二人に増えたってことですか?」
「その通り! 仕事量が倍になったか? 違う! こんなの馬鹿げている! 奴らは何の仕事もせん!」
妙な魔術師もおったものだ……
――などと、元アークメイジが考えてみるテスト。
この戦慄の島では、魔術師ギルドの目が届かないことを良いことに、妙な実験をする奴が何人か居るようだ。
例えばゲートキーパーを生み出してみたり、人を分裂させてみたり。
「我々では始末できない。自殺なんかして自殺の丘へ行きたくないんだ。だから他の誰かの手で始末しなければ……」
「では、どうしろというのだ?」
「ディメンテッド派を始末してくれ、とにかく役立たずなんだ。ここに居る資格があるのはマニック派だけだ!」
「ん~、考えさせてくれ」
「早く決断してくれよ! それと、ディメンテッド派のホルクヴィルには近づくな!」
とりあえずこの場では、首を縦に振ることは控えておく。
このホルクヴィルが言うディメンテッド派とは、ディメンシアの住民ということなのだろう。
ということは、片割れであるこのホルクヴィルはマニック派、つまりマニアの住民ということか。
俺は、マニアの住民側のホルクヴィルの傍を立ち去り、町の奥へと向かった。
背後からは、「あいつも同じ取引をしてくるだろうが、信用するな!」などと聞こえる。
スプリットの町奥には、やはり同じ顔をしたホルクヴィルが居た。
こいつがディメンシアの住民側のホルクヴィルなのかな?
「あなたがホルクヴィルですか?」
「そうだよ。魔術師の仮設で我々は二面性を持っているのだとさ。呪文を唱えた結果見てみろよ!」
「同じ人が二人ずつ居るのですね」
「そうだよ! そこらを分身が歩き回っている! 働きっぱなしのマニック派を見ていると、気力が空になっちまうよ!」
同じことを言っているな。
ほいでもって、自殺するのは嫌だから、俺にマニック派の始末を依頼してきたわけだ。
見た目と名前は全く同じ。違うのは、マニック派は働き者で、ディメンテッド派は怠け者だと言うらしい。
どちらかを残せと言われたら、働き者を残した方が良いと思うけどなぁ……
「それで、あなたはどうするのかしら?」
「ん~、個人的な考えで言うと、マニック派を残す方がこの町の未来は明るそうだ。ディメンテッド派は怠け者らしいからな」
「それじゃあ、ディメンテッド派を始末するの?」
「いや、その決断を下すのはまだ時期尚早だろう」
戦慄の島には、マニアとディメンシア、二つの地域がある。
この町の住民は、分裂させられたという迷惑な事態に巻き込まれているから、俺に相方の始末を依頼してきたわけだ。
しかし、まずはこの世界をよく知ろうと考えた。
マニアとディメンシア、それぞれをよし視察して、もしもそれらが派閥抗争をしているとしたら、どちらかに肩入れするか、双方放置するかの決断を迫られる時が来るだろう。
俺にとって、マニアが味方か? それともディメンシアが味方か?
この町での行動に結論を出すのは、それを見極めてからでよいだろう。
マニアが味方となればディメンテッド派を始末すればよいし、逆にディメンシアが味方となればマニック派を始末すればよいだろう。
この依頼は、とりあえず保留だ。
そこで俺たちは、一旦この町から立ち去ることにした。
自殺は嫌だというから、俺が介入するまで動かないだろう。
いや待てよ――?
これはメファーラの陰謀で壊滅したブリーカーズ・ウェイの二の舞にならんだろうな?
いや、元々一人だったのを分裂させられただけの様だから、町を元の姿に戻すだけと考えてもよいのだろうが……
まあよい。
マニアとディメンシアを知って、もっと関わってから決断を出そう。
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