コロールへ向かう旅 ~俺は清廉潔白だ!~
ブルーマの町へ戻ってきた俺達は、早速魔術師ギルドへ霜降りし岩山の塔についての報告を行った。
ジュラーエルは、住めるのが一人だけなら当面は俺が住んでもいいとか行ってきたが、あんな雪山の頂上はあまり住みたくない。
そういうわけで、塔についてはこれ以上調べることは保留ということになった。
とりあえず緑娘テフラの推薦状を書いてくれたので、目的は達成。あと五箇所だ。
それ以外の話としては、ブルーマにも戦士ギルドがあったりするので立ち寄ってみた。
本気で頂点を目指して良からぬ事を企んでいる緑娘はともかく、おれも一応見習いだからな。
訓練用の人形を蹴りつける緑娘と、訓練用の板に魔法をぶつける俺。あれ、なんか俺間違ってる?
とりあえず、シェイディンハルのギルドは普通の家で、どちらかと言えば狭っ苦しかったのに対して、ブルーマのギルドにはこんな広々とした訓練場がある。
なんか絶対こっちの方が規模が大きそうだけど、訓練用のギルドと人事用のギルドに分かれているのかな。
「やっ、とうっ、たあっ、はあはあ。この町では仕事無いのね」
「バーズはアンヴィルで仕事があるって言っていたし、コロールの本部にも挨拶とか言っていたね」
「アンヴィルってどんなところなの?」
「簡単に言えば、港町。複雑に言えば、幽霊屋敷を乗っ取られた町」
「幽霊屋敷っておもしろそうじゃない?」
「アリーレさんと一緒に住んでいたけど、ほとんど乗っ取られたようなものだな」
「ちょっと待って!」
突然緑娘は訓練を中止して、俺を上から覗き込んできた。
何か俺、まずいことでも言ったか?
「アリーレさんって誰? 一緒に住んでいたって何?」
「あ……」
そういえばこの娘は婚約者という話になっていた。それなのに俺は別の女性と短い期間だとは言え同じ屋根の下で生活していたのだ。
いや、記憶が無かったのだから仕方ないけどな。覚えていたら、絶対に遠慮していたはずだ。それでアリーレさんが引き下がってくれるかどうかは別として。
ああそういえば、アンヴィルでは娼婦に手を出そうとしていたりしたな、ははっ。
「何ニヤニヤしてんの! まさかそのアリーレって人と?!」
「いや、それはないよ、それはない。だって俺、童貞しか乗せない雌のユニコーンに乗っていたじゃないか。だから俺は潔白」
「何が童貞よ、あたしとやってるくせに!」
「いや、この国ではまだ童貞……」
「他の国に行ったら性交渉がリセットされるって話、聞いたこと無い!」
「……それはごもっとも(。-`ω´-)」
まずいな、この娘、アリーレさんをむっちゃ警戒しとる。
アリーレさんとは何も無かったのに、むしろ彼女には息子扱いされていたような。「起きなさい起きなさい、私の可愛いラムリーザ」だったっけ。
いかん、思い出したらまたにやついて――
「またニヤニヤしてる!」
「いや、違うんだ! 彼女はお母さんみたいな人でさ――」
「何よマザコン!」
だめだ、完全に怒らせてしまった。
ここはアリーレさんと話をして、身の潔白を証明してもらうしかないかも。
「それで、そのアリーレって人はどこに居るの?!」
「アンヴィルのギルドの人だけど、コロールに用があるって言うから連れて行ってあげたから、たぶんまだコロールに居ると思う」
「連れて行ったって何?! まさかデートしたの?!」
「ち、違うって……(;´Д`)」
そういうわけで、急遽コロールへ向かうことになった。
まぁコロールの推薦状も必要だし、戦士ギルドの本部があるという話だから、立ち寄る必要があったから丁度いいと言えば丁度いい。
タイターの小屋経由でブルーマから南下し、分かれ道へとたどり着いた。
西へ行けばコロール、東へ行けば帝都へ向かうが――
「コロールはどっち?」
「あっち、あ――」
