ザルクセスの神秘の書 ~危険な本~
この日のおはようは、シェイディンハルの自宅で迎えた。
いろいろとやらなければならないことは多いが、24時間戦えますか? 俺は戦えないよ。
だからちゃんと休養を取る時は取る。
そもそも現在のオブリビオンの動乱は――
「王者のアミュレットの奪還は失敗したのね」
「ああ、失敗した。マンカー・キャモランは楽園とやらに行ってしまった」
「そこであたし思ったんだけど、どうかしら?」
どうせ皇帝の座を簒奪しろとの誘いだろ?
それはマーティンが、皇帝として相応しくないとわかったときに考えると言っているのにね。
「あのマーティンってのが皇帝になるには、王者のアミュレットが必要」
「そうだね」
「でもあなたは、そんなもの必要ない」
「ドラゴンボーンじゃないから、使いこなせないだけだよ」
「そうじゃなくて、今日の祭壇襲撃作戦をしてわかったのよ。あなたは別に王者のアミュレットが無くても、ドラゴンボーンでなくても、迫り来る脅威を自分の力でねじ伏せることができるわ」
確かにそれも一理ある。
マニマルコの脅威も、ブラックウッド商会の脅威も、グレイ・フォックス作戦も、なんだかんだで自分たちの力でやり遂げてきた。
それに今回の潜入作戦も、奇襲作戦といいつつ正面から戦いを挑んで、深遠の暁教団の狂信者共を殲滅してきた。
ひょっとしたら、俺なら王者のアミュレットというハードウェアに頼ることなく、メエルーンズ・デイゴンと正面からやり合って勝てるのかもしれない。
いやダメだダメだ、自分がこうしていれば事態を変えることができると思い込むのは自己過信というものだろう。
少なくともマーティンやジョフリーは、俺のことを信頼してくれている。
俺は、その信頼に応える義務があるのだ。
「俺ができることは、精々宰相としてマーティンを補佐することさ。そういう意味では、ライバルは元老院のオカトーと考えるべきだろうね」
「皇帝になったあなたを見てみたいなぁ……」
「ダメだってば」
「帝位を簒奪する気になったらいつでも言ってね。あたしはあなたが皇帝になることに向けて、全力でその手助けをするわ」
「マーティンの手助けをしてやれよ。まったく、オカトーに頼んで戦士ギルドもこの困難に立ち向かうよう公表してもらわなければな」
「まあいいわ。マーティンが居なくなれば、あなたにもチャンスが生まれるってこと」
「不穏なこと言うなってば」
なぜオカトーは、魔術師大学は協力するよう言ったのに、戦士ギルドには声をかけなかったのだろうか?
そちらにも声をかけていれば、緑娘もマーティンの補佐をすることが義務になっていたのにね。
ただ、緑娘は魔術師ギルドの一員でもある。アークメイジとして命令することも可能なのだ。
さて、今日の予定は、クラウドルーラー神殿に行って、これまでの顛末をマーティンやジョフリーに報告しておこう。
マンカー・キャモランの行動、そして手に入れたザルクセスの神秘の書のことも、報告しておくべきだろう。
それから時間があれば、羊の移動かな。
全くなんで羊を買ったのだ緑娘は。それで余計な手間を、ジ=スカール先輩にかけてしまっている。
まぁ先輩も暇そうだから、羊の世話ぐらいしてあげてもいいのにと思うけど、単純に嫌なのだろうな。俺も羊の世話など、嫌だ。
そんな事を思いながら、帝都近くまで戻ってきて、北へと進路を向けたときにそれは姿を現した。
まずいな、帝都の近くにもオブリビオン・ゲートが出現している。デイドロスやアトロナックが徘徊しているね。
これで俺の知る限り、放置しているゲートは4つ。スキングラード地方に三つ、ここに一つだ。
「こらっ、二人乗りはアカンと言っているだろうが!」
「他にもっと心配することあるだろが!」
帝国の衛兵はアホだ。
目の前にあるオブリビオン・ゲートよりも、俺と緑娘のユニコーン二人乗りが気になるらしい。
軽犯罪に目くじら立てている暇があるなら、ゲートに飛び込んでシジルストーンの一つでも取って来いっての!
