情報収集 ~旧友の依頼~
「噂じゃオレインがお前を探しているらしいぜ」
シェイディンハルで、バーズからそう聞いていた俺達は、コロールへ戻るとそのままオレインの家に向かった。
まさか引越しはしていないだろう。
「よく来てくれたな。敵を倒すにはもっと情報が必要だ。情報によれば、敵は勢力拡大を狙って『沼霧洞窟』に拠点を築いたという」
「本当にオレインさんだったのね。で、沼霧洞窟とはなぁに?」
「地図に印をつけておいた、湿りの洞穴とも呼ばれているらしいが、名前はとくに大事なことではない。お前達は、そこで敵の幹部であるアジャム・カジンを捕らえてここまで連れ帰るんだ。そいつとゆっくり話がしたいのでな」
「アジャム・カジンとはどんな人かしら?」
「アルゴニアンの魔術師らしい」
「ギルドの人?」
オレインから話を聞いていた緑娘テフラは、魔術師と聞いて俺の方を振り返る。
俺は一言、「そんな奴は知らん」とだけ答えておいた。
さて、沼霧洞窟だか湿りの洞穴だかしらんが、ブラックウッド商会の拠点はここらしい。
敵と聞いてブラックウッド商会だと気づかない奴は、戦士ギルドのモグリだ。
早速出かけようとしたのだが――
「あっ、羊さんだ!」
「後にしようね」
相変わらず緑娘の羊好きにも困ったものだ。
コロールの北には、大規模な羊牧場があるから油断できない。
この町でのんびりすることになると、大抵はここに連れてこられるのだ。
………
……
…
そういうわけで、沼霧洞窟である。遠くに帝都が見えますなぁ。
洞窟を進むときは、基本的に息を潜めてこっそりと進む。
なぜそうするのかだって?
「さて、敵は戦士が一人、弓兵が一人だ。どうする?」
「あたしが戦士やっつけるから、ラムリーザは弓兵やっつけて」
「承知!」
前衛vs前衛、後衛vs後衛ですかな?
なんだかんだで俺と緑娘のコンビプレイも板についてきたものだ。
もっとも、俺の忘れている昔からコンビを組んでいたようだけどな……(。-`ω´-)
さらに洞窟の闇に紛れて、ひっそりと奥へと進む。
このように乱戦になる前に先手を打つ、これが戦いを有利に進める鉄則だ。
むやみやたらと進軍すれば良いというわけではないのだ。
そして相手が気づく前に、必殺一撃の霊峰の指改を撃ち込む。
気づく前なら動かずにじっとしていることが多いから、余計に当て易いのだ。
「またラムリーザがやっつけた!」
「静かに、他にも敵が居たら見つかっちまうぞ?」
「見つかってもやっつけるから関係ないもん」
「お、また敵が居るようだぞ?」
「今度はあたしがやる!」
そう言って、緑娘は物陰から飛び出していった。
鎧でがっちり固めていても、緑娘にはあまり意味が無いのだよなぁ……
ヘルメットの少しの隙間を、ピンポイントで蹴り刺してくるからな。
よくぞここまで命中精度を鍛えたものだ。
そんなこんなで洞窟の奥へと進むと、最後に待ち構えていたのはトカゲ男、アルゴニアンだ。
オレインはアジャム・カシンはアルゴニアンの魔術師だと言っていた。つまりあいつがアジャム・カシン?
「さて、どうする?」
「聞き出すだけよ、抵抗したらやっつけちゃう」
「いや、生け捕りにしろよ」
緑娘は大胆不敵にも、そのアルゴニアンの元へと歩み寄って行った。
怖い物ってあるのかな? この緑娘に……
「あなたがアジャム・カシンね?」
「いかにも私がアジャム・カシンだ。何が望みだ?」
「ついてきなさい。断ったらあなたも部下と同じ運命よ」
「分かった分かった同行するよ。私の衛兵は全滅した、今回はお前の勝ちだ」
意外にもアジャム・カシンは抵抗せずに、大人しく捕縛されることを選んだようだ。
これまでの奴らと違って鎧で身を固めていない。オレインは敵の幹部だと言っていたが、戦闘要員ではないのだろうか?
