アリーナでバトル ~安い命~

 
 翌日、俺たちは闘技場の戦士になるために、ブラッドワークスという場所へ向かった。
 闘技場の観客席とは逆、地下へと通じる扉の先だ。
 

 う~ん、訓練している人が居たりして、いかにもな雰囲気の場所だね。
 

 まずは周囲を散策してみることにしたのだが、血溜りとかあって物騒な感じ。
 昨日試合を見たとき、ガチの殺し合いに見えたが、この流血、本当にマジ物かもしれない。
 ということは、下手をすれば闘技場で命を落とすかもしれないということだ。
 

「えーと、戦士になるにはここでいいのでしょうか?」
「アリーナで力試しなら、向こうにいるオーウィンと話しな」
 
 ああそうだった、入り口で賭けの話をしていた人もそういっていたな。
 
 そしてオーウィンはこの人だ。 
 

「何様かは知らんが、腕をへし折られたくなかったら、俺のブラッドワークスに来た目的を十秒以内に答えろ」
「アリーナの戦士になりたい。あと俺は魔術師ギルドのアークメイジだ。そのぐらい知っていろ」
「何だ? 闘士になりたいだと? はっはっはー、こいつは傑作だ! 俺のバアさんでもお前に勝てるだろうよ」
「それはすごい! ぜひとも魔術師ギルドか戦士ギルドに!」
「もっともバアさんはもう死んじまったがな!」
「ちっ!」
 
 俺より強いとなると、相当な腕前だ。少なくともマニマルコ以上のな。
 そんな逸材はぜひともギルドに欲しかったけど、死んでしまっていたのなら仕方が無い。
 
 オーウィンは口は悪いが、あっさりとアリーナへの参加を認めてくれた。
 なんか知らんけど、「ピットドッグ」という階級にさせられた。意味分からん!
 
「さてその前に、俺が戦うか君が戦うかだが」
「戦士はあたし、あなたは観客席に行ってあたしに全財産を賭けなさい」
「そういう話だったな」
「お二人さん、何を話している? 闘士になるならこの闘士のユニフォームに着替えなければならない。軽装備か重装備か、どっちだ?」
「えー? ユニフォームがあるの?」
「そうだ、着替えなければ参加は認めない」
「ラムリーザあなた参加して、あたしは着替えるの嫌」
「はいはい」
 

 重装備だとたぶん動けないので、軽装備にしておいた。
 
「どうだ? かっこいいだろう?」
「ふーん、これであなたもバトルメイジね」
「……それは嫌だ(。-`ω´-)」
 
 罠に引っかかって天井で潰される運命しか見えない。
 
 
 さて、戦いに参加する前に、オーウィンに闘技場についていろいろ尋ねてみた。
 まずはガイデン・シンジ、初代アリーナのチャンピオンで、ダイアグナ修道会に仕える古今無双のだったらしい。しかしオークと戦って死んだ彼は、今はアズラのもとで眠っているのだと。
 そして現在のグランド・チャンピオンは、アグロナック・グロ=マログ。グレイ・プリンスという愛称で呼ばれているオーク、いや半オークらしい。マゾーガ卿みたいなものか。
 そのグレイ・プリンスは、もう10年近くもチャンピオンとして君臨しているらしい。その理由は、彼に挑戦する勇気があるヤツが居ないかららしい。そして今も無敗なのだそうだ。
 そりゃあ戦わなければ無敗だろう。今日は負けないよ、試合ねーだろ! このやり取りはいったい何だったっけ?
 
 まあいいか、試合に勝ち進めば俺がそのグレイ・プリンスとやらを蹴散らしてやろう。
 そして可能ならば、配下に収めたいものだな。なにしろギルドは戦闘面での人材が不足しすぎているのだ。オーウィンのバアさん、仲間に加えたかったものだ。
 
 そして俺はブルーチームに所属して、イエローチームと戦うことになるらしい。
 戦闘着以外は自由、戦い方も自由なのだ。ならば魔法で戦うか。
 
「よし、戦闘の準備はできています」
「幸運を祈る、アズラがお前の魂に慈悲をかけますように」
 
 アズラか、デイドラか。
 まあいいか、アズラは割とまともな方のデイドラだった。
 

「じゃあがんばってね。あたしはあなたに賭け続けるから」
「ん、それじゃあお互い幸運を」
 
 そう言ってふと思った。
 この賭けに幸運は存在するのか?
 そして緑娘と別れて、俺は試合場へと向かっていった。
 

 なんだか知らんが、流れている血の跡がやばいね。
 そんなに血まみれになるような戦いなのかな……
 イエローチームの闘士とマニマルコはどっちが強いだろうか?
 それ以前に、俺は闘技場での戦いはできるのか?
 
 
「帝国の善良な人々よ、アリーナへようこそ!」
 
 俺は、昨日観衆として聞いたコールを、今度は闘士として聞いている。
 アークメイジがアリーナに参加する、たぶんこれは前代未聞だろうなあ。
 
「この対戦のために、新たな獣肉をご用意しました。両チームの新人ピットドッグです! 時間を無駄にはできません! さあ、戦闘……開始!」
 

 そしてゆっくりとゲートが開かれた。
 なるほど、新人同士の対戦か。デビュー戦というやつだな。
 
 それではお手柔らかに――
 

 はええよ! もうここまで突進してきているよ!
 しかも相手、緑仮面じゃねーか! 誰から顔を隠しているのだ!
 
