イタズラ先輩ジ=スカールの戦い ~ブラヴィルに現れたゲート~
この者の名前はジ=スカール。
シロディールの魔術師ギルドに所属する者で、アークメイジラムリーザの先輩である。
ジ=スカールは元々ブルーマ支部に務める平メンバーであったが、死霊術師の攻撃でブルーマ支部が破壊されてからいろいろと人生が変わることになった。
ジョアン・フラソリックと違って、ジュラーエルは本当に実力のある魔術師で、イタズラを仕掛けようにも軽くあしらわれてしまった。
そこで気を入れ替えて、行動場所を大学へと変えることにしたのだ。
大きな転機は、ラムリーザがなんだか落ち込んでいるみたいだったので、この者の故郷であるエルスウェアへの旅行を企画してあげたときだ。後輩の面倒は、先輩として見てあげるべきものなのだ。
そこでジ=スカールはニラーシャと出会った。
オークレストで初めて会った時、彼女は婚約者を失い寂しそうにしていた。その婚約者は追いはぎで、ジ=スカール達に襲い掛かってきたので反撃で退治してしまったという経緯がある。
だがニラーシャに罪は無い。エルスウェア旅行では、少しの間ラムリーザとは別行動をして、彼女をいろいろと慰めてやったものだ。
シロデイールへ帰ってきて最初は文通だけだったが、ラムリーザが一時行方不明だったときに彼女を呼び寄せ、一緒に各街の支部を回って推薦状を集めたりして、今では彼女はギルドの見習い魔術師となっている。
そこに、ラムリーザからの指令がやってきたというわけだ。
ジ=スカールに担当された場所はブラヴィル。
確かに街のすぐ近くにオブリビオン・ゲートが開いている。
しかしゲートまでの間に、デイドラ軍の斥候がうろついているではないか。
困ったことに、この者はそれほど戦いが得意ではないのだ。
しかし、ジ=スカールには秘策がある。
ラムリーザは、ゲートを閉じるためにはデイドラと戦う必要は無いと言った。
ただ一つ、シジル・ストーンという物を奪ってやればよい、と。
ならばジ=スカールの取るべき道はただ一つ。
姿を消してデイドラを騙し、こっそりとシジルストーンとやらを頂いてしまうというものだ。
目前にそびえたつ巨大なゲートに気圧されてしまうが、これもシロデイールのため、勇気を振り絞って突入するのだ。
これでもこのジ=スカール、この世界が好きだ。だから、滅んでほしくないのだ。
ニラーシャよ、ジ=スカールはやり遂げて見せるよ。
ふむ、これがオブリビオンの世界か。この者はこんな陰気な世界は好きじゃない。
ラムリーザが言うには、塔があってその頂上にあるシジルストーンを取れば、ゲートを閉じられると聞いた。
この世界には塔が三つ、二つの塔は囮なのだろうな。
こんな場合、中央にある塔が本物だと決め付ける。
なぜかだって?
ジ=スカールは本命は中央に並べたいといつも考えている。それだけのことである。
思ったとおり、奥側にあった塔ではエネルギーの柱が立っている。
ここが正解だ。あとは上へ登っていけばよいのだろう。
ラムリーザは一気に駆け上ってしまえばよいと言いましたが、慌てる必要は無い。
ジ=スカールの姿は、デイドラには見えていないのだから。
ブルーマの支部で、死霊術師の襲撃を受けたときを思い出してしまう。
あの時のように、デイドラが突然ジ=スカールの方を見据えて、ニヤリと笑ったらなどと思うと――
だめだニラーシャ、でもジ=スカールはがんばるよ。
塔は螺旋状に通路が続いていて、ぐるぐると回るように進んで登っていくようだ。
スパイラルラビリンスとでも言うのだろうか?
螺旋状の通路を登っていくと、天井が見えてきたぞ。
エネルギーの柱は、その天井の中央からさらに上へと伸びているようだな。
デイドラよ、こちらを見るのではないぞ……
姿は見えていない、見えていないはずなんだ。
さらに螺旋通路を登ると、先ほど見えた天井の上へと辿りついたのだ。
エネルギーの柱はここで終わりのようで、その先端には黒い玉が浮かんでいるな。あれがシジルストーンだろう。
これを取ってしまえば、任務完了だ。
デイドラ共は、知らぬ間にシジルストーンを奪われて、ゲートを失うのである。
ジ=スカールもやる時はやるのだ。後輩のラムリーザに負けてばかりはいられないからな。
黒い玉を取ると、周囲が真っ赤に燃え上がり、次に気がついたときには――
ジ=スカールは、ゲートの外に居たデイドラの斥候に囲まれていたぞ。
これは困った。シジルストーンの間に到着できた油断から、透明化を解いてしまっていた。
この場で取ることのできる策は、ただ一つ――
ジ=スカールは逃げ出した。
任務はオブリビオン・ゲートを閉じることであって、デイドラの殲滅ではない。
デイドラの殲滅は、クヴァッチの英雄などと呼ばれているラムリーザに任せるとしよう。
ジ=スカールにはジ=スカールに向いた話、ラムリーザにはラムリーザに相応しい任務と言うものがあるのだ。
これはジ=スカールの任務ではない。
ジ=スカールは後ろを振り返ることも無く、帝都の魔術師大学へと駆け去っていったのである。
こうして、ブラヴィルのゲートも閉じられ、伯爵はブルーマへの援軍を送ることを認めてくれるのだ。
まだ伯爵と話はしていないけどね。
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