楽園 前編 ~ガイアー・アラータ~
クラウドルーラー神殿にて――
どこの町でも見かけない不思議な建築様式。
そういえば、ジョフリーがアカヴィリ様式とか言っていたような気がする。
ステファン隊長などは、今頃「少なくとも敵の名前だけでも知ることができた。マンカー・キャモランと深遠の暁教団だ」などと言っている。
どうも帝国の臣民は、情報が古いような気がしてならない。
グレイ・プリンスが打倒されたことを、つい昨日のように吹聴する奴のなんと多いことか。
神殿に入ると、そこにはグレート・ウェルキンド・ストーンと、グレート・シジルストーンが輝いていた。
左側にある白く細く光っているのが前者で、後者は右側にある赤黒く輝く球体だ。
「ちょうどよいところに着た。ついさっき、儀式の最終段階が完了して、ポータルを開く準備ができたところだ」
「すみませんね、クヴァッチでまたデイドラが出現するかもしれないって話を聞いたものでね」
「それは良くない。しかし、王者のアミュレットもなるべく早く奪還する必要がある」
そしてマーティンは、鎧から普段着に着替えて俺を待っていた。
マーティンの言うには、ここで開くポータルは一方通行で、帰るためには別の方法を探さなければならないというのだ。
スターゲイトみたいなものかな?
「しばしの別れだ、友よ。我らの運命は君の手にかかっている。どうか王者のアミュレットを取り戻してくれ」
「俺に不可能はありませんよ」
俺は、マーティンとがっちりと握手をする。
そしてマーティンは二つの石の方を振り返ると、何やら祈りだした。
「ショール様、マーラ様、ディベラ様、キナレス様、アカトシュ様、とにかく神様、ポータルをお開きください」
そんな祈りでいいのか。多神教も大変だな。
マーティンの祈りが終わるや否や――
そこに丸く輝く巨大な球体が開いた。
まるでキャモランが開いたポータルのような――って、同じ楽園に行くためのポータルだから、そっくりなのも当然か。
それではちょっと行ってくるか。
………
……
…
ポータルに飛び込むと、周囲は白く光り輝き――
気が付けば、普通の場所へと辿りついていた。
楽園と聞くからお花畑みたいなものや、逆に禍々しいものを想像していたが、ここは至ってごく普通。
目の前には石畳の通路が続いている。これを辿っていけば、キャモランの立て篭もる場所へと辿りつくのかな?
「ほう、ついにセプティム家の手先が到着したか」
ふいに響き渡る声。しかしこの声は聞いたことがある。
深遠の暁教団の祭壇で演説していた、マンカー・キャモランその者の声だ。
「この地で私の目から逃れられると思うなよ。私が創造したこの楽園で」
この楽園は、周囲を海で囲まれているらしい。
海岸に行けば、遠くに水平線しか見えない海が広がっていた。
「我が楽園を眺めるがよい。古代語でガイアル・アレイタと言う。これが過去、そして未来の風景だ」
別に頼んでも居ないのに、いろいろと語ってくれる。
人は不安を覚えると饒舌になる場合があるらしいね。
キャモランも、俺が乗り込んでくるのは実は想定外だったのだろう。べらべらとどうでもいいことを語りまくっているその口が、それを証明しているのだ。
楽園には、デイドロスがうろついていた。
これがキャモランの創った楽園か、物騒な場所だな。
俺が楽園を創造するとしたら、そこに住むのはフェアリーや羊さんだけだ。
フェアリーはラビリンスの外壁周囲に居る噛み付くやつでなく、ステレオタイプのフェアリーな。
羊さんは緑娘用だ。俺は別に要らん。
「見よ、野蛮なる庭園を。我が弟子たちが、高貴なる使命に備え、修行を積む場所。新生タムリエルに君臨するために!」
これは驚いた。
意図的に野蛮なる庭園を創造していたとは。
やっぱり野蛮人はダメだね、オーガとか。キャモランもオーガみたいな脳みそなのだろう。
氷のゴーレムまで住み着いている。
普通にオブリビオンの世界と、ほとんど変わらない場所だね。
「私の期待通り、お前が本当に宿命の勇者なら、庭園からの脱出に長くはかかるまい。目を上げ、カラク・アガイアラを見よ、そこが楽園の頂にして我が玉座なり。そこでお前を待つだろう」
――などと強がりを言っているが、今頃「ひぇー乗り込んできた、どうしようどうしよう、うおーっ! さおーっ!」などと騒ぎながら、右往左往しているのでしょうね。
しかし、ガイアル・アレイタとかカラク・アガイアラとか、初めて聞く単語を並べられてもさっぱりわからない。
教団用の、宗教語なのかもしれないけどね、アーメン。
ふと気が付くと、おばさんが立っていた。
敵ではないみたいだが、上半身が下着のみ。シェオゴラスの信徒か?