 ――って本気で斬りつけて来た。
 ガチンコの殺し合いだったのかやっぱり!
 

 マズい、体勢の立て直しだ。
 隠れるところも高いところも無い。オーガが相手だったら、高台に登ればあいつ馬鹿だから下でうろうろするだけなのだがな!
 

「逃げるな! 堂々と戦え!」
「まあちょっと落ち着いてだな!」
「俺は冷静だ! 死ねぇ~っ! ってかお前武器を持ってねーじゃねーか!」
「そんな野蛮な物は持たない主義でね!」
 

 あーもーうっとーしい!
 逃げ回るだけじゃ勝負がつかないので、とっさに範囲魔法を放っておいた。
 一撃必殺とはならないが、全方向広範囲に攻撃ができるので狙いを定める必要が無いのが利点だね、とうっ。
 
「貴様ソーサラーか?!」
 

「アークメイジだ!」
 

「なんでアークメイジがこんな――ぐわぁっ!」
 

 やれやれ、これまでなんども死線を潜り抜けてきたから今更戸惑わないが、こんな戦いを見世物にしているとはなぁ。
 どうせならブックありでバトルショーみたいなのでも良いのではないだろうか?
 いやそれだと賭け事が成立しないか。八百長やりまくりだな。
 
 ………
 ……
 …
 
「ナイン・ディバインにかけて、よくやった! これが報酬だ!」
「たった50G……(。-`ω´-)」
「お前は思ったよりも悪くないな、ピットドッグ。これならランクが上がるくらいの試合をこなせるかもしれん」
「50Gって少なくないですか?」
「勝ち進めばもっとたくさんの金が入るぞ」
 
 つまり相手のイエローチーム新人は、50Gのために俺にやられたわけか。
 ずいぶんと安い命だな!
 

「あなたに100G賭けたからそのまま100G稼いだわ」
「つまり、この一線で150Gの儲けか。割に合わないな」
「チャンピオンになって名声を得るのが目的じゃなかったかしら?」
「ああ、それなら納得できないことも無いな」
 
 そういうわけで、続けて二戦目も行うことにした。
 今度は一戦目の反省を生かして、最初から全力で当たることにしたのだ。
 

 最初から狙いを定めて霊峰の指改をぶっ放す。
 この方が楽でいいやw
 
「皆様、勝者が決まりました!」
 

 
 なんかブーイングが聞こえているような気がするが、知らんがな。
 この方が安全で確実な勝利方法なのだからな。
 魅せる様な試合が見たければ、ブックを書いてケツ決めしてから試合しないと無理だって!
 相手の技を受け切って受け切って勝つのがいいか、すぐに抱き合いまくって判定で勝つのがいいか、どっちが見ていて楽しいかい?
 
 ………
 ……
 …
 
「こらっ、ちょっとは魅せる試合をしろ!」
「しょっぱい試合ですいま――命がかかっているのにそんな余裕あるもんか!」
 
 オーウィンにも怒られたが知ったことか。
 なんならオーウィンがやってみたらいいのだ、その魅せる試合とやらをな。
 たった50Gごときで危ない試合なんてできるかっての!
 
「イエローチームの人間同士では戦わんのだ! 怠け者のピットドッグめ! とっとと戦いの支度をしろ!」
「はいはい」
 
 グランド・チャンピオンと戦える時までの我慢だ。
 チャンピオンになったらさっさとベルトを返上して引退だ。
 
 

 なるほど、闘技場でも昇進していく形なわけね。
 
 今回の相手はアルゴニアンの弓士。
 魔法がアリなら弓もアリなわけか。何が一番強い武器になるかな?
 ユニフォームが決められているので、緑娘はニードルヒールを使えないというのもあるけどね。
 あ、だから参加しないということになったのか。
 

 とまぁ、相手の矢を柱に隠れながらかわして、魔法の小技を連発し、丁度いいだろうというところで霊峰の指改を放って終わりにしましたとさ。
 ウエスタンラリアットも、スペシウム光線も、最初から放てば楽に決着がつくが、やはりお客さんがいる以上魅せる試合もやってやらなくちゃならないのだ。
 名声を得るために勝ち抜いていくのだが、「塩」という汚名を食らったら本末転倒だ。
 ここはオーヴィンの言うとおり、観客が沸くような試合をしてやろう。
 
 50Gのために……(。-`ω´-)
 
 
「お前はもうピットドッグじゃない。ランクが上がった、これからはブローラーだ。おめでとう」
 
 なんか昇進したぜ。
 ピットドッグとかブローラーとか意味が分からない。
 犬とか鶏とかそんな感じなのかな?
 
 まあよい。
 
 金のためではなくて、チャンピオンという名声を得るためにがんばろう。
 
 
 
 




 
 
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Posted by ラムリーザ