洞窟を出て、待たせてあったユニコーンに乗り込む。
アジャム・カシンを乗せたら怒るだろうな、ということで走らせることにした。
「逃げたらこのユニコーンで追いかけて、串刺しにしてやるんだからね!」
「わかったよ」
アジャム・カシンは大人しくついてくるようだ。
そうして、俺達はコロールへの帰路についた。
人質が居るので寄り道はできない、一気に来た道を引き返すのだった。
………
……
…
「よし、奴を連れてきたか、ご苦労。敵の規模とリーダーを知りたい。そして力の源もな」
「どうすればいいのかしら?」
「奴が話すように説得しろ。素直に話せばよし、ダメなら力ずくだ。まずは椅子に座らせろ。ああそれと、殺すなよ」
オレインの指示を受けて、緑娘はアジャム・カシンの方を振り返ると、声を張り上げて命令した。
「そこの椅子に座りなさい!」
「何が望みだ? 拷問する気か? ふんっ、好きにするがいい」
そう毒づきながらも、アジャム・カシンは椅子へ座る。
声を張り上げたつもりだろうが、緑娘が叫んでも可愛いだけだw
まぁそれでも緑娘とオレインに睨まれていて、逆らっても無駄だと観念したのだろう。
「まずはブラックウッド商会の規模でも話してもらおうかしら?」
「我々の勢力は、今や100名を越える。日々拡大しているのだぞ、どうだ!」
「ふ~ん。じゃあ次は、ブラックウッド商会の指導者でも話してもらおうかしら?」
「断じて話すものか! 死んだほうがマシだ! 話すことは何も無い!」
「もったいぶってないで、とっとと話なさいよ!」
あ、蹴り刺し殺した――
と思ったけど、今回は肩口を蹴り刺して急所を外しているようだ。
「や、やめてくれ! これ以上何が望みだ?!」
「ブラックウッド商会の指導者は誰かしら?」
緑娘は、片足をぶらぶらさせながら問い詰める。
答えなければまた蹴るつもりなんだろうな。
――と思ったら、足を振り上げた。踵の針が、アジャム・カシンの目の前で止まる。
「お、お許しを、マスターリザカール様だ! 彼がリーダーだ! 覚えてろよ、マスターが必ず貴様らの首を取る! 皆殺しだ!」
まるで脅迫だな……、いや、脅迫しているんだっけ。
再び情報を聞き出した緑娘は、オレインの方を振り返る。
オレインは頷き、さらに追求するよう言ってきた。
「じゃあ次、あんた達の力の秘密は何よ!」
「そ、それは……」
「答えなさい!」
あ、また蹴ったw
「もはやこれまで! 私は死を選ぶ! ブラックウッド商会万歳!!」
蹴飛ばされたアジャム・カシンはそう叫ぶと、なにやら自分の持っていた指輪を身に付けたようだ。
次の瞬間――
アジャム・カシンの身体は炎に包まれ、火が消えた時にはすでに息は無かった……
「くそっ、自殺したか。魔法の道具でも隠し持っていたようだな」
アジャム・カジンのはめた指輪を外して調べてみると、ブラックウッドの沈黙の指輪というものらしいことがわかった。
身に付けると、先ほどのように自らを燃やしてしまうらしい。
「この指輪は貰っておこう。何かに使えるかもな」
「それでこいつ死んじゃったけど、次はどうするのかしら、オレインさぁん?」
「奴から引き出した情報を元に次の作戦を立てる。それまでは自由にしていていいぞ」
「はぁい」
「あとラムリーザ、お前はディフェンダーに昇進」
「は? ああ、どうも」
「あたしは?」
「お前はもうチャンピオンだから、これ以上の位は無い」
「いや待てよ? オレインさんはギルド追放されたから、メンバーの昇格権なんて無いんじゃないのか?」
「気にするな」
まあいいか。
こうして、ブラックウッド商会の情報を、わずかではあるが聞き出すことに成功したのだった。
いちごぶらーんとさがった
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