ギルドマスターの息子 ~ヴィラヌス・ドントン~
コロールに戻ってた俺達は、自宅で一泊して翌日にオレインに会いに行った。
う~ん、緑娘テフラ、やはり大柄なのか? それともオレインが小柄なのか?
でもキャラヒルさんとは同じぐらいだから、ダークエルフも小柄なのだろうか。ブレトンやボズマーはかなり小柄なのはアリーレさんやマグリールを見れば分かる。
というかね、マグリールぐらいの大きさで緑娘と対峙すると、目の前に爆乳が飛び込んでくるっぽいんだよな――ってそんなことはどうでもいい。
とにかく緑娘は身体もでかいがおっぱいもでかい。野望もでかいなどと、でかい尽くしな困った娘だ。
「ねぇ、今度はギルドマスターの息子のヴィラヌス・ドントンと共同任務だって」
「ほう、それは出世だな。マスターの身内と親しくしておけば、今後の昇進に良い影響がでてくるぞ」
「それもあるけど、あたしの野望に向けては一番のライバルになりそうね……」
「戦士ギルドを乗っ取るつもりだな? まあいいや、それは追々考えるとして、そのギルドマスターの息子と何をするのだ?」
「彼に同行して実戦経験を積ませて自信をつけさせろだって。確実に成功させなくちゃダメみたい。ギルドマスターの母親は彼に甘いところがあるんだって」
「そんなもんだろ? 母親と言うものは。よしがんばってこい」
「なによ、あなたは手伝ってくれないの?」
「マスターの息子と君の仕事だろ? 俺の出る幕じゃないよ、俺は魔術師ギルドに顔を出すか自宅で寝てる」
「あたしが一人でマスターの息子と会うことに不安は感じないの?」
「俺はお前を信じている」
「来て!」
やれやれ、緑娘は俺と一緒に居ないと自分が他の男に目移りしそうだとか思っているのだろうか。
そんなの気にするぐらいなら、他の男の前でクネクネしたり派手な衣装など身に付けずに、地味に質素にしておればよいものをな。
「ややっ、僕の前に美女が現れた! ごきげんよう、何の用かな?!」
「ノンウィル洞窟で消息を絶ったギャルタス・ブレヴィアって人を探しに行くわよ」
「任務? え~と、了解だ! オレインが出した任務だね? まずは母を尋ねて――」
「時間が無いの! 今すぐ行かなくちゃダメなの!」
「あ、ああわかった。母に言う必要は無いな、急いで行こう」
元々ギルドマスターヴィレナ・ドントンには、息子は二人て、ヴィラヌスにはヴィテラスという名の兄が居たらしい。
しかしギルドの任務が元でヴィテラスは殉職してしまい、それ以来マスターはヴィラヌスに甘くなってしまったのだとか。
この任務は、マスターには秘密にしなければならないようだ。
大丈夫だろうか?
ノンウィル洞窟は、コロールの北にある。
霊峰の指を取得した雲天に向かう途中にあるようだな。
この坂道を登るのはいつぶりだろうか?
コロールはブルーマの次に訪れた街、結構初期の頃なんだよな。
街の北には羊がたくさん居て、また緑娘がもふもふしたがるのを引っ張って山登り開始。
坂道はすぐに未舗装となり、地面がむき出しの山道となる。
後で緑娘に聞いた話だが、踵に針がついて高くなっているニードルヒールは山道を登るときはなんともないのだとさ。逆に降りるときは地獄だってね。
雲天までは登らず、その中腹にノンウィル洞窟はあった。
「よし、到着したぞ。先陣は緑娘じゃなくてテフラ。ヴィラヌスさんはその後ろから――って何をやってんだ?!」
「ねぇヴィラヌスさぁん、あなたの武器はどんなのかしらん?」
「僕の武器は、この銀でできた長剣だ。陽の光が反射してキラキラと綺麗だろう?」
「あたしの武器は、この光る魔剣。どう? 神秘的に輝いているでしょ?」
「うわわ、す、すごいなぁ」
またやってる……(。-`ω´-)
だからその武器は魔術師ギルドの技術の結晶なんだけどねぇ?
すごいだろ? 魔術師ギルド! 戦士ギルドの期待の星が自慢しているよ、魔術師ギルドの魔剣を!
そんなわけでノンウィル洞窟に入っていったが、ヴィラヌスは突撃する突撃する。
トロールが三体も居るのに、俺たちを置いて一人で突っ込んで行ってしまったりするのだ。
とりあえず俺は明かり役。戦うのは戦士ギルドの君達にお任せするよ。
何? 俺も戦士ギルドの修行者だろって?
緑娘のおこぼれで昇進しただけ。俺は魔術師ギルドのアークメイジである。
前衛は戦士、魔術師は後衛。それが基本だろ?
