とある一日 ~ギルドメンバーに加わろう~
特別変わったことも起きない平穏な日常。
俺と同行者の娘は、ブルーマの街で過ごしていた。
あの日ギルドで起きたこと。意識を突然失った俺は、どこだかわからない、しかし懐かしい気がする景色が脳裏に浮かんだのだ。
娘にそのことについて話をしてみたところ、どうやら過去らしいことがわかった。
「覚えているのは、橋から見える景色。薄い桃色に輝く木が印象的だったかな」
「薄い桃色ね……」
「それから大きな建物。それと、同じく薄桃色の花びらの舞う景色だったかな」
「サクラ、かな?」
「え? サクラ?」
「あたし達の故郷に咲いている花で、あなたの言うとおり木に咲いていて、一緒に花見をしたことがあるわ」
「その時の記憶かな?」
「君に近づいたら、過去の記憶に触れられるみたいなのかな」
「でもほんとうにヤバそうだったから、一気に思い出すのじゃなくて少しずつ触れていきましょう」
「名前が分からないのはめんどくさいから教えて」
「それを忘れていることに腹が立つから、嫌」
なんだかうまく表現できないが、この娘との過去があるのは間違いない。
しかし先日でギルドで起きたことは、結構肉体に負担がかかるみたいなので、あれ以来娘も気を使って俺にあまり近づかないようにしている。
ベッドで並んで寝るぐらいだとなんともないのだが、たぶん意識が近づいたら、夜に落ち着かないことでもやれば思い出すのかもしれない。
俺の脳が耐えられれば、の話ではあるが……
それ以外は、とくに何の変哲もない日常である。
オラヴの店とかギルドで食事、自宅に泊まる。たまにジ=スカール先輩が家に遊びに来る。ジュラーエルとギルドのことについて話し合う。
平凡な日常だ。
暇を利用して、俺はこの国の宗教について調べてみたりした。
悪魔みたいなおかしなデイドラだけが信仰の対象であるわけがない。それに、これまでに声のかからない神の祭殿もあった。何も像を祭られていない祭殿もあった。
街の中の神殿には、像は祭られていない。
しかし、こういった祭殿もつい先日見たばかりだ。祈るとなんらかの力を得られる。ただそれだけだが……
神殿の窓には、神らしき姿が描かれていたりする。
ジュリアノス、アカトシュ、アーケイ――
デイドラの祭殿にはなかった名前だ。
ブルーマ教会の大神官アレントゥスは、アカトシュを称えよ! ナインを称えよ! などと言っている。タロスの大主教でもあるらしい。
うーむ、俺は何も知らずに邪教に手を染めていたのか?(。-`ω´-)
そういえば、ナミラの依頼で、アーケイの僧侶をやっつけたこともあった。
そのアーケイは、この神殿の窓に描かれている。
街の人は、デイドラではないこれらの神を崇めているようだ。ちとマズいことをやってしまったか?
なんとなく、デイドラに関わったことを後悔し始めていた。お宝をもらうためと割り切れば仕方ない気もするが、村一つを犠牲にして刀一本では割りに合わないなぁ。
まぁ過ぎたことは仕方がない。今度からは変な依頼だったら無視して先に進もう。
でもあいつら、スキャンプを押し付けてくると脅すからなぁ……(。-`ω´-)
そんなある日、俺はいつものようにオラヴの店で他の客と雑談でもしながらのんびりとしていた。
昼間から酒を飲んでいるが、暇なのだから仕方がない。
アークメイジの仕事、大変なようで実はやることがない。
死霊術師などが攻めてきた時は、ハンニバルなどは忙しかったようだが、平時はとくにやることもない。
他のギルドメンバーは何らかの研究をしているようだが、俺は特に研究などしていない。そもそもジ=スカール先輩も、以前はいつもイタズラの作戦を考えていただけみたいで、要は暇人だ。
そして、ある日――
「戦士ギルドに入るだぁ?」
俺はいつもこの娘と一緒に行動しているわけはない。だから彼女の方も、自由にブルーマの街をぶらぶらしているはずだ。
そこでどこからか情報を仕入れたか、この日突然「戦士ギルドに入ってみたい」と言い出してきたのだ。
「入ってどうするのだ?」
「ふっふっふっ、いろいろ聞いて回ったんだけど、この国って魔術師ギルドと同じぐらい戦士ギルドの影響も強いみたいじゃないの」
「そうらしいな。戦士ギルドは記憶を取り戻すのに役に立ちそうもないから、俺は魔術師ギルドを選んだが」
「それでね、あなたは現在魔術師ギルドの最高峰アークメイジでしょう? そこであたしが戦士ギルドの最高峰に登り詰めることができたら――」
「できたら?」
「戦士ギルド、魔術師ギルドを二人の力で牛耳って、この国を支配できないかしら?」
…………(。-`ω´-)
なんて野望の強い娘なんだ……
格闘術を鍛えたりしているのは、そういった動機か?
とにかく、他の客もいる場所でそんな途方もない事を言うのはちょっと……
「戦士ギルドじゃなくて、魔術師ギルドに入れよ」
「そっちも入ってあげるけど、アークメイジは二人要らないでしょ? だからあたしは戦士ギルドで栄達する。アンヴィルかコロールかシェイディンハルで募集しているみたいだから連れて行って」
「待て待て、とりあえず落ち着け。ブルーマギルドの推薦状を書いてもらうようジュラーエルに話してみるから、付いてきなさい」
戦士ギルドに入るという気持ちは覆らないらしい。
とりあえず気持ちを魔術師ギルドに向けるよう、娘を再びギルドへと連れて行った。
大学と違ってギルドは出入り自由みたいだから助かるし、ギルドも今でも常時新規メンバーを募集中だそうだ。
「そうですねぇ……。アークメイジ様の身内で依頼となれば、すぐにでも推薦状を出してもよいのですが、ここはやはり何か仕事をしてもらわないと、ですかね?」
「そうだそうだ、俺も苦労したんだらか、後輩も苦労すべきだ」
「あ、それ、攻撃者との同一化だ!」
すかさず娘は非難を浴びせかけてきた。
「違う、実力を試すってことだ。俺も実力を示して登り詰めたのだから、君も実力を示すんだ。なに、俺も手伝ってやるから心配するな」
「じゃあ戦士ギルドであたしが栄達するのを手伝ってよ」
「魔術師ギルドに入ったら、俺も戦士ギルドに入って手伝ってやる」
「ん、わかったわ。魔術師ギルドにも入る」
これで良いのか悪いのかわからないが、平凡な日常はあっさりと終わりを告げたらしい。
勢い任せに戦士ギルドに入ることになったが、まぁ適当にお茶を濁してこの娘の好きなようにさせてやるのがいいだろう。
むろんこの国の支配とかそんなことは、これっぽっちも考えていないけどな!
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