アークメイジって強いの? ~霊峰の指を舐めてはいけない~
のんびりとブルーマギルドへ向かう旅を続けている二人。
スプリガンを共闘で退治した後、吸血鬼の住処となっている可能性のあるエンパイア砦へと足を踏み入れたのだが――?
中で待ち構えていたのは、ランド・ドゥルーと呼ばれている昆虫系のモンスターだった。
見つかる前に、霊峰の指をぶっ放して退治する。
この娘は「主人公はあたし」などと言っているが、あんな敵と戦わせたら、また靴がドゥルーの蜜蝋まみれって文句を言うに決まっているので俺が片付ける。
「ふーん、その魔法強いんだ」
「霊峰の指といってな、雲天ってところで修行して身に付けた――んだったっけ?」
「こんな巨大な昆虫みたいなのが居るところに吸血鬼居るの?」
「なんか違うような気がするが、もう少し先を見てみよう」
しかし、その先に待ち構えていたのはミノタウロス二匹。
ここは吸血鬼の住処じゃないな。モンスターハウスだ。
そこで俺達は、これ以上モンスターを相手にすることもなく、そのままミノタウロスを刺激しないようにそっと砦から立ち去った。
ブルーマへ向けた旅の再開。
だが娘は何か考えているようで、黙ったままついてくるようになっていた。
後ろからは、カツンコツンと乾いた足音だけが聞こえてくる。
しばらく進んだところで、ふとその足音が止まった。
ん? と振り返ると、彼女は仁王立ちになってじっと俺を見つめていた。
「どした?」
「あなたがアークメイジになっていると聞いて、この国の魔術はたいした事無いんだなって思っていたけど、あなたの魔力は強くなっているみたい。試してみて頂戴」
「試すって何だよ?」
「あたしにぶっ放してみて頂戴」
「いや、それは危ないだろ?」
「いいからやってみなさいよ」
なんだか負けん気の強い娘だな、そう思いながらも無難な魔法をぶつけてやる。この魔法なら、たいした事故にはならないはずだ。
「プリズム・スプラッシュね、あたしのことは忘れても技術だけは覚えてる……」
「え? 平気? どうなってんの?」
「魔術を食らう瞬間に精神を統一させて備えたら、魔術の力を受け止めることができるの。ほら、受ける瞬間に筋肉に力を込めると打撃を耐えられるのと同じ要領よ」
「それはまずいな、死霊術師よりも厄介な相手だ」
「ほら、そんな昔取った杵柄みたいな魔術じゃなくて、修行して身に付けたっていう魔術を試してみなさいよ」
「いや、霊峰の指は、あれは危険だから止めたほうが……」
霊峰の指の破壊力は、これまでの冒険で十分知っている。
魔力の暴走寸前とも言える魔術、一撃で相手をぶったおしてきたことも何度もある。先ほどのランド・ドゥルーしかり、その前のスプリガンが召喚した黒熊しかり。
しかし娘は「放ってみなさいよ」の一点張りで、ちっとも譲ろうとしない。どうやら自分に自信があるようで、俺の力を試したいようだ。
それならば一つ、俺はこの娘に対するラムリーザの優位性を証明したいと思ってやろうではないか。
「死んでも恨むなよ!」
いや、死なすにはもったいない美人だけどw
俺は、彼女のどてっぱらめがけて霊峰の指をぶっ放してやった。
彼女は小さく「あっ」と悲鳴を上げて、荒れ狂う雷の束に押し飛ばされて飛ばされてしまった。
そう、霊峰の指は破壊力はさることながら、このふっとばし能力に富んでいるのだ。
いくら精神を統一させても、ある意味物理系の威力も兼ね備えた魔術、手練の人間でもそう簡単に耐えられるものではない。
「ああっ!」
今度は大きな悲鳴。
吹っ飛ばされた娘は、少し後ろに生えていた樹木に、その身体を叩きつけられてしまった。
やりすぎたか? と思うが、もともとこの破壊力の魔術だ。物理攻撃と違って、魔術に手加減など存在しない。
娘はうずくまったまま起き上がれない。それも仕方ないだろう。
