シヴァリングアイルズ ~戦慄の島~
「おかえりラムリーザ!」
「おお! 帰ってきたよ緑娘!」
「何堂々と緑娘って呼んでるのよ!」
「しまったああぁぁぁぁ!!」
戦慄の島へと凱旋した俺、ボルテージも最高潮に達しようとしているこの瞬間!
緑娘が傍に居るんだよ、緑娘が、おい!
俺は覇王の道を歩む必要は無いのだ。緑娘と甘い夜を過ごしているだけでいいんだよ!
まぁちょっと落ち着け。
嬉しいのはわかるが、落ち着け、深呼吸だ。
「それで、あたしの服は?」
「ちゃんと回収してきたよ、ほら――ってここで着替えようとするなよ!」
緑娘を茂みに押し込んで、そこで着替えさせる。
マシウと彼の母が居るのに、よっぽど今の服が嫌いなのだな。
煽情的な格好を好んで置きながら、陽動作戦では「どちかん」だから意味不明である。
緑娘、完全体復活w
この格好だとな、緑娘は気にしていないみたいだけど、いろいろと見えているんだよ。
右足の下方向から見上げてみてごらん、かなりヤバいから……(。-`ω´-)
さて、これからどうするか。
再会を祝ってパーティでもいいが、とりあえずはこんな中途半端な場所からは離れよう。
他に行く当ては無いし、先に進むにはゲートキーパーをなんとかしなければならないので、パスウォールの村へと向かった。
いろいろと積もる話もあることだし、脱力感満点の女主人ドレドウェンが経営する、ものぐさ財布亭で一旦一休み。
よく見たら、このドレドウェンはウッドエルフ、ボズマーだ。やっぱりこの種族、グラアシア族だけあって妙だな。
この種族はなんで妙な人が多いのだろうか?
脱力系主人ドレドウェン然り、パラノイアのグラアシア然り、占いババアのダゲイル然り、エルスウェアで茸猫を飼育していたガルウェン然り……
ものぐさ財布亭の一階に集まった俺たちは、とりあえず着替えてからお互いに自己紹介から始めた。
初顔の組み合わせがいろいろあるからね。
「んじゃ俺から、冒険者ラムリーザです。戦慄の島は初めてなので、いろいろと至らない点も多々あるかと思われますが、なにとぞよろしゅう」
「何かしこまっているのよ、それに冒険者って何よ?」
「やかましい、次お前な」
俺は、シロディールの勇者も、アークメイジも捨てた者。
パスウォールの住民でもないし、シェオゴラスの祝福を受けた者でもない。
今ここでは一介の冒険者に過ぎないのさ。
「あたしはテフラ、ラムリーザの婚約者です。はいおしまい」
「一番の肩書はそれかよ。ってかそれだけ? ねぇ、それだけ?」
まぁ今はそれでいい。
戦士ギルドのマスターとか、そういうのは過去、別世界での話だ。
というより、むしろそれでいい。結婚しよう。
「ども、マシウ・ベラモントです。ラムさんの一番弟子です」
「いや、俺は弟子を持ったことないし!」
なんでみんな俺の関係者なのだよ。
まぁ間違ってはいないが、それ以外に自分を表現するものは無いですか?
まぁ元闇の一党とか、そういうことは黒歴史なのだろうな、闇の一党だけに。
俺もあの時期は黒歴史だ。
「はいはい、私はルノー・ベラモントです。マシウの母ですね、よろしくお願いしますよ」
「よし、新鮮な肩書きオッケー」
「ラムリーザあなた、いちいちうるさいわよ」
「やかましい」
次に俺は、緑娘とマシウの母親に、ここでの出来事を聞いてみた。
なぜここにいるのか?
