暁の道 その三 ~邪教書探しの交渉~
神話の暁教解説書第三巻は、ファースト書店で購入することができた。
そして第四巻についての情報は、本来その三巻を買おうとしていたグウィナスより聞くことができた。
どうも帝都の地下下水道に、深遠の暁教団の支部みたいなところがあるみたいなのだ。
「おお、グランドチャンピオン! あんたがグレイ・プリンス――」
「その話はもういいから、このメモを見てください。第四巻まで手に入れることができそうです」
なんかアリーナを引退したくなってきた。
どうもグレイ・プリンスに勝ったことが、ものすごく帝国の人々には印象に残っているようだ。
それを超える印象……、おれがチャンピオンの座から転落することかな……、それやったら死ぬことになるけど。
さて、下水道に関しては、バウルスは詳しいようだ。
なんでも、ブレイズの極秘作戦でも使われていたらしい。人目を引かずに都市を移動できるからという理由で。
俺なら人目につきたくないなら、透明化の魔法を使うけどね。
というわけで、下水道入り口である。
帝都にはいろいろな場所に下水道入り口があるけど、どこがどこに繋がっているかまで知っているのだね。
ブレイズの副業は、配管工っと。スッポンでも装備しているがよい。
地下下水道については、語ることはあまりない。
ネズミ、カニ、ゴブリンを、バウルスが一人で蹴散らしながらどんどん進んでいく。
さすが皇帝脱出作戦で生き残ってきた我が精鋭たち、と言っても一人だが、それなりに実力はあるようだ。
「ここだ。このドアの向こうには、テーブルの置かれた部屋がある。以前から誰が何の為に置いたのか不思議だったが、これで謎が解けたな」
バウルスは、扉の前で立ち止まり振り替えると、話してきた。
二人で乗り込むか? と聞いてみたが、バウルスは一人で会合に望むと言う。
俺は上から乗り込んで、援護してくれだとさ。
「いいか、絶対に本を手に入れるのだ。アミュレットを見つけるには、何としても本が必要だからな」
「了解した。いざとなったら上から狙撃魔法でも放ちますよ」
「頼りにしているグランドチャンピオン、いや、アークメイジ。俺は死ぬかもしれんが、君はなんとしてでも生き残って、本を手に入れて王者のアミュレットを見つけるんだ」
「グランドチャンピオンとしては支援するつもりはないが、アークメイジとしてなら絶対に君を生還させてやろう」
「頼むぞ、クヴァッチの英雄!」
「それは却下(。-`ω´-)」
俺はバウルスと握手すると、上の通路に向かう階段を登っていった。
重い扉を開けて、会合の場へと乗り込む。
バウルスの会合がこじれたら、総攻撃をしかけるためだ。
「これはこれはようこそ、深遠の暁へ入信希望ですか?」
「いや、大人しく第四巻をよこせ」
「何だ? お前は何者だ?!」
「ブレイズのバウルスだ! 皇帝陛下の仇を取ってやる!」
すでに話はこじれていやがる……(。-`ω´-)
というか、最初から交渉していないじゃないかバウルスさんよ!
しょうがないので、フリーズ・レイを放っておく。
霊峰の指とは違い、範囲を狭めて一転集中できるので狙撃に良い。
しかも相手を凍らせて動きを止めるので、後はバウルスが動けない相手をボコボコにしてしまえばよいだけだ。
派手な魔法でドカンだけが能ではない。こうした支援魔法も使いこなせてこそ、真の魔術師なのだ。魔術師ラムと呼べ、ただしペテン師とは呼ぶな。
「よし、うまくいったな! まだ殺し足りないなんて言えないけどな!」
「最初から強盗する気満々だっただろ?」
「陛下の仇を取らずしていられるか、というものだ。とにかくこれで用は終わった。本を回収してここから出よう」
やっぱり死体弄りは俺の仕事なのな。
「ん、こいつが第四巻を持っているみたいだね」
「よし、これで全て揃ったわけだ。後はお前に任せよう。アークメイジはター=ミーナと知り合いだからな」
「あんたはどうするんだい? まだ深遠の暁教団の組織網を追跡するのかな?」
「いや、俺はクラウドルーラー神殿に向かう。マーティンのお傍が俺の居場所だ」
「マーティンのお傍……(。-`ω´-)」
「変なことを考えるな、そういう意味ではない」
そう言い残して、バウルスはこの場所を立ち去っていった。
今度は最後まで護衛できるといいね、俺はそう願っているからな。
さて、この通り四冊揃ったわけだが、四巻はどんな内容かな?
ガートック? 第四の鍵? ヌマンティア? 七つの呪い?
うーん、やっぱりよくわからん。
第四巻だけ重さが全く無いのも不思議だ。
素直にター=ミーナさんに任せよう。
テーブルの置いてあった部屋の奥は、広い部屋になっていた。
そこには評論・深遠の暁の一巻と二巻が置いてあったり、例の赤いローブが置いてあったりする。
それ以外で気になるものと言えば、黄金の太陽が描かれている赤い旗かな。
暁という言葉は、夜明けを意味する。つまりこの旗は暁、すなわち深遠の暁を意味しているのだ。などと、かっこよく解釈してみるテスト。
皇帝を殺してデイゴンを復活させる。やはりデイゴンの目的が、どこまであるのかが気になるね。
他には見るべき物は無いと思われたので、俺もそのまま下水道から立ち去ることにした。
………
……
…
「ター=ミーナさん! 全四巻入手しました!」
「えらいっ!」
いろいろと苦労して集めたのに、その感想が「えらい」の一言ではなんだかありがたみがないぞ。もうちょっと感激してくれてもよい気がするが……
ひょっとして俺に、こんな本集めにマジになっちゃってどうするの? などと遠まわしにからかっているのだろうか?
まぁ本を探すのは目的に向けての第一歩。王者のアミュレットを取り戻すのが、最終目的。いや、デイゴンの侵攻を防ぐのが、最終目的だね。
ター=ミーナは、俺の持ち帰った本を広げると、早速解読に取り掛かった。
「ふむふむ、こんな風に聖書に隠されたメッセージを織り込むのは、この手のカルト集団の常套手段よ」
「ガートックとか、ヌマンティアですか?」
「どうでしょうか。それでもこれでメエルーンズ・デイゴンを祀る秘密の祭壇を見つけ出せるでしょう」
「それで、秘密の祭壇はどこですか?」
「ん~、ん~、また明日出直してきて。何か分かったらあなたにも教えるわ」
「はいよっ」
そんなわけで、後はター=ミーナに任せることにした。俺が読んでも何の意味もわからんからな。
入信希望者に最初に課せられるテストは、その祭壇への道を見つけ出すこと。
その祭壇がどこにあるのか? 見つけられるのか?
それは四冊の本に散りばめられたパズルを解く、ター=ミーナにかかっているのだった。
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