最後の仕事その3 ~魔術師大学にて~
さて、いよいよ本当の最後の仕事がやってきた。
帝都インペリアルシティでは、大きく分けてやることが二つある。
一つは、リリィにアークメイジの座を譲って、魔術師ギルドの後を託すこと。
そしてもう一つは、オカトー大議長に、俺は皇帝の座に就くことはできないと断って、彼にシロディールの後を託すこと。
これら二つの仕事が終われば、俺は後腐れなくシロディールを去ることができる。
ま、立つ鳥跡を濁さずってこった。
おっと、もう一つ仕事があったな。
緑娘の衣装を回収することと、マシウや彼の母の衣装を入手することだ。
まずは商業地区にて、服を買うところから始めようと思ったが……
ん~、シロディールのファッションセンスがわからん(。-`ω´-)
なんだかずっと緑娘ばかり見ていた気がするので、アレが普通――なわけないけど、アレが基準になっとるような気がする。
とりあえず、服屋の店主に聞いてみよう。
「えーと、お母さんにプレゼントしたいのですが、どういったものがお勧めでしょうか?」
この問い方は間違っていないはずだ。
俺の母親ではないが、マシウの母親に与えるものだからな。
服屋で普段着を購入した後、リリィに最後の挨拶をするために魔術師大学へと向かった。
「リリィさん!」
「なんでしょう、アークメイジ。マシューの推薦状集めに行くと言ってましたが、もう終わったのですか?」
「ある意味、終わりました」
「そうですか」
リリィの研究所、オゥム・クォート・オゥムにて――
う~ん、いざってなると言い出しにくい――のかな?
戦士ギルドの時と違って、ここでは俺が大将だからな。
我ながら責任感というか、何というか……。無責任に放置して立ち去れたら、どれだけ楽だろうか……
ん~仕方がない、二番煎じで行くか……(。-`ω´-)
「リリィさん!」
「どうしたのですか?」
「私が絶対的な信頼を置いているリリィさんになら、ギルドを任せられる」
「そうですか」
「私が去った後、リリィさんはアークメイジとして、ギルドの指導者として認められるだろう」
「――?」
「魔術師たちの兄弟たちを、正しき道へ導いてくれ。未来は君の双肩に懸かっておる。達者でな、我が友よ」
それだけ言うと、俺はアークメイジの私室へと向かった。
先代アークメイジ、ハンニバル・トラーベンと同じことを言っているだけじゃんって言うなよ?
それしか思いつかないのだから、仕方がない。
俺は記憶を頼りに、彼から言われたことをそのままリリィに伝えただけなんだ。
そう言えば、マニマルコを退治した後で大学に戻った時、ラミナスから正式に辞令を受け取ったかな。
彼は、「トラーベンから覚書を受け取っていた」と言っていた。
リリィを後任として指名する旨を記した手紙でも渡しておけば、あとは人事担当のラミナスが、全部やってくれるだろう。
やっぱり、死んでいるよなぁ……
数時間前の出来事が、まるで夢のようだ。
戦慄の島では、緑娘は生きていた。
しかしここにあるのは、物言わぬ骸だけなのだ。
緑娘の衣装を回収する前に、ラミナス宛ての手紙を書いておく。
え~と――アークメイジだから、退職ではなくて辞職かな?
内容は――
『アルケイン大学御中 私事 この度、一身上の都合により、アークメイジを辞職することをここに通知いたします』
こんな書き出しで大丈夫かな?
この世界の、日付分からないし……
サンダスとか、精々週の概念があるぐらいしか知らないからなぁ。
あと通称魔術師大学だが、その本当の名前はアルケイン大学だったはずだ。
『後任は、マスターウィザードのリリィ・ウィスパーズを推薦します』
確かリリィのフルネームはこうだったはずだ。
あと、マスターウィザードに昇進させた記憶があるから、そのままスライドしてアークメイジにするのも無理は無かろう。
単独でオブリビオンゲートを閉じることもできる実力もあることだし、問題ないはず。
『かしこ』
待てよ――?
かしこって女の人しか使わないのではなかっただろうか?(。-`ω´-)
――ってかこれ、手紙じゃねーし!
えっと、本来なら大将であるアークメイジ宛てに書くところだが、大学のトップである俺がアークメイジの場合はどうすれば良いのだろうか?
ひょっとして辞表じゃなくて、引退?
それともリリィにその地位を譲るための、勇退?
なんだかよくわからなくなってきたので、「かしこ」の部分を消して、自分の名前を署名しておいた。
これで全部終わりだ、後はリリィとラミナスの二人でなんとかしてくれ。
俺は緑娘の生きる世界へ向かうから。
次に、緑娘の遺体から衣装を剥ぎ取る。
さらにリボンをほどいて、そちらも回収する。
えっと、靴――実際には武器だけど、ニードルヒールはベッドの下に置いてあったはずだ。
後はマシウの服は樽の中に入れていたかな。
脱がせた後に下着姿で寝かせておくのもアレなので、とりあえず一般的な魔術師のローブを着せておいた。
こうして見ると、緑娘も髪の色が独特なだけで普通の娘なのだがな。
いつも着ていた服、つまり俺が今持っているこの服がアカンのや。
まあでもこれが着たいと言うのなら、持っていってやるけどね。
よし、これでこのアークメイジの私室ともおさらばだ。
思い残すことは、何もない。
「ラミナスさんっ!」
「おお、アークメイジよ。マシウの推薦状は揃いましたかな?」
「ん~、まだですね。それよりも、これを受け取ってください」
「何かの書状ですかな?」
「大事な覚書です。後はよろしくお願いしますということで」
「――? ああ、受け取っておこう」
以上、なんだか駆け足で終わらせた感もぬぐえないが、俺の魔術師ギルドでの最後の仕事は終わった。
あとはオカトー大議長に、皇帝の座には就けない意思を表明したら、全て完了だな。
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