影より来る者 中編 ~イルノリとアリナー~
さて、クヴァッチでは新たな領主をどうするのか、という問題が発生していた。
そこで俺は、後継者として相応しいかもしれない者を探し出してくるという任務に就いたのだ。
さて、状況を整頓しておこうか。
イルノリという者は、クヴァッチの領主の部屋で見つけた自叙伝の著者。
そしてアリナーという者は、領主ゴールドワイン伯爵のご子息なのだ。アリナー姫か? おてんばか? とりあえずそういうことだ。
イルノリはシェイディンハルの近くに住んでいるらしく、ひょっしとたらそのイルノリという者が、名を変えたアリナーかもしれない、という話である。
まずは、ゴールドワイン伯爵の手記に書いてあったように、シェイディンハルの書店から調べてみよう。
というわけで、マッハ=ナー書店である。
音速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる店主がやっているのかな、マッハなだけに。
「こんにちは、あなたが音速騎士ですか?」
「私などより、あなたの名声の方が先に知られていますよ。ゲートの封印者、オブリビオンの天敵、そしてクヴァッチの英雄と!」
「うまくかわしたな、店主。ところでイルノリに関して何か知っているかな?」
「ええ、イルノリのことなら知っていますよ。ですがそれはただのペンネームで、本当の名前は私も知らないんです」
ペンネームとは、文芸作品を発表する際に使用される、本名以外の名前のことである。
つまり、イルノリがペンネームなら、本名はアリナーだという可能性が生まれたわけだ。
店主のマッハ=ナーは、彼が自叙伝を出版するときに手助けをしたそうで、今は町からすぐ東にある小屋に住んでいるはずだと教えてくれた。
そして、その小屋ではアドリアという少女がよく過ごしていたそうで、「いつもモルヴィリアンは素敵だ」なんて話を聞いていた。
つまり、イルノリの本名は、モルヴィリアンだというのだ。アリナーちゃうやん。
場所はこの辺り。
しかし、アリナーには用はあるけど、モルヴィリアンには用は無いぞ?
まだ偽名という線も残っているけどな……
それでもとりあえずは会ってみようと思い、町から出て東へと向かった。
舗装されていないこの道を進んだ先に、イルノリというペンネームを使ったモルヴィリアンが住んでいるというのだ。
そこに居たのはカジート二人、これがモルヴィリアンだとしたら、全然伯爵と関係ないじゃないか。
「こんにちは、あなたがモルヴィリアンですか?」
「まずい時に道に迷ったようだな!」
「なんだよ! 山賊かよ!」
「違うな、俺達は月影団だ!」
月影だろうが陽光だろうが、どっちみち野盗には変わりないじゃねーか!
――ってなわけで、サクッと月影団と名乗る野盗集団を退治してやりましたとさ。
しかしこの分だと、モルヴィリアンは野盗集団にやられてしまっている可能性が出てきたな。
アリナーと関係無かったら、どうでもいいけど……
しかし、モルヴィリアンの家は不可解だった。
なぜこんなに入り口を高くする必要があるのだろうか?
洪水に備えて高床式に――と言っても、ここは高台になっているから、ここまで浸水したら、シェイディンハルは壊滅状態になっちゃうぞ、と。
「お邪魔しま――」
「お前のゴールドを数えるのが楽しみだーっ!」
「――せんでした!」
既に小屋の中も、月影団に占拠されていましたとさ。
イルノリ探索の旅は、ここで失敗に終わったので、ある……(。-`ω´-)
「どうするの? あなたが領主になるのかしら?」
「領主になっていいのか?」
「ダメ、あなたは皇帝になるのよ」
「そう言うと思った」
とりあえず完全に諦める前に、この月影団の懐を探っておこう。
何か手掛かりが残されているかもしれないからね。
すると、こんなメモ書きが残されていた。
裏切者を監禁? 南の洞窟? とりあえず行ってみようか。
渓谷の川を見下ろす斜面沿いということは、この先に洞窟があるということだね。
しかし、見つけた洞窟の中は、やはり月影団でいっぱいであった。
「月影が使えるからー、最終皇帝は女の方がいいぞーっ!」
「だまれ野盗が。お前らの帝国は、どうせ仲という名前だろうが、偽帝め!」
次々に現れる月影団、信徒に密売人に強奪者。
信徒が居るってことは、月影団は宗教団体か? 深遠の暁教団みたいな。
奥の間には大量の月影団が。
しかし俺はあることに気がついた。月影団は、全てカジートで編成されているということに。
魔術師大学に帰ったら、ジ=スカール先輩に月影団について何か知っているか聞いてみようかな。
さて、月影団のボスらしきカジートは、牢獄の鍵を持っていた。
ということは、このどこかに牢屋があるということだ。モルヴィリアンはそこに捕らえられているに違いない。
そして牢屋の中では、一人の男が不貞寝をしていたのだった。
「こらぁ! 起きんかぁ!」
「私は夢を見ているのだ、邪魔をするな」
「こんな夢を見た。君を助ける夢をな」
「ほほぉ、君はなかなかの手練のようだな。あいつらを打ち負かす者は、私が知っている中でもほんの一握りしか居ない」
「月影団って何なんだ?」
「あれは私の元同僚だ。かつてスカイリムをうろついていた危険な連中だよ」
「カジート集団なのに活動場所はエルスウェアじゃなくてスカイリムなのな。で、そのの中に、あなたが一人だけ紛れ込んでいたのですか?」
「とにかくもうほっといてくれ。人生における唯一の安らぎは失われてしまったのだ、可哀想なアドリア……」
そう言うと、モルヴィリアンは再び不貞腐れてしまった。
アドリアと言えば、書店の店主が言っていた少女の事か。つまり、月影団にやられてしまったということか。
まぁ小屋があの状態で、ここに監禁されていないとなるとそうなるわな。
彼は月影団を抜け出してずっと身を隠していたが、連中に見つかってしまい今に至る。
それはそれで置いといて、俺はクヴァッチの跡継ぎについて話を振ってみた。
彼はそこで起きた出来事や、現在復興し始めていることは知っていた。しかし、自分は跡継ぎではないと言い出した。
なんでも、記憶にある限り、彼はずっと一人だったと。
ただし、以前クマに襲われたときの傷が元で、記憶があやふやだと付け加えていた。
次に、アリナーについても尋ねてみた。
彼は、アリナーはアドリアと出会うまでのただ一人の親友だと言ってきた。そして、それは狼の名前で、ずいぶん前に死んでしまったと。
ん~、いろいろと記憶が混同しているのかな?
かつての自分の名前を、狼に付けたということなのかな?
「クヴァッチの跡継ぎは、アリナーと呼ばれていたみたいだけどね」
「なるほど、クヴァッチは狼の町だな。まるで狼の血族だ」
「あなたがアリナーなのですよ」
「なんだと? 私は失ってしまった記憶を取り戻しつつあるとでも言うつもりか?! もう放っておいてくれ!」
ダメだなこれは。少し考える時間を与えて落ち着かせるしかない。
何か彼を説得できる手段があれば良いのだけどな。
ただし、牢屋から開放されたということで、モルヴィリアンはどこかへと向かい始めたのであった。
続く――
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