「う、うう……」
「だから止めといた方がいいって言ったのに、まいったな、ごめ――」
「あ、謝ることはないわ! あたしがやれって言ったんだから! なによ、強いじゃないのアークメイジ!」
「そりゃあアークメイジだからね。死霊術師の反乱をほぼ俺一人の力で解決したようなものだし」
「ラムリーザ、強くなったのね、あたし、うれしい……」
そういい残すと、娘はうつぶせに倒れこんでしまった。
やれやれ、こうなるのわかっていたんだけどこの娘は聞かないからなぁ……
仕方が無いので、倒れたまま荒い息をついている娘を担ぎ上げると、そのまま背中に背負って先へと進みだした。
放っておくわけにもいかないし、動けそうにもないから仕方ない。
「ラムリーザ、ごめんね、無理を言っちゃって……」
「これに懲りたらアークメイジ様を舐めないこったな」
「うん、これであたし達の野望にも、一歩近づいたかもね」
「野望? 俺達? 何の話?」
「なんでもな~い、知りたかったら思い出すことね」
なんだか過去の俺に不穏な気配有り。野望って何なんだ? 俺はこの娘と二人で何かやらかすつもりだったのか?
それほど重たくはないとはいえ、俺もそれほど肉体派というわけでもない。
ゆっくりと進むしかなく、次第に空は茜色に染まり始めてきた。ユニコーンも使わないし釣りとかもやっていたし、今日中にはブルーマに付きそうにないな。
そんなことを考えていると、目の前に小さな集落が現れた。
ここは確か、なんだっけ? 透明人間事件のあったエイルズウェルの宿じゃなかったっけ?
丁度いい、今夜はそこに泊まることにしよう。
村にある唯一の畑では、相変わらずオークの男性が土を耕している。
宿の向こうには、まだ帝都が大きく見える。全然進んでいないな。
しっかし、この娘のおっぱいでかいな。背中越しに当たっているその感触が……、それにこの娘の衣装、右側の足が思いっきりむき出しになっているので、その太ももの感触が直に……
いかん、想像力がむくむくと……
「むくむくはダメ~!」
「どうしたの?」
「あ、いや、ここは以前とある事件を解決してあげた場所で、その時にいつでも泊まってくれと言っていたので丁度いいかなってね」
「こんなところでもお人よしを発揮していたのね、あまり情に流されてばかりいると、そのうちろくなことにならなくなるよ」
「おお、エイルズウェルの救い主よ! あなたが何を必要としても、私はあなたのお役に立ちます!」
「そんなたいそうなこと言わんでいいから、前言ったよね? いつでも泊まっていいって」
「もちろんです! ご友人、上の階の部屋を自由にお使いください」
「この娘もいいかな?」
「誰ですか、そのお嬢さんは?」
「えーとね、幼馴染の婚約者――らしい」
俺は同意を求めるように娘の方を振り返ると、彼女はにっこりと笑ってうなずき返してきた。
許婚を認めたことが、そんなに嬉しいのか? 俺は何も覚えていないが、利用させてもらうぞ?
「それでしたらどうぞどうぞ、丁度上に二部屋あります」
「ありがとよ、それじゃあちょっと休ませてもらおう」
「いつでもどうぞ!」
宿の主人であるディラムは俺を歓迎しているようだが、その兄弟、たぶん姉かな? はうんざりしている模様。
なんでも、ディラムが俺に助けてもらったという話ばかりするのでもう飽き飽きって感じらしい。
知らんわ、俺は悪くない。その話で文句があるならディラムに言え。
「ほいじゃ俺は左の部屋に泊まるから、右の部屋でゆっくりやすんでくれ」
と言った感じに分かれたのだが――
せまっ。
ペルズ・ゲートの宿屋と同じだがまあいいか、シサイニア砦で野宿した俺に怖いものはない。
しかしあの娘は大丈夫だろうか? こんなところで休めるのかな?
「ねぇラムリーザ、どうして別々の部屋なのん?」
「うわぁ!」
突然娘は俺の部屋に入