古代のダム その一 ~クリムゾン・ブレード賊、潜入作戦開始~
アイレイドのダムを調査する目的で、ブレナ川渓谷を上流へ向かって進んできた。
そこにあった巨大なダムに驚かされたが、引き続き周囲を調査していると、なにやら「殺す」などと物騒なことを言いながら駆けてくる奴が現れた!
むっ、山賊か? カジート、追い剥ぎか!
「敵?」
「敵だな」
「よぉし!」
なんだか任せてしまう俺。
だってこの緑娘、普通に戦闘能力高いし。無理にでしゃばらなくてもいいんだよな。
出た、ニードルヒールキック。このザリッという音には、なかなか馴染めない。
他に人が居なければ、遠慮なく繰り出してくるんだな、このえげつない技を。
ってか身体やわらかいな、この緑娘。俺はそんなに足は上がらないぞ?
見てみろよこの蹴りが決まった瞬間を。
突如現れた追い剥ぎ(たぶん)は、緑娘テフラの蹴り一発でダウンしてしまった。
「さて尋問だ、お前は誰だ? 追い剥ぎか? こんな辺境で何をしている?」
「……ここに近づくものは、殺す……」
「む、何か手紙を持っているな? どれ、頂くか」
「そうはさせんぞ!」
グサリ!
あ、喉を踏み刺し殺した。
さて、山賊か追い剥ぎかわからんんが、こんな辺境で暴れている怪しい奴の持っていた手紙がこれだ。
Pとは誰のことかわからんが、こいつはただの見張りのようで、近づく奴は殺して報告せよと命令されていたようだ。
そしてこいつらの集団は、防具を身分証として扱っているみたいだ。
つまりこいつらの本拠地へは、こいつの装備をつけているだけで怪しまれない、と。
追い剥ぎタイム、やっぱりカジートか。
「獣族は追い剥ぎ率が高いね」
「まぁそれが一番稼げる職業だから、頭が良いと言えば頭が良い。魔術師ギルドのギルドマスターにはなれないようだが」
「それで、これからどうするの?」
「なんだか気になるから、こいつらのことを調べてみようと思う。ダムの仕事だから君に任せてもいいけど、こいつの鎧を着る?」
「嫌よ、そんなの着たくない」
「だろうな。じゃあ俺が変装して潜入してきてみるから、ちとここらへんで他の奴らに見つからないようにしていてくれ」
というわけで、こいつの着ていた装備を剥ぎ取って身に付けてやった。
なにやらクリムゾン・ブレード賊らしいが、そんな集団聞いたことが無い。
「それでは、行ってくるであります!∠(`・ω・´)」
「いかにも見習い戦士って感じだね」
「君も見習い戦士だろ?」
「いいからいってらっしゃい」
緑娘に別れを告げて、俺は山賊が現れた方角へと進んでいった。
ダムのさらに上流にあったテント。
どうやらここで見張りをしているらしく、対岸の俺たちに気が付いて襲い掛かってきたのだろう。
俺はともかく、緑娘の髪の色はすごく目立つからな。
テントから北へと進むと、そこには大きなキャンプが設営されていた。
クリムゾン・ブレード賊とやらは、こんなところに陣取って何をやっているのか?
まさかダムを利用した本拠地を本気で作っている奴が居たということか? ということはこいつらの目的は世界征服?
入り口に居た賊に話しかけてみる。
どうやら俺のことは仲間だと思っているようだ。見張りがカジートだったということすら認識していないのだな。
「どうも我々の間に裏切り者がいるようだ。斥候の一人が最近死体で見つかったのだ」
「そうですか! たいへんですね! 気をつけます!」
見つかるの早すぎない?
それとも他に潜入者が居るということなのか?
キャンプには、結構多くの賊がたむろしていた。
話を聞くと、フィニアスという者は、捕虜の女がリエセリ廃墟の中に逃げたことでイラついている。廃墟の都市に取り付いている幽霊。マゲンローンという者が、廃墟で何かを見つけようとしている。自殺滝で宝が手に入るが、見つけようとした者は皆滝つぼで死んでしまった。強盗だよ、死にたくなけりゃ金を出せ。
いろいろな情報と、どさくさにまぎれて金を奪おうとしてくる奴とかいろいろ居た。
あとは、四剣亭という宿屋があったりした。
こんな辺境で宿屋を経営して商売なりたつのかね? それともただの、賊の本拠地か?