やはり民衆は、オブリビオン・ゲートの脅威を知らないのだろうなぁ……
それとも巡回している帝国衛兵は、精々警備員レベルのものなのだろうか。
というわけで、クラウドルーラー神殿である。
サンドクローラーみたいな名前の神殿だな、ということはおいといて、早速マーティンを探す。
「おお、アークメイジのラムリーザではないか。壮健そうでなによりだ」
「各地にオブリビオン・ゲートが出現しまくっているのです。一刻も早く、王者のアミュレットを取り戻さなければならないでしょう」
「それで、そのアミュレット奪還作戦はどうなったのだ?」
「ふっふっふっ、作戦というものは実行するよりも早く失敗することはないのだ」
「それで、実行したのだな」
「うむ、失敗してしまったがな……(。-`ω´-)」
「いや、そんなに自信満々に言われても困るのだが……」
そこで俺は、おもむろに持っていた本を取り出して開く。
読んでいる風に見せるが、これはザルクセスの神秘の書。意味不明の記号が書かれた本で、何を書いているかはさっぱりだ。
「ちょっと待てアークメイジよ、それはザルクセスの神秘の書ではないのか?」
「ザルクセスの神秘の書だったらどうするのだ?」
「九大神よ! それは持っているだけでも危険な物だ!」
「なんですと?!」
危険な本って何だよ、しかも持っているだけで。
ナチュラン・デモントは三冊あって、そのうち二つは偽物。一冊は手に取ろうとすると噛み付いてきて、もう一冊は奈落へと通じていて、ページを開こうものなら吸い込まれてしまうといった恐ろしいものだ。
そんな本の類か?
「いや、すまない。つい取り乱してしまった」
マーティンは謝ると、今度はその本は自分が持っていたほうが良いだろうと言い出した。何でも彼なら悪しき力から身を守る術をいくつか心得ているからだそうだが、俺も大概だぞ。
まぁ持ちたいなら持たせてあげよう。俺が持っていても、意味不明な文字列を解読できるわけもなく、持ち腐れになってしまうからね。
ター=ミーナに解読してもらうのが早いと思うのだが、まあいいか。
「王者のアミュレットは、マンカー・キャモランが身に付けたままどこかに行ってしまったよ。演説では楽園とか言っていたけど」
「楽園か。ひょっとしたらこの本に、その楽園へ通じる扉を開くための秘密の方法が記されているかもしれないな」
「あなたに解読ができるのですか?」
「時間がかかると思うが、やり遂げてみせる。だが闇の秘術に触れることは、たとえ読むだけでも大きな危険が伴う」
「例えば目が見えなくなるとかですか?」
「それはエルダースクロールだ」
そんなわけでマーティンは、ザルクセスの神秘の書の解読を行うことになった。
時間がかかるのならター=ミーナに任せても良いのだが、やりたい人にやらせるのが一番だからね。
ちなみに、思うことがあるのか、緑娘は俺がマーティンとやり取りをしている時に、全然関わらないようにしていた。
そこまでライバル視させなくてもいいのにな。緑娘がマーティンのライバルではないぞ。緑娘が、俺をマーティンのライバルだと勝手に決め付けているのだ。
さて、このザルクセスの神秘の書というものだが、マーティンの話ではメエルーンズデイゴン自らがしたため、マンカー・キャモランに授けられたものだという。
そしてキャモランは、この本を使って楽園を創造したと考えられるのだ。
楽園か、学園ではないのな。学園ならば、高校と大学の間で通う学校だと聞くが、真偽の程は定かではない。
後は、先日暁の道作戦で一緒したバウルスが戻ってきていたりした。
彼は、帝都で助けてもらったことについて礼を述べ、ブレイズで習得した技を俺に伝授してくれた。
剣術の技能が上がったような気もするが、俺の剣術は素人同然だ。晴れて素人に毛が生えたぐらいに成長したのである。