ヘイルの村にて ~フラー! 再び~
ニュー・シェオスへ向かう旅を続けている。
その俺たちの前に、マニラの地における初の居住区が現れたのであった。
「よし着いた。あの石門みたいなのをくぐれば、ニュー・シェオスがいよいよニュー・シェオスというわけだぞ」
「それを言うなら、シェオゴラス退治がいよいよシェオゴラス退治でしょう?」
「しっ、そういうことは表に出さない方が良いぞ、と。奇襲攻撃がばれてしまう」
「奇襲するんだ」
石の門をくぐって少し歩いたところに、その集落は広がっていた。
ニュー・シェオスの宮殿にしては、思ったよりも質素な感じになっているね。
建物は三軒、目につく人は四人だけだ。
相変わらずの巨大キノコや、四段重ねのキノコが謎すぎるが、それ以外はシェオゴラス関連ではボーダーウォッチみたいな規模だな。
「さて、アイシャンの遺跡では右手の道は失敗だったから、左手側から当たってみよう」
「左側も意味が無かった癖に」
入り口から見て左側に居た人物は、個性的で好みの分かれるところであろう髪型をした人が、何やら帳面に記録を取っている。
「こんにちはですか?」
「こんにちこんにちこんにちは! 立派な種馬のような優美さで、ごきげんようと挨拶させていただきます、いただきます」
「テンションたけーな、それとごきげんようはお嬢様学校の挨拶だぞ、と」
マニアの地は、華やかで活気に満ちているとハスキルから聞いている。
また、先程立ち寄ったダイア・ウォレン洞穴では、「街があまりにも賑やかすぎて、劣悪な環境だから嫌だ」とトレイリウスが記していた。
「あなたはすばらしい落ち着きと、とんちをお持ちのようですね。ハリオンとして知られる詩人が言ってますよ」
「悪いが、そのハリオンという詩人を、俺は知らない」
「そんなはずはないですよ、会っていますよ絶対に!」
「知らんと言ったら知らん。ハリオンって誰だよ?」
「私ですよ!」
「…………(。-`ω´-)」
これがこの地のテンションか……
ついていけるかな? 俺……
「それよりもです! あんたがゲートキーパーと戦ったのを知ったよ。狂気の門の番人が倒されると思った者などいなかったのに、あんたはそれを皆に見せつけてやったんだ! ハハハハハ!」
「嘘をつくな! パスウォールの村ではシェルデンとフェラスしか見ていなかったはずだ!」
「おなたは最近の流行を御存知では無いようで」
「なんぞ?」
「伝書鳩ですよ。シェルデンからお便りを受け取りました」
「…………(。-`ω´-)」
広まったな……
いや、こいつだけかもしれんけど。
ハリオンを相手にしていたらめんどくさそうなので、左回りに建物も見ていくことにする。
しかし、鍵がかかっていて入ることはできない。
ノクターナル産の不壊のピックがあるから、この扉に関しては錠開けはたやすいことだが、衛兵がうるさいだろうから今は止めておく。
待てよ? この世界に衛兵は居るのか?
正面の家も鍵がかかっていたので、傍で野良仕事をしているアルゴニアンに話を聞いてみる。
全然耕せていないようだが、まぁ好きにやらせるがよかろう。
そういえば、ここがニュー・シェオスかどうかも聞いていなかったな。
「こんにちは、ここはニュー・シェオスですか?」
「私は誰なの?」
「は?」
「あなたは失敗や裏切り、まやかしについてどう思いますか?」
「は?」
「私は価値のない詩人であり、自分の愚かさの奴隷でもあるのです」
なんだか話の要領を得ないな。
狂っているのか? ――ってここは狂気の世界か。これが、普通なのかもしれんな。
しかし、自分が誰かもわからないような奴に、ここがどこだか尋ねるのも愚だというものだ。
ただ、こいつも詩人だということは確からしい。いや、自称かもしれないけどな。
「あなたの名前は何ですか?」
「高い木から落ちるのよ」
「は?」
「高い木から落ちるの、あなたも一日を台無しにしないように」
だめだこりゃ。
全然耕せない野良仕事をしつつ、自分は詩人だと言い張るったりする。
さっきのハリオンって奴は、テンション高いだけで一応物書きはやっいてた。しかしこいつはダメだ。
恐らくこいつの言う通り、高い木からでも落ちて頭を打ったのだろう、かわいそうに……
高い木と言えば、巨大キノコか。あれに登ったのか。
「私はさよならを言うのが苦手です」
「だったらあの日交わした青空の下で、さよならのかわりに誓っておけ」
このアルゴニアンは、なんだかよくわからないので、適当に会話を切り上げて最後に右側へと向かう。
結局ここがニュー・シェオスかどうかも確認できないぞ、困ったね。
こいつは詩人ではない、画家だね。
何も描かれていないが、今描き始めたばかりだと信じよう。
くれぐれも、オレインのような絵は描くなよ。
そしてくれぐれもだが、これで完成したなどと言うなよ。
「こんにちは、ここはニュー・シェオスですか?」
「いいえ、ここはヘイルの村です。それよりも聞いてください!」
「その先を言うな……(。-`ω´-)」
「そ、そんな、パイクについてお願いしたかったのに」
ぬ、疑心暗鬼に陥っていたか?
そうだな、何羽も伝書バトを飛ばすわけがない。
さっきのハリオンって奴も詩を書くことしか興味無さそうだし、この人も絵を描くことしか興味無さそうだ。
それにしてもヘイルの村か、ハスキルもそんな集落があるって言っていたな、確か。
芸術家の村とでも言うのだろうか?
「パイクを助けてやってください。惚れた身としては、あんな彼を見るのは辛いのよ」
「ん、なんとかしてやろう」
「ありがとうございます! 私はゾーイ・マリーン、パイクはすぐそこで本を読んでいます」
マリーンの言う通り、彼女のキャンバスの前で、本を読んでいる男性が一人。
パイクという者の自画像を仕上げたいのだが、もっと笑顔になってから描きたいとも言っている。
じゃあ今は、何を描くのだろうねぇ?
「それよりも、あなたはゲートキーパーを――」
「黙れ。パイクを助けてやらんぞ(。-`ω´-)」
「はっ、はいっ!」
駄目だ、噂は既に広まっていると見てよいだろう。
他にニュースが無いのだろうな、こんなよくわからん世界では。
たぶんさっきのアルゴニアンも、高い木からでも落ちて頭を打つことがなければゲートキーパーゲートキーパーやかましかったのだろう。
「こんにちは、パイクさん」
「おおっ、我が名を知っているとは、さすがゲートキーパーを倒した者だ!」
「黙れ、助けてやらんぞ」
「いやいやいや、ヘイルの村は君を歓迎するよ。どうかくつろいでおくれ」
「――で、何か困っているらしいが?」
「おおっ、私が悩んでいるということを御存知とは、さすがゲートキーパ――」
「ゲートキーパー言ったらもう助けてやらん」
「あややや、私はシロディールでは茨の騎士団の一員だったんだ」
「そうか、俺も茨の騎士団の一員だ。フラー!」
なんだか懐かしい名前が出てきたし、それによって謎の掛け声も蘇ってきた。
パイクは、シェイディンハルを拠点とする茨の騎士団の一員だった。
かつて俺も、オブリビオンの動乱時、騎士団長のファーウィル・インダリスと共闘してゲートを閉じたことがあった。
「団長の格言は、『稲妻のごとく敵を討て!』だったね。私は覚えているよ」
「そうだったな、俺も聞いたことがある。フラー!」
「なんだか懐かしい語尾ですな。ひょっとしてあなたは団長と共にオブリビオンゲートを閉じた方では?」
「そんなこともあったな、フラー!」
結局、ここはニュー・シェオスの宮殿ではなく、ヘイルの村であった。
まぁ宮殿にしては質素すぎたので、そんなところだろうとは思っていたけどね。
さて、パイクは困っているらしいが、いったい何が起きたのだろうか?
一応助けてやるよ。名声を高めるために、な。
この世界を支配してやるのだという野望を達成するには、住む者に認められる必要があるからね。
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