どっちにせよ、俺は怪しまれずに潜入しているので、気にせずに中に入る。
装備だけが身分証って、けっこうガバガバだな。
ちなみに魔術師ギルドは、何がギルドメンバーの証なのかわからん。ただ名簿管理で大学に入らせないだけ。地方のギルドは初心者いつでも歓迎だ。
しかし宿の中には誰も居ない。
二階に部屋があるみたいなので、そこかな?
お、なんか偉そうな人が居るぞ。
彼の名前は、フィニアス・マーキュレー。フィニアスの綴りはPで始まるので、あの手紙というか指令所を書いたのはこの人か。
ということはこの人が、クリムゾン・ブレード賊のリーダーですかな?
「お前は新入りだな?」
「いや、俺はアーク――、新入りだ!」
「ではアークよ、ここをうろついているのではなくて、廃墟のほうへ向かうべきだ」
「廃墟ってダムのことですか?」
「そうだ。ダムを南に向けて丘に登るんだ。地図にしるしをつけてやろう」
「ここで何をすればいいのでしょうかっ?!」
「そこでベルナイスを探すとよい。彼女は急を要しているはずだ」
「合点承知の介!」
「ところでアーク、お前には恋人はいるか?」
「ミド――ソ――、婚約者にククルがいる」
「そうか、よし、行ってこい」
なんだかよくわからんが、適当に話を合わせておこう。名前を出すのもマズいと思うので、こちらも適当に名乗っておいた。俺はこいつらの中ではアークという名前になっているらしい。アークメイジと言いそうになったのを誤魔化しただけなのだがな。ククルは知らん。
どうやらこいつらは、ダムにまつわる遺跡で何かをやっているらしい。
ダムの調査でここへ来たのだし、ここはもうしばらくこいつらの中に潜入して、いろいろな情報を聞きだしてやろう。
ちなみに外に居た賊が言っていた捕虜について聞いてみたのだが、捕まえたのはこの辺りをかぎまわっていた小娘だそうだ。緑娘がもう捕まった、というわけじゃないよな?
縛って監禁していたが逃げ出され、石のようなものを持ってリエセリ廃墟の外側に現れたと。その石のようなものはドリームスリープ装置らしい。うむ、何のことやらわからん。
んで、今はその廃墟の中に逃げ込んだままそれっきりだそうだ。
うーむ、ダムの調査が終わったら、遺跡のほうも見ておくか。
こいつらは賊だし、もしも娘がちゃんとした人物なら、助け出す必要があるかもしれない。
ちなみにこの宿屋の屋根裏で、不思議なものを発見した。
なんだろうか?
石は取り出すことができ、それは「奇妙なウェルキンド・ストーン」としか表現できないものだった。
何のためにあるのか、どう使うのかはわからんが、とりあえず持っておこう。
さて、向かう先はダムの南にある遺跡だ。
俺は、クリムゾン・ブレード賊のキャンプを出て南へと向かった。
その途中で緑娘テフラと会っておく。どうでもいいが、こいつはあの賊の中ではククルという名前になっておる。
「ちょっと、待ってるだけなんて暇なんだけど!」
「じゃあこの装備を着て潜入するか? なんかダムの調査ができるみたいだぞ」
「調査ならしてもいいけど、その装備を身に付けるのは嫌」
「たぶん着けてないと、敵とみなされて襲われるぞ」
「いいもん、返り討ちにしてやるもん。あんな賊なんて、大した事ない」
「それだと調査にならんぞ」
「むー……」
魔術師ギルドの仕事としてやっているのは緑娘の方だ。だからここは彼女に潜入させるのが筋だと思う。
しかし装備を身に着けるのを嫌がるのだから潜入できない。
しかたながない。俺がいろいろと調査してきて、後で語ってやってそれをノートにまとめてもらうか。
「暇!」
「釣竿を貸してやるから、釣りでも楽しんでな」
俺は緑娘に釣竿を渡すと、セリアヴレーレイスと名づけられている、ダムの南にある遺跡へと向かっていった。
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