ジュリア・バッシラの痣 ~薬入りパイを作ろう作戦~
夜が明けた。
二泊三日のスターク島旅行、それは金鉱獲得という素晴らしい結果となった。
早朝、島の東部で朝日を眺めていたら、なにやら後ろでガタゴト言い始めたので、不審に思って振り返った。
「せっ、先輩? 夜逃げですか?」
「何を馬鹿なことを言っている、これは全部金塊だ」
「押収したのですか?」
「違う。ポーレが溜め込んでいたものを鉱夫に還元して余ったものだ」
「相当溜め込んでいたんだね……(。-`ω´-)」
ジ=スカール先輩は、荷台に金塊をつめた箱や樽、袋を乗せて、優々と港へと向かっていった。
あれだけ金塊があったら、そりゃあ先輩も上機嫌になるものだ。
「ほら、ラムリーザも手伝え。後ろから押すんだ」
「はいはい」
金塊輸送はそれほど苦労じゃない。
何しろ疲れたらエネルギー源である金塊を食えばいいのだ。
疲れすぎないよう、鼻血を吹かないよう、そのバランスを取りながら荷台を押して大量の金塊を運んでいった。
「今日の昼過ぎに、本土へ帰還しようかと考えています」
「ん、それでいいよ」
やっぱりリリィさんがリーダーに見える。
仕方ないか、俺なんてほとんど新入りみたいなものだし、先輩はともかくリリィさんはもっと長く魔術師ギルドに在籍していたはずだからね。
というわけで午前中暇になったので、まだ訪れていなかった灯台へ入ってみることにした。
構造自体はアンヴィルの灯台と同じっぽいから、別に珍しくは無いけどせっかくだ。
灯台に入ったところ、奥で頭を抱えた人が。
確か灯台の管理人、ジュリア・バッシラではなかったかな?
「ジュリアさんどうかしましたか? 具合でも悪いのか?」
「はい、何かお手伝いしましょうか?」
会話がかみ合わない。
何か泣いていたようにも見えたが、それを誤魔化しているのがバレバレだ。
昨日は海で泳いでいたのに、その後一日で何か起きたのだろうか?
しかしジュリアは「なんでもない」と言って、最後まで誤魔化しきるようであった。
ん~、なんかほっとけないな。
一旦灯台を出て、他の人に噂話を聞いてみることにする。
「隊長、いいですか?」
「おっ、英雄殿。黒馬新聞は読むかな? なにやら闇の信徒と接触しようとする人がますます増えていますよ」
「そんなカルト集団はいいから、ジュリアさんが何か傷ついているみたいですが、何か心当たりありますか?」
「ん~、そういえば今月に入って三回、彼女に新しい痣があるのを見たな」
「まさかDV?」
「んや、彼女はまだ独身。おそらくだが、彼女が常に寝室に鍵をかけたままにしていることと関係があるんじゃないかな?」
「ちょっと待って!」
そこに緑娘が会話に割り込んできた。
「隊長さぁん、なんで彼女の肌に痣があるのがわかったのかしら?」
「泳いでいる時に見たんだ」
「すけべ」
「……それでは私は巡回に戻る!」
カルリッリョ隊長は、都合が悪くなったのか、逃げるように町へと駆けていった。
さて、灯台にある鍵のかかった噂の寝室。
侵入作戦になってしまうので、ここは緑娘に手伝ってもらうことにした。
ジュリア相手に「どちかん」は無いと思うが、どうしたものかね。
「ジュリアさぁん」
「はい、なんでしょうか?」
「カルリッリョ隊長から慰謝料が取れるかもしれないわぁ」
「はぁ?」
なんかよくわからん会話だが、とりあえずジュリアの注意を逸らすことはできている。
覗きに対する慰謝料でも取るのかね?
昨日俺も近くで見ちゃったことあるのですがー。
灯台で鍵のかかった部屋はここだけ。
どうもこの島の人は地下で眠る趣味があるようだね。
鍵のかかった地下の寝室、身体にできた痣……
何か「いけない趣味」でもなさっていたのですか?
「…………」
「…………」
地下に隠された寝室に入ると、そこで俺はおっさんと鉢合わせした。
ジュリアは独身だと言っていた。つまりこのおっさんを連れ込んでいるのか?
そしてこのおっさんは、痣をつくるようなことをやってくる。
やめてくれ、俺はそんな趣味は無い!
しかし、おっさんのつぶやいた言葉は、「女王様とお呼び」でもなく「靴をお舐め」でもなかった。
「君はここで何をしている? 私はここで何をしているんだ? とにかく私達はどこにいるのだ?」
おっさんじゃなくて、ボケ老人ですか?
ひょっとして、ジュリアのお父さんかお爺さんか?