聞いた話では、二人ともここに来てから一週間ぐらいだと言う。
「あたしわかんない。ラムリーザと一緒にドラゴン化したマーティンを見ていたら、喉に焼けるような痛みが走ったとたん意識が薄れて、気がついたらここに居たの」
「なるほど、あの後か。なんだか時間が合わないが、一週間前か。その頃は、聖騎士の称号を得た時かな?」
「聖騎士ってなぁに?」
「パラディンな。名誉の徳を極めようとする者だ」
「ふ~ん」
とりあえずごまかしておいた。
シロディールでの出来事は、ひとまずは無かったこととして話を進めたいからな。
「私は子供の頃のマシウを寝かしたあと、部屋に戻ったら黒ずくめの人が居て襲われて、死ぬのだと思ったらけど、気がついたらここに居たのです」
「そいつはルシエンだよ。父さんの奴が、母さんを殺すよう仕向けたんだ。シシスも五教義もくそくらえ!」
「落ち着け、闇の一党の話はもう忘れよう」
「はい、ラムさん……」
「闇の一党ってなぁに?」
「お前を殺した――あ……」
そこで俺は、前々から聞いてみたいと思っていたことを述べてみた。
「テフラ、君に何度も襲い掛かって来て、ついには殺してしまったのは闇の一党って集団だったんだ。でも俺は、そいつらを壊滅させたよ、どうだい? 復讐してやったんだ」
「本当? 闇の一党――。でもあなたが退治してくれたのね」
「そうだ」
「ありがとう、仇を取ってくれて。さすがラムリーザね、あたし嬉しい」
ほらみろ。
復讐は何も生みださないだって? 殺された者は復讐なんて望んでないだって?
それって殺された者に会って、実際に聞いてみたことなののか?
やっぱりただの綺麗ごとじゃないか。
殺された者の復讐が可能なら、やっておいて良いのだよ。
恨みを抱えたまま生きるよりは――な。
それにみろ、仇討ちしたことを緑娘は喜んでくれたぞ。
「まあよい、聞かない方がよかったかもな」
でもまぁ、ちょっと場の空気が悪くなってしまった感も否めない。
ルノーか、母親にしては、見た目が若いと思うが、そうか、死んだのは十数年前か。
その時から時間が止まっていたと考えると、そんなものか。
しかし俺は、その名前を聞いた時、ふと思い当たる点があった。
確かレルミナが――
「ひょっとしてルノーさんはルノーですか? レルミナがあなたと話すよう言ってましたが」
「ゲートキーパーの件ですね。彼女が骨肉の園で作り上げたものです」
やはりそうか。
レルミナは、話の続きはルノーとしなさいって言っていたっけ。
「奴を始末できないのですか?」
「弱点をつけば、あるいは……」
ルノーの言うゲートキーパーの弱点とは、レルミナの涙というものらしい。
彼女の涙は、奴に封じられたデイドラを動揺させるとか。涙がデイドラを暴れさせ、封印魔法を弱めると言うのだ。
深夜になると、涙もろい彼女が奴に会いに行くらしいので、見に行ってみたらどう? とのことだった。
「なるほど、レルミナの涙か」
戦慄の島の奥地へ進むには、ゲートキーパーを何とかしなければならない。
奴をなんとかして、その身体に埋め込まれている鍵を入手しすることで、先へ進めるのだ。
強引に力押ししてもよいが、楽ができるならいろいろと手を打つのも悪くない。
「ところで、氷血のジェイレッドという人を知っていますか?」
「彼もパスウォールに住んでいますよ」
「一応会っておくか」
緑娘と再会する前、村長のシェルデンからも話を聞いていた。
彼が言うには、氷血のジェイレッドという者がゲートキーパーを倒したがっているというのだ。
共同作戦を取ってもいいし、囮にしてもいいし、彼も役に立ってくれるだろう。
「さて、俺はゲートキーパーを退治して先に進みたいと思っているが、みんなはどうするかな?」
「あたしはラムリーザと一緒に行く」
まぁそうだろうな。
「私は戦いは苦手なので、ラムリーザさんの健闘を祈っています」
ん、足手まといになるなら待機してもらう方が良い。
「僕も母さんと一緒に居ます」
ん、このマザコンめ。
まあよい、十数年ぶりに母と再会できたのだ。
気が済むまで、二人きりにさせといてやろう。
「それじゃ、行くぞミド――テフラ!」
「あなたまだあたしの変な呼び方治ってないのね」
「気にせんでよか!」
さて、氷血のジェイレッドに会うところから、戦慄の島での冒険を始めるか。