あ、野蛮人オーガも居る。
ヴィラヌスもまた一人で突撃する。
まあいいか、実戦経験を積ませて自信をつけさせることも目的の一つだ。
一対一ぐらいでは普通に勝てないと、将来の戦士ギルドを引っ張っていく者にはなれないよな。
――その座は緑娘が、虎視眈々と狙っているけどね……(。-`ω´-)
「トロールが居る――ってまたヴィラヌスさん一人で突っ込む! 緑娘も早く加勢するんだ!」
「ミドリムスメって何?」
「あっ――」
しまった、いつも頭の中で緑娘緑娘って考えていたから、思わず口に出してしまった。
誤魔化すか? 誤魔化すしかないだろう!
「暗号だ、ミドリムスメニイタカヤマノボレ! 全員総攻撃の暗号な、覚えておけよ!」
「変な暗号ね」
「まあいいや、今回はヴィラヌスさんに実戦経験を積ませよう。ミドテフラは援護に徹していたらいいよ」
「ミドって何?」
「なんかね、この国では敬称でサーとかミドとかつけるのがお洒落らしいんだ」
「ミドラムリーザ」
「……男性が未婚の女性に使う敬称らしいんだ」
かなり苦しいが、誤魔化せているだろうか?
とりあえず二人が雑談していても問題ないぐらいヴィラヌスが頑張ってくれる。
そういえば母親の過保護の影響か、ほとんど仕事も与えられなくて家に篭っている毎日なんだっけ。
これも日頃のうっぷん晴らしなのだろうかな。
「ヴィラヌスさんもギルドマスターの息子だけあって、十分に強いよな。ねぇミド――ンさん!」
「ミドンさんって誰? またあたしの知らない女が居るの?!」
「いや、俺もミドンさんを探しているんだよ。君もかい? こんど暇なときに一緒に探してみようよ、ミドンさん。あ、ひょっとして君がミドンさん?」
「なによそれ、あたしそんな人知らない」
ダメだ、緊張感が無いな。
ヴィラヌスが一人で片付けてくれるから雑談ばかりしている。
まぁヴィラヌスも、良い実戦経験になっただろう。
洞窟の奥、そこに一人の人物が倒れていた。
誰だこれは? ひょっとしてこれが、ギャルタス・ブレヴィア?!
「また人が死んだ……、オレインの所に戻って報告しよう」
「この盾はなんだろ、えらく特徴的だけど」
「ヴィラヌスさんはこの盾に見覚えありますか?」
「僕は知らないなぁ。早く戻ろうよ」
「まあいいか」
結局ギャルタスは救えなかった。
ひょっとして、消息を絶ったときに既にやられていたのかもしれない。
彼がいったい何なのか。彼の死がいったい何を意味するのか。
この時の俺たちには知る由も無かった……、などと語ればかっこよく感じるかい?
コロールの西に広がるこの場所は、コロヴィア台地と呼ばれているらしい。
聞く話によれば、雲天以外にもいろいろと見るべき場所があるらしい。
戦士ギルドの仕事の合間に、この台地をいろいろ見て回ってみようか。
………
……
…
また挑発的なポーズを取る緑娘。
「戻ってきたか、ギャルタス・ブレヴィアの失踪について何か分かったか?」
「もう死んでたわ。近くでなんか盾を見つけたみたい」
「どれだ?」
「あ、ラムリーザ、あの盾」
緑娘に促されて、俺は洞窟で拾った珍しい形の盾をオレインに差し出した。
「なるほど、この紋章には因縁がある。この件は俺が調べておこう」
「それはなぁに?」
「今話す必要は無い。さて、これがヴィラヌスの報酬だ。そしてこれがお前の分。いつかはお前達を戦士に仕立ててやりたいものだ」
「あたし、まだ戦士じゃないの?」
「お前はプロテクターだからな。ちなみにラムリーザは修行者」
「アークメイジでいいです……(。-`ω´-)」
「戦士ギルドと魔術師ギルドが協力して、何かをやるってことはないのですか?」
「この国が戦乱に巻き込まれたらありうるかもしれんが、この平和な今はとくになさそうだな」
「平和にしては街道に猛獣が出過ぎな気がしますね。戦士ギルドは街道の猛獣狩りはしないのですか?」
「それは巡回中の衛兵の仕事だ」
「衛兵が役に立たんから……」
俺がオレインといろいろと今後について話をしている後ろで、なにやら緑娘とヴィラヌスが話をしているようだ。
「テフラさんでしたっけ、美しいですね」
「あらそ~お? 嬉しいわぁ、ヴィラヌスさぁん」
「よろしければ今夜どうです? 食事でも」
「奢ってくれるのかしらん?」
「もちろん! ぜひ僕に奢らせてください!」
「――だって、ラムリーザ! 今夜ヴィラヌスが晩御飯奢ってくれるんだって!」
「い、いや、君と二人で――」
「ラムリーザと一緒じゃなきゃ行かない」
「…………」
なんだろう?
緑娘は、ギルドマスターの息子とのコネ作りフラグを自分で叩き折ったようだな。
俺に義理立てしてくれるのは嬉しいが、緑娘は世渡りが下手そうだな……(。-`ω´-)
あ、しかし、緑娘はクネクネなど挑発的なポーズを取ったりしている割には身持ちが堅いな。
人は見かけによらないとはこのことかもしれんな。
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