指差したとたん駆け出してしまったよ。
走り通して行けるような距離でもないのだけどな。まぁ歩いていけば日も暮れるけど。
「おーい、そんなに急いで行っても途中で疲れるだけだぞーっ!」
急いで駆けて追いついたけど、緑娘は不満そうだ。今日はアリーレさんの名前を出してから、ずっと不満そうだ。
「何モタモタしてんのよ。そんなにアリーレって人に会うのが気まずいの?」
「いや、俺は清廉潔白だから、気まずい感情などこれっぽっちも」
「じゃあ早く行きましょうよ」
「そんな急いで駆けとおして行けるような距離じゃないって」
「いいから早く来なさいっ!」
「ちょっ、ちょっとまった」
腕をつかまれて強引に引っ張られる感じで西へと向かい始めた。
コロールか、まだ家を買っていなかったと思うので、これもいい機会だな。
そういえばコロールって最近は全然立ち寄ってなかったね。
すたすたすたと早足で先に向かっていく緑娘。
いや、踵に付いた鋭い針を立て鳴らして、カッカッカッと言った感じか。
早足は自然に駆け足となっていく。
いやだからね、駆けていて猛獣と出くわしたらどうすんの? って話だよ。
この国は街道に熊とかライオンが出るんだぞ?
「だから走るなって。意気込んで向かっていっても絶対拍子抜けするからさ」
「ほんとうかしら? あたしをアリーレに会わせたくないんじゃないの?
「んなこと言ったって、ジ・スカール先輩には文句言わないのに、なんでアリーレさんには文句言うんだよ」
「あんな獣族なんてどうでもいいわ。でもあなたが他の女と寝ていたなんて許せない」
「アリーレさんが女性と決まったわけじゃないだろ?」
ちと苦しいが、これでごまかす。
実際に本人に会って、彼女の口から真実が語られるまで、ごまかすしかない。
彼女も火に油を注ぐような発言はしないはずだ。お茶目な人だけど。
それに、そもそも寝ていない。
しかし――
「彼女はお母さんみたいな人って言った!」
「お母さんが女性とは限らない――、ごほごほ」
ダメだ、苦しすぎる。
彼女と言っている以上、これは通用しないな。
男だけど彼女、うーん、まぁそういう人も居るっちゃあ居るから一概に嘘とは……
「とにかく冷静になれって。俺が何も無いって言っているのに、それが信じられないのかい?」
「む~……」
コロールへ向かう街道の途中、滝の流れ込む水辺があったので、そこで一休み。
この自然の中でいったん頭を冷やして、落ち着いた状態でコロールに行こう。
「俺は嘘はついていないから。もし言ったことが嘘で、アリーレさんと何かあったというのが発覚したら――」
「発覚したら?」
「――その靴で踏まれる覚悟もできている(。-`ω´-)」
我ながら妙な落とし所だ。
とにかくレイピアで体重かけて刺されるようなようなものだから、そのぐらいの覚悟を見せてもいいだろう。
ゴブリンを踏むだけでとどめを刺したこともあるからな、この緑娘は。
まぁ絶対に何も無い。そもそも同じベッドで寝たことも無い。
この娘とは毎晩のように同じベッドで寝ているってのにさ。
ほとんど早足で駆け抜けてきたが、水辺でゆっくりしていたのでそろそろ空も赤くなり始めていた。
「よし、気分も落ち着いたところでコロールへ行こうか」
「はぁい」
「やっぱり怒ってむすっとした顔より、今の顔の方が可愛いよ」
「んもぅ……」
クサイ台詞をぶちかましたところで、ここまできたらコロールもすぐ傍だ。
堂々と、整然と、向かって行こうじゃないか。
「ほら、あれがコロールだ」
「夕日がまぶしいなぁ」
かつて見た景色を、今度はこの娘と一緒に見ることになるのだった。
さて、家を買うぞ。推薦状出してもらうぞっと。
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