ダイア・ウォレン洞穴 ~アリッサとトレイリウス~
ニュー・シェオスを探す旅は続いている――
アイシャンの遺跡を後にした俺たちは、再び石畳の道へと戻り、北へと向かっていた。
途中、トールツリーズ――長樹キャンプという場所があり、ヘレティックの武闘司祭という者が襲い掛かってきたりした。
司祭だが武闘と言うだけあって、ハンガーを召還した後は持っていた斧で戦いを挑んでくる。
俺は無駄な争いは好まぬが、問答無用で襲い掛かってくるようなやつは、さっさと始末するのだ。
たぶんこいつが、この世界での山賊のようなものだろう。
さらに進んでいくと、巨大な樹木の根の辺りにぽっかりと開いた穴を見つけたりするのだ。
不吉な巣穴と呼ばれている、ダイア・ウォレン洞穴だ。
俺は、この洞穴を探索してみることにした。
「どう考えても、ここはニュー・シェオスの宮殿に見えないわ」
「急ぐことは無いさ、お前と一緒に思い出を共有していこうじゃないか」
「それがあなたにとってのお宝だって言うのかしら?」
「君にとっては違うのか?」
「いいわ、行きましょう」
洞穴を探索が目的ではないぞ。
緑娘と一緒に探索することが、一番の目的なのだ。
洞穴を入ってすぐの場所に、ものすごく見慣れない物がでんと構えていたりするのだ。
「なんじゃこりゃ?」
「クラゲの化石かしら?」
「でかすぎるぞクラゲにしては」
植物のようにも見える、そしてここは木の洞の内部だ。
なんだろう、ヤドリギみたいなものかな?
そして、木の洞を住処にしている木みたいな化け物ナールが襲い掛かってきたりする。
わかったぞ、こいつはこの異端の島におけるスプリガンみたいな奴だ。
「また弓を使う!」
「だってこれ、面白いもん」
「そんなの蹴っ飛ばしてしまえばいいのに」
「あら、急ぐことは無いって言ったのは誰かしら?」
「……(。-`ω´-)」
どうでもいいけど、緑娘はおっぱいがでかいから、弓の弦が当たらないかと冷や冷やものだ。
ゲートキーパーとの戦いで矢を使い果たしたのかと思ったけど、いつの間にか拾い集めていたようで、十本ぐらいは矢を持っているようだ。
まあよい、好きなように戦うがよかろう。
助けてくれー、などと言い出したら手伝ってやろう。
トカゲ型モンスターであるバリウォグ。
こんな地を這うようなモンスターは、緑娘の恰好の餌食となるのだ。
飛び乗るだけで退治できてしまう、恐ろしいねー。
そんな感じに、俺は松明で照らす役目、緑娘は敵を退治する役目で先へと進む。
ピンチになったら助けてやろうと思って電撃を飛ばす準備はしているのだが、その機会は一向に現れない。
「わぁ、何だか綺麗!」
「琥珀の切り株だね、琥珀ゲットだぜ」
「琥珀ってどうやって出来上がるか知っているのかしら?」
「樹液が固まった物だろ」
「知ってるわよ、ふんっ!」
「なぜ怒る……(。-`ω´-)」
なんだよ、うんちくを語りたかったのか?
ナールとか退治したら手に入るので、琥珀の在庫は増えつつある。
ちなみに樹液が化石化したものとも言えるが、それなら今現在動いているナールの体内から手に入るという説明がつかない。
だからこの世界では、樹液が固まった物だという認識で良いことにする。
もっとも宝石など、どうせ安いだろうけどな。
「わあっ、可愛いっ!」
「だからそれダメだってば!」
緑娘が、また緑色の煙を吐き出す丸い緑に近づこうとするので、慌てて引き戻す。
どういうところが可愛いのかよくわからんが、丸い所が可愛いのですかね?
