スプリングヒールの靴 前編 ~スプリングヒール・ジャックの伝説~
グレイ・フォックスからの指令は、いつ飛んでくるかわからない。
どうせ伝令は、あのどんくさいアミューゼイだろうから、彼が迷わないように帝都内に滞在してやろうというわけだ。
帝都アリーナ地区へ行ってみると、闘技場の外で殴りあっている者が二人。
よく見たら喧嘩ではなくて、ただの闘士志願者のスパーリングだった。
見ていたら、いくらかコツを掴んだような錯覚がして、格闘スキルが5上がったような気がするが、気のせいだろう。
「ラムリーザ、見つけたぞ」
その時、背後からアルゴニアン独特のしゃがれ声がかかってきた。
来たなアミューゼイ、しかし場所が悪い。
ここでグレイ・フォックスの話をするのはマズイ。闘士志願者に余計なことを聞かれてしまう恐れがある。
「ちょっと場所を移動して伺おう」
俺は、アミューゼイを闘技場の裏へと連れて行――
「ばいあずーらばいあずーらばいあずーら! グランドチャンピオンだ! 僕の目の前に立っている! 何かして欲しいことが――」
「うるさい、引っ込んでろ!」
こっちは忙しいのだ、名前も明かさぬ素性不明な熱狂的なファンに構ってられるか!
……って待てよ?(。-`ω´-)
グレイ・フォックスの正体が、このたまねぎ坊主の可能性は無いだろうか?
こいつの名前は聞いたことがあるけど忘れたということもありうる。
グレイ・カウルを被れば、この意味不明な髪型を隠せるというものだ。
「いきなり手を出すことは無いと思うわ」
「そうか、それならこいつの相手を頼む。俺はアミューゼイと秘密の取り引きを行うからな」
熱狂的なファンを緑娘に預けると、俺は闘技場の裏へアミューゼイを連れ込んだ。
「それでは改めて伺おうか」
「グレイ・フォックスがあんたに会いたがっているぞ。シェイディンハルにあるギャンデルの家で待っているそうだ」
「今度はまた別の場所か。これでは本拠地がつかめないな……」
「あんたはかなり重要な人物なんだな!」
「それほどでもない」
というわけで、今度はシェイディンハルで仕事か。
あそこにも家があるし、緑娘をまた連れて行ってやるか。
――って、何をやっているんだーっ?!
「人には突然殴りかかることは無いとか言っておいて、何をやっとるのだねキミは?」
「あなたは正しかったわ、こいつウザい!」
「分かってくれたか友よ!」
「あっ! 婚約者から友人に格下げした! でもあたしは手は出してないもん!」
「知らんがな……」
手を出してないと言っても、緑娘に踏まれるのは、俺に殴られるのより痛いと思うのだがな……(。-`ω´-)
さて、帝都からシェイディンハルへの移動だ。
ユニコーンに乗ると、普通に二人乗りを要求してきよった緑娘。
シマウマはあまりかっこよくないから白鹿で併走できるけど、ユニコーンだと格が落ちるから一緒に乗るとか、よく分からん持論を展開してくる。
当然衛兵に見つかって、また「二人乗りするな」と怒られてしまう。
そんなこと言うのなら、シロディールをゾウで駆け回ってやるぞ!
………
……
…
――とか何とか、いろいろ割愛してギャンデルの家である。
表通りに緑娘を待たせて、グレイ・フォックスとの三度目の面会と行きますか。
俺はいつの間にか、グレイ・フォックスの正体に興味津々になっているのであった。
「仮面を取って頂けますか? 中身はどうせたまねぎ頭でしょう?」
「それはできないし違う。ところでサヴィラ石を調査したところ、私の計画を実行するためには、もう一つの特別なアイテムが必要になることがわかった」
「その計画の具体案をお聞かせください」
「それはまだ早い。さて、必要なのはスプリングヒール・ジャックの靴だ。300年ほど前に没した有名な盗賊だ」
「現在の戦士ギルドマスターである、ニードルヒール・緑娘の靴ではダメですか?」
「ミドリムスメとは何か? 話を戻すぞ、彼はブーツを履いたまま埋葬されたらしいのだ。スプリングヒール・ジャックの埋葬場所を突き止め、その靴を持ち帰るのだ」
「わかりました、探し出してきましょう」
「あっぱれだ! 確認できたの彼の末裔は、インベル公だけだ。帝都在住のジャクベン・インベル伯爵の所に手がかりがあるかもしれん」
緑娘のように武器化させない限り、靴なんて何でも同じような気がするけど、グレイ・フォックスが求めるのなら探してみよう。
スプリング・ヒールと言ったらばねの足、なんだろう、ジャンプ力が上がるのかな?
ニードルヒールとスプリングヒール、どっちで蹴られたいかと聞かれたら、当然後者を選ぶけどね!
そしてジャックと言う盗賊の末裔が帝都に居るのなら、緑娘をシェイディンハルに置いておく必要は無い。
連れて帰って帝都で待たせておくほうがよいだろう。
というわけで、グレイ・フォックスと別れてギャンデルの家を出たところ、待たせていた場所に緑娘が居ない。
どこに行った?
何故かギャンデルの家の隣家をじっと見つめていた。
何があるのだろうか?
「おい、何をしている? 帝都に帰るぞ」
「あ、ラムリーザ。あたし、何だかこの家に嫌な予感を覚えるのよ」
「またか? 前もなんかそんなことなかったか?」
「この家、何なのかしら……」
「悪魔の棲む家ではなさそうだが……」
「あたし、この家にまつわる者に殺されるかも」
「またまたー」
まあよい、帝都に戻るぞ。
緑娘を殺せるような奴が、この世界に居るものか。
「懐かしいわね、この水辺で遊んだこともあったっけ」
「ん、水上歩行の首飾り使うのか?」
「使わない」
そういえば、シェイディンハルで戦士ギルドに加わったとき、緑娘の本名が分かったりしたんだよな。
あの時は、緑娘が戦士ギルドで栄達するなんて思ってもいなかったけど、今では立派な戦士ギルドマスター。
マスターになったからと言って、ギルドにつきっきりというわけではなくて、俺と一緒に東部連峰に行ったりエルスウェアに行ったりと自由奔放だ。
まぁアークメイジの俺が言えた物ではないけどね。
………
……
…
さて、帝都港湾地区にある家に戻ってきた。
この家は一人用だから、緑娘を待たせるには丁度よい場所なのだ。
アークメイジの私室はあくまでアークメイジの私室だから、緑娘を連れ込むとラミナスさんがあまり良い顔をしない。
そんなわけで、ジャクベン・インベル伯爵の探索が始まったのである。
続く――
前の話へ/目次に戻る/次の話へ