なんだかよくわからないので、ここは一旦戻ることにした。
「ジュリアさぁん、あなたは鍛冶屋ですか?」
「えっ、違いますよ」
「あなたファミコン版になれば、ジュリアスっていうむさいおっさんに変更されるわ」
「意味が分かりません」
一階に戻ると、まだ緑娘はジュリアとよく分からない会話の最中であった。
俺は「もういいよ」と言って、緑娘の雑談を中断させた。
「ジュリアさん、ここの地下に居るなんだかよくわからないおっさんは何ですか?」
「そう、あなたは私の秘密を知ったのね。彼は私の父です」
「ノーっ! うそだーっ!」
「心を読んでみなさい、本当だと分かるはずよ」
「スキャナーなんかできません」
とまぁジュリアの話では、地下の寝室に居たのは父親イアルス。
しかし父は、時々ジュリアのことが分からなくなり、そんな時は決まって殴ってくるのだそうだ。
ん~、痴呆に癇癪か、介護問題は大変だよな……(。-`ω´-)
「でも島の魔術師デュピネオンが、有効な治療のレシピを教えてくれたのです。でも灯台の仕事はフルタイムで忙しくて、材料を手に入れる時間が無いのです」
「昨日の午前中、海で泳いでいましたよね?」
「それを言っちゃあおしまいだよ。ポーションを作っても、父は警戒して飲まないでしょう。だから私はパイに入れて焼けばと考えています。お願いします、材料を集めてください」
「まあいいけどね」
そういうわけで、午前中に海水浴する余裕はあるけど、フルタイムで灯台の仕事で忙しいジュリアに代わって、パイと薬の材料を集めることになったのである。
パイの材料は緑娘の胸――じゃなくて、小麦粉、リンゴがそれぞれ5つ、イチゴが4つ。そして薬の材料は、灰色シメジの傘、オダマキの根、鉄樹の実がそれぞれ2つ必要なのだ。
その中で、鉄樹の実というものはエウリウスの好物で、彼が持っていると聞いた。
まずはエウリウスに会うか。
書店では、遺跡で犠牲になったアマリウス兄貴に代わって店主を務めていた。
しかし、その仕事もそんなに長くは無さそうだ。
「私は兄に敬意を表して、冒険生活に入ることを考えています。後は叔父のカッシンドリアンに任せることにするんだ」
「そうか、でもいずれはまた書店に戻ってくるんだよね」
「恐らくそうなるかな。例えば冒険中に膝に矢を受けたりしたら、もう冒険できないので書店の店主として余生を過ごすだろう」
「いや、それだと衛兵になるから」
とりあえず、二階にイチゴがあったので、ちょっと分けてもらうことにした。
どろぼうさんちゃうで!
ってかイチゴ5つぐらいでギャーギャー言うな。
何? 一ヶ月続けたら150個? 雨垂れ石を穿つ? ごめんなさい! 犯人はグレイフォックスです!
ちなみに鉄樹の実は、叔父のカッシンドリアンの好物らしい。後で家に寄らせてもらおう。
次に、鉱山の食料庫から小麦粉を拝借。
木箱の上に、パックマンが居るねー。
さらに鉱山労働者の家にリンゴがあったので拝借。
どろぼうさんちゃうで――中略――犯人はグレイフォックスです!
さて、これでパイの材料は揃ったので、あとは薬の材料だ。ますば所在が分かっている鉄樹の実から行こう。
カッシンドリアンの家に入ると、彼がじっとこちらを見ているので、再び緑娘に陽動作戦を要請。
「………………」
「………………」
なんやこのすけべ叔父さんは。緑娘の豊満な胸を凝視中w
その間に、奥の食卓へ向かって、鉄樹の実を2粒拝借。ピスタチオみたいだね。
2粒取ったぐらいでギャーギャー雨だれ石を穿つので投獄されるグレイフォックスごめんなさい!
衛兵などは、このような犯罪には顔を真っ赤にして飛び込んでくるのだよなぁ。
その癖、街道の猛獣や追いはぎ、オブリビオンゲートは放置するから、如何に弱いところを責めて任務をこなしているように見せかけようの生きた見本だ。
ん、どろぼうさんを推奨しているのではないぞ。
しかし、残る灰色シメジの傘、オダマキの根が見つからない。
本土にはいっぱい生えているのだが、この島にあるのはアロエとかクズウコンばかりだ。
仕方が無い――
「リリィさんは、魔法の研究でいろいろと実験材料持ってますよね?」
「少しならありますよ」
「例えば灰色シメジの傘とかオダマキの根は持ってないよね。さすがのリリィさんも持ってないわなぁ」
「ありますよ、どうかしたのですか?」
「譲ってください!(`・ω・´)」
というわけで、ご都合主義みたいな感じになってしまったが、こうしてジュリアに依頼された材料を全て集めたのであった。
以上で、ジュリアの父親イアルスも元気になり、ジュリアも安心して海水浴に精を出せるようになったのであった。
めでたしめでたし――
以上で、スターク島での冒険は終わり。
もっとも冒険していたのは俺達だけで、ジ=スカール先輩やリリィさんは、のんびりと過ごしていたようだ。
最終的に目的の金鉱も、丸ごと手に入ったりしたので万歳モノだ。
ポーレから奪い取った金鉱は、今後も魔術師ギルドのために役立つことだろう。