新たな打撃 その二 ~農場襲撃?!~
さーて何だ、東部連峰の山賊問題を解決するために、山賊の集団へ潜入することになったのだったな。
カヌルス監視塔へ行き、山賊の信頼を得なければならないのだ。
林務兵ジェイソンに教えられて辿りついたカヌルス監視塔は、やはり東部連峰に来る途中で見かけた死体をぶら下げた塔だった。
たぶんあの死体は、見せしめのために吊るされた衛兵の一人なんだろうなぁ……
さて、いきなり塔に入っても大丈夫かな?
山賊は問答無用で襲い掛かってくるのが常だから、油断してはいけない。
いつでも戦えるように塔の中に入ると、二人の――男が一人、獣族が一人、俺を迎えてくれた。
近くに居た獣族に話しかけてみると、「強盗だよ。死にたくなけりゃ、おとなしく金を出せ」などと言ってきたりする。
追い剥ぎかよ!
しかしジェイソンに「信頼を得るために彼らの指示に従え」と言われていたので、素直に金を出しておく。
山賊問題が片付いたら取り返せばいい。追い剥ぎの名前はジェザ、覚えておくよ。
しかし仲間になったら返してくれるのかな?
もう一人の男はハザーと言い、追い剥ぎではなく山賊の部隊長みたいなものだった。
リーダーはメイソン・ドレスと聞いていたので、こいつはボスではないのだろう。
「お前はここで何をしている? 殺されたいのか?」
「山賊――、いやあなた達の部隊に参加したい!」
「参加したいと望んだだけで、仲間になれると思っているのか?」
「魔術師ギルドや戦士ギルドは入れてくれと言えばすんなり――じゃなくて、これが手土産だ」
あまり余計なことを言うのはやめて、ジェイソンから預かっていた修道院の指を見せてやった。
そしたらこの部隊長? なんか俺に興味を持ったみたいだ。俺の言うことが好きなのだとさ。
しかしハザーは、仲間に加わるためには自分の実力を証明しなければならんと言い出した。
どうやら入団テストがあるみたいだな、魔術師ギルドの推薦状集めみたいなものか。
「現在小さな農場を襲う準備をしているのだ。俺達と一緒に襲撃に来い!」
「合点承知の輔!」
「よし、集結地点に向かうぞ。付いて来い!」
指示には従えとの指令が出ているので、ここも素直に従っておく。
しかし小さな農場、ケイン・ヤコニの農場かな?
塔から出ると、ハザーはひたすら走り続けている。そんなに急ぎの用事なのかな?
そして到着した場所はキャンプみたいで、緑っぽい鎧を着けた山賊集団が集まっていた。
この鎧は初めて見るものだな、クリムゾン・ブレード賊みたいに鎧で識別しているわけではなさそうだ。
とりあえず、襲撃はどうするのかハザーに聞いてみる必要がありそうだな。
もっとも、農場を襲ってケイン達を退治するのはあまり気が進まないが……(。-`ω´-)
「攻撃を始める準備はできたのか? 永遠には待てないぞ!」
「攻撃しましょう」
「よし、お前の任務は単純だ。農場に行って羊から肉を調達して来るんだ。俺達は余分に物資が必要だからな。どんなやりかたでもよい、必要なら殺してでも略奪して来い」
「羊肉ね、了解した」
この任務を聞いたとき、俺は安心したね。
農場の主ケインを殺害しろとか言われたら躊躇するところだった。
羊肉なら、こっそりと盗み出すこともできるだろう。
何しろ俺は、盗賊(ギルドに潜入中)だからな!
ハザーの話を聞いた後、振り返ると山賊の集団はキャンプから姿を消していた。
ぬ、急いで農場に向かわなければ。
………
……
…
俺が農場に着いた時、既に襲撃は始まっていた。
農夫がどんどん襲われているけど、これでいいのか? ジェイソンよ。
でも結局の所、山賊も盗賊も同じだよな。
殺すか盗むかの違いで、やっていることは同じ、民衆を虐げるだけだ。
グレイ・フォックスを退治するために近づいているのと同じように、メイソン・ドレスを退治するまでの我慢。
ここは心を鬼にして、自分の仕事に集中しよう。
俺の仕事は、羊の肉を奪ってくること。
羊を殺すのは可哀想なので、ケインの家とかから盗み出すことにしようかな。さっきも言ったが、俺盗賊だし。
しかし、羊農場の様子を見てみると、羊に襲い掛かっている山賊が居るじゃないか。
羊も退治するのかこいつらは? ヒストの樹液でも使っているのか?
俺は、なんだか緑娘がウォーターズ・エッジで羊に襲い掛かっていた光景を思い出していた。
しかし緑娘を連れてこなくてよかった。
この光景を見たら、緑娘は逆上して山賊に襲い掛かること間違いなし。
そうなったら潜入作戦も台無しになってしまう。
あ~あ……
山賊は羊を片っ端から退治していっちゃったよ。
仕方が無いか、盗むのはやめにしてこいつらの肉を頂こう。
これを見たら緑娘は怒るだろうな……
この農場には緑娘を近づけない方が賢明だな……
一応羊肉は入手できたから良しとしよう。
気がつくと、辺りは静かになっていた。どうやら襲撃は終わったようだ。
畑の中には、犠牲となった農夫が転がっている。
この作戦はこれでよかったのだろうか?
東部連峰を拠点にしている山賊集団を殲滅するために、農場の住民を犠牲にしたということか?
……あまり深く考えないことにしよう。
多数を救うために少数を犠牲にする。そんな葛藤は為政者が考えていたら良いのだ。
これは東部連峰の衛兵が考えた作戦。俺はただの実行員、責任はジェイソンにあるということでよいだろう。
それにここで俺が反発しても、末端のハザーを仕留める事ができるだけ。
目的はそんなところには無い、頭のメイソン・ドレスを退治するのが目的なのだ。
しかし山賊は何が目的でこの農場を襲撃したのだ?
乗っ取るわけでもなし、農作物を奪うでもなし。
なんかブラック・ウッド商会みたいだな、あれも意味無くウォーターズ・エッジを襲撃していたし。
とりあえず羊肉は入手できたので、ハザーの元へと戻ることにした。
………
……
…
「俺の求めていた羊肉は手に入れたか?」
「ここに持ってきたよ」
「よくやった! それでは俺達のリーダーの所に連れて行ってやろう。とてもよく知られた将軍様だ」
「ダイヤモンドパワーとか地獄の九所封じとかしてきますか?」
「そんな話は聞かん。ただ完全に死んだものとして有名だ。まぁそれは衛兵の考えだがな」
ぬ、ジェイソンはかつてドレスを殺したと言っていたな。
ということは、あっさりとドレスの元へと案内してくれるのだろうか?
「それではついて来い!」
「また全力疾走かよ!」
ハザーはなんでこうせっかちなのだろうか。
見失わないようについていくだけでも大変だぜ。
そして辿りついた先、そこは洞窟の入り口だった。
スコーンド・ホールドアウトと言われている洞窟、ここにメイソン・ドレスが潜んでいるのか?
続く――
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