見捨てられた鉱夫 後編 ~死と埋葬~
「遺骨探しなんて気持ち悪いから、あたしやらないからね」
「ん、集めるのは俺だ。君は周囲を見張っていてくれ」
「後でちゃんと手を洗ってよ」
「はいはい」
見捨てられた鉱夫、ジークは落盤に巻き込まれて亡くなっていた。
しかし遺骨をそのまま放置されていたため、成仏できずに彷徨っていたのだ。
彼を解放するために、俺は遺骨を探して集めることとなった。集めた遺骨は、礼拝堂にでも持っていって、後は神父さんになんとかしてもらえばいいだろう。
探し出す遺骨は全部で四つ。
ネズミが体をバラバラにしたため、この洞窟のあちこちに散乱していることだろう。
「お、肋骨が落ちていたぞ」
「早くしまって!」
「はいはい」
まずは遺骨の一つ、肋骨を発見した。
落盤地点には、この部分しか残っていなかったので、別の場所を探す必要があるね。
しかし緑娘は骨、スケルトンと普通に戦っていたのに、普通の骨は嫌がるのな。
洞窟を探していると、ネズミが襲い掛かってきた!
これはチャンスとばかりに、魂縛の魔法をかけてから退治してやる。これであとは、クマの魂を集めたら任務完了だね。
そして洞窟の別の一角で、今度は骨盤を見つけた。
「君は骨探しやらなくていいから、せめて松明持って照らしてくれよ」
「しょうがないわねぇ……」
緑娘に松明を手渡して、残る二つの遺骨を探して回る。
深海のかがり火という明かりの指輪はどうしたのかだって?
魔法に頼らず、たまには松明で雰囲気を楽しむのもよいのだよ、諸君。
次に見つけたのは、上腕骨。
ネズミが運んだためか、全部通路から離れた壁の奥とか隅に転がっている。
ゴールという生物が居たら、骨まで食ってしまうので残っていなかっただろうね。
最後は朽ちた箱の中から出てきた大腿骨。これで遺骨は全て集まった。
頭蓋骨とか指骨、肩甲骨は無くてもよいのか? という突っ込みは無しということで。
遺骨が揃ったので、ジークの所へと戻る。
頭蓋骨も必要だと言われたら、その時にまた探せばいいや。
「ジーク、遺骨を全部見つけたよ」
「あ、あんたっ、本当に俺を全部見つけたのかい?」
「ほら、肋骨に骨盤、上腕骨と大腿骨の四つだよ。でもやっぱり頭蓋骨も要る?」
「十分だ、俺の残りは潰されたのさ。あとはその遺骨をアンブロギオ神父の所に持っていかなりゃなんねぇ。それで俺も、ようやく成仏できるってもんだ」
アンブロギオ神父、確かこの島の礼拝堂に居る神父さんがそんな名前だったかな。
一旦鉱山を出て、礼拝堂に向かうことにしよう。
ポーレ金鉱から出ると、そろそろ日没が近づいていて月が昇りつつあった。
遺骨を届けたら、一旦宿に泊まってから出直すとするか。
ちなみに飲んだくれのトムにジークのことについて聞いてみたら、「しばらく会ってないな」とか言ってきた。
やはり見捨てられた鉱夫だったのだな、ジークは。気の毒な話だ……
そして礼拝堂へと戻ってきたのだが――
「誰もおらんやん」
「その奥にあるドアから地下室に行ったのじゃないかしら?」
礼拝堂から続いている別の部屋は、地下室だけだった。
地下に住むとは、変わった神父だなー。
待てよ、ここは金鉱脈でできた島。神父も夜な夜なこっそりと金塊の採掘をしているのではないのかな?
果たして神父は、地下室にあった普通の自室で食事中だった。
ただし、奥に扉があって、鉱山と繋がっているようだった。鍵がかかっていたけどね。
「こんばんは、落盤に巻き込まれて亡くなった、ジークという鉱夫の遺骨を持ってきました」
「おお、そんなものを見つけたのですか。分かりました、私が責任を持ってアーケイの儀式に従って墓地に埋葬しましょう。ステンダールがあなたの魂に、正義の祝福を与えんことを」
「よろしくお願いします」
「ところで私はあなたの顔をどこかで見たと思っていたのだが、ようやく思い出したよ」
「その先は言わなくていいです!」
…………(。-`ω´-)
俺やっぱ闘技場引退するわ。
適当な奴と、八百長塩試合やって負けよう……
さて、気を取り直して宿を探そう。
そんなわけで、小さな町を回ってみたのだが、どこも閉まっていて宿屋っぽい施設は見つからない。
苦情というか、困ったときはオレニウス中尉ということで、衛兵の砦に戻って宿について尋ねてみる。
その答えに俺は驚いたね。
「スタークには宿屋はありません。しかし、放浪者アルデンのような人が眠る場所を提供してくれるでしょう」
――とのことだった。
放浪者に頼ってだいじょうぶかな?
俺も放浪しろってか?
その放浪者アルデンは、乗ってきた船の甲板をうろうろしていた。
捕まえて「宿はどこだ」と尋ねてみる。
「その前に1ゴールドください」
「物乞いかよ! 大丈夫かこの島!」
「50Gで寝床を用意してあげますよ」
「ん~、背に腹はかえられぬ。よろしく頼むよ」
しかし、その答えにまたしても驚いたね。
「一応布団しいてもらったが、野宿かよ!」
「何よ、こんなところで寝るの?」
「どうする? 川の流れを枕にして寝るか?」
「濡れるぐらいだったらここでいい」
妙な代案を提案して、とりあえず緑娘を納得させてやった。
昔の人は、川の流れを枕にして寝て、石で口をすすいでいたらしいと聞く。不思議な人たちが居たものだね。
そんなことを考えているうちに、辺りは真っ暗になってしまったので、もう寝ることにした。
こんな場所でも野宿できないようだと、一人前の冒険者にはなれないものだ。
俺はアークメイジだけどね。
「それじゃあお休み」
「ねぇ、あなた」
「…………」
「頑張って帝位に就こうね」
「…………」
………
……
…
翌朝――
再びポーレ金鉱へ向かい、ウィンストンにジークの埋葬は終わったと伝えに行った。
彼は感謝はしてくれたが、お礼の品は用意できないと言ってきた。
「ん? 採れた金塊でよいのだぞ?」
「ああそうだったな、今日の朝から採れた分がこれだけだ。持っていっていいぞ」
「ふっふっ、エネルギー源の補充だ」
「食べ過ぎたら鼻血が出るぞ」
「わかっとるわかっとる」
あとは、ジークがちゃんと成仏できたかどうかだな。
しかし、もう一度落盤場所へ戻ると、まだジークは残ったままだった。
「あんたを待ってたよ、これで俺も成仏できそうだ」
「成仏してくだされ、なんまんだ~(。-人-)」
「これを俺の感謝として受け取ってくれ。あんたが暗闇にいるとき、そいつがあんたを暖かくしますように」
そう言うと、ジークは「ジークのアミュレット」というものを譲ってくれたのである。
暗闇でと言うから、松明を消してアミュレットを装着してみた。
「燃えてるわね」
「ん、フィアアーマンと呼べ」
「ブラックウッド商会幹部の、自滅用アイテムみたい」
「そういえば、そんなこともあったな……」
こうして、見捨てられた鉱夫のジークは成仏できて、ウィンストンの悩みも解決したのであった。
ジーク・ハズアイ!
おしまい
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