「あなたは――? この悪夢を終わらせて、私達を野蛮なる庭園のくびきから解放するために来たのですか?」
どうやら敵ではないようだ。襲い掛かってくる気配は無い。
無理矢理深遠の暁教団に入信させられて、脱退しますとか言ったら嫌がらせされて――の段階かな?
深遠の暁教団などと言っているが、要するにデイゴン教だろ? デイドラの祭殿前に屯していた連中が、それぞれの邪神の教徒なのだ。
例えばシェオゴラスの祭殿前には、このおばさんみたいに下着姿の奴らがうろついていたね。ナミラの前にはブサイクが集まっていたりね。
「ガイアル・アレイタとはなんぞ?」
俺は、謎の単語を尋ねてみた。
一応教団関係者なら、その意味を知っているかもしれない。
「この地にマスターが名付けたものです。我々は、単に楽園と呼びます」
なんだ、ただの名称か。しかもキャモランお手製の。
それなら俺も楽園を創造したとして、そこに「アレフガルド」と適当に名前をつければ、そこはアレフガルドと認識される場所となるわけだ。
「それでは、カラク・アガイアラとは何か?」
「マスターが住む宮殿の名前です」
これもただの名称だった、キャモランお手製の
仮に俺が宮殿を創造したとして、そこを「蜜蜂の館」と適当に名前をつけたら、そこは蜜蜂の館と認識される場所となるのだ。
そして、その宮殿がある山の麓には、野蛮なる庭園の唯一の出口である禁断の小洞穴があると教えてくれた。
つまり、帰りたければそこへ行けばよいわけだね。
しかしおばさんの話では、その禁断の小洞穴に入る事が許されるのは、「選ばれし者の腕輪」を身に着けた者だけだという。
さらに、その洞窟へ行って戻ってきた者は、一人も居ないと言うのだ。
その脅し文句は怖くないよ。
サンクレ・トールの遺跡も誰も戻ってこなかったと言っていたが、俺はそこからタイバーセプティムの鎧を持ち帰った。
誰も成し得なかった領域ミスカルカンドへ言って、グレート・ウェルキンド・ストーンを持ち帰ったことがあるのだ。
ならばその禁断の小洞穴とやらも、俺が戻ってきた第一人者になってやろうじゃないか。
おばさんと別れて、カラク・アガイアラとやらを目指すことにした。
「待て! ガノナッハのシジルタワーを破壊したのはお前だな? 我が同胞がお前の戦いぶりを称えていたぞ」
とつぜんドレモラが現れて、襲い掛かってくるわけでなく語りかけてきた。
珍しいこともあるものだね。
しかしガノナッハ? また新しい単語が出てきたぞ?
「ガノナッハとはなんぞ?」
「貴様らの都市、クヴァッチを破壊したものだ。だが貴様の迅速なる報復は、我が一族の賞賛の的となったのだ。お前との会話なら、不名誉とは思わない」
デイドラに賞賛されてもうれしくないけど、話がわかるならそれに越したことは無い。
俺は、マンカー・キャモランを探していることをドレモラに伝えてみた。
その結果、このドレモラと争うことになっても後悔は、ない。
「お前の単刀直入な話しぶりは、まるで我が同胞みたいだな。すぐに殺さずにいてよかったぞ」
「それで、俺にどうして欲しいのだ?」
「庭園を抜ける方法は、その道を守っている私を倒さなければならない。勝負するか? 奉公するか? お前を奉公させることができれば、我が威光は増すだろう」
答えは、一つだけだよな。
誰がドレモラなどに奉公するものか。芳香など便器に転がっている丸い玉でたくさんだ。
ん、違うか。
とりあえずカステットという名のドレモラを退治して、選ばれし者の腕輪を手に入れたのであった。
外に出られるものは、この腕輪を身に付けた者のみ。俺は迷わずその腕輪を身に付けた。
すると、腕輪は赤く輝き、手首から離れなくなってしまったのだ。
呪いのアイテムだったのか?!
「お前はわかっておらん!」
すると、再び響くキャモランの声。
選ばれし者の腕輪まで入手されて、いよいよ焦りが見えてきたかな?
そしてキャモランは、彼なりの持論を展開してきたのだった。
世界の誕生以降、オブリビオンの暗黒の中では、いくつもの小王国が玉のように輝いていたこと。
国の名がメリディアの冷港、ペライトの沼地、メファーラの十の月影。メファーラの名前が出た地点で、彼の持論は聞くに及ばんと判定。
そして定命の者が、タムリエルと誤った名前で呼んでいること。
タムリエルはオブリビオンにあるデイドラの領域のひとつに過ぎず、デイゴン神はタムリエルを侵略するのでなく、当然の権利として奪われた土地を解放しに来たのだと。
俺は、狂信者のたわごとなど聞き流して、先へ進むことにしたのであった。
続く――
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