ちなみに、この丸い緑の内部にも、琥珀があったりするのだ。
やたらと琥珀が採取できる世界なのだな、この分だと確実に安そうだ。
木の洞にしては、やたらと広い空間が広がっていたりする。
ここまで来たら、ほとんど洞窟だね。その洞窟の中に、木の根が張り巡らされている。
ハスキルは、マニアは陽気な世界と言っていたが、それほど陽気とは思えないのが気になるところだ。
つまり、ディメンシアはここよりももっと陰鬱とした場所なのだろう、やだなー。
洞窟の奥は、滝があったり地底湖みたいになっていた。
スケイロンが何匹かうろついているようだ。
退治する場面は、割愛な。
「むっ、誰かが倒れている」
地底湖を探索していると、そこには女性の遺体が転がっていたりする。
近くにはスケイロンの死骸もあるので、恐らく戦って相打ちにでもなったのだろう。
「また死体の装備漁り?」
「ん~、安そうだから放置」
「お金になりそうだったら回収するんだ」
「む、日記を持っているぞ」
「人の日記を読むなんて、悪趣味ね」
「なぜこんな場所で死んでしまったのか、理由がわかるかもしれないぞ」
「最後が『かゆい うま』だったらどうするのよ」
「クローゼットから出てきたゾンビに襲われるだけだ……(。-`ω´-)」
えっと、日記のタイトルからして、この女性はアリッサという名前らしい。
そして、トレイリウスという者が、彼女をここに連れてきたみたいなのだ。恋人同士なのか、夫婦なのか。
先ほど見かけた滝についても述べられており、「滝の上流に居ると、思考をすっきりとさせてくれる」らしいのだ。
そしてどうやらこの場所は、定住する予定の家扱いとなっているようだ。ナールとかスケイロンが居るのに住み着くとは、大した奴らだね。
日記では、トレイリウスの方はここに住みたがっているが、アリッサの方は嫌がっている。俺もここに住めと言われたら、嫌である。
途中崖で怪我をしてあざができてしまったとか、この場所から離れると彼を説得するとか、街に戻ることになったとか、日々の出来事を書いている感じであった。
最後は骨折するほどの重傷を負ってしまい、何度もトレイリウスを呼んだけど彼は現れなかったと。
そして動けないまま彼を待ち続けて、死んでしまったそうなのだ。
「彼に放置されて死んでしまったみたいだな」
「酷い彼ね、あなたはあたしを放置しないでね」
「するわけねーだろが」
そう思いながらも、思うことがある。
ハスキルは、この世界に来たら変わってしまうとか言っていた。
ひょっとして、そのトレイリウスとやらも、狂気に取り付かれて妻だか恋人だかを放置したのではないだろうか?
「それよりもだ、相手のトレイリウスはどこに居るのだろうか?」
「迎えに来てくれないって書いてあるから、どこかに行っちゃったんじゃないかしら?」
「アリッサは死んだよ、と伝えるのも辛いもんがあるな。伝えようが伝えまいが後悔しないけどな」
遺体はどうしようもないので、そのまま放置して奥へと向かう。
先に進めるとしたら、アリッサの日記に書いていた滝の上流ぐらいだね。
滝の上流に別の通路があり、その先は居住区になっていたりする。
やっぱりここを「家」として使っていたのか……
「えっと、トレイリウスさんですか?」
「んん? ちょっと待っておれ。話はウィザリング・ムーンを食ってからだ」
「はあ」
周囲には、錬金術の器具や、キノコの破片とかが机の上に並んでいる。
やはりこんな所で生活するとなると、主食はキノコとかよくわからないものになってしまうのだろうか……
「さて、トレイリウスがどうしたのかだったかな?」
「そうです。あなたがトレイリウスさんですか?」
「僕がトレイリウスだったら何だと言うのだーっ!」
「なんやお前は!」
なんだかよくわからないこいつは、食べ終わると突然襲い掛かってきやがった。
何を食っていたのか知らんが、この感じだとスクゥーマをやっていたんではないかね?!
むろん、二人掛かりでボコってやりましたとさ。
「ア、アリッサの声が滝から聞こえてくるんだ……」
「だから何よ!」
「げふっ……」
なんか珍しい技を見たような気がする。セントーンだっけか?
なんだかよくわからないこいつは、俺と緑娘の波状攻撃で瀕死になっていた所を、緑娘のセントーンを食らってお陀仏したのである。
さて、このなんだかよくわからない奴だけど、こいつも日記を所持していたりする。
その日記から、こいつがトレイリウスだと言うことが分かった。
そう言えば、断末魔寸前に、アリッサがどうのとか言っていたような気がするね。
日記では、アリッサをここへ連れてきたこと。
街があまりにも賑やかすぎて、劣悪な環境だから嫌だということ。
アリッサの水浴びの時間が長くなったことや、彼女に構ってあげられないほど忙しいこと。
そして彼女が怪我したことに気がついていたこと。
彼女がここを出ていきたいと言ったので、望むようにしてあげたこと。
最後には、滝の方から彼女の声が聞こえてくるが、それは幻聴によるものだと認識していたことだ。
日記はここで終わっている。そしてアリッサの日記と並べて見ると、いろいろとつじつまが合っているのだ。
「ん~、アリッサの声はトレイリウスに届いてたみたいだね」
「なんで助けてあげなかったのかしら?」
「こいつはアリッサは去って行ったと信じ切っていたようだ。だから、声が聞こえたとしても、それは幻聴だと思い込んだんだ」
「ふ~ん。でもさっきの行動からして、こいつおかしくない?」
「うん、トレイリウスが狂ってしまったとも考えられるな」
これはハスキルの言う通り、この世界に居ると徐々におかしくなってしまうのだろうか?
それよりも気になるのは、「街の劣悪な会話による精神的な拷問」と書かれていることだ。
やはりこの戦慄の島は狂気の世界で、その街はより明確な狂気が待ち構えているというのだろうか――?
前の話へ/目次に戻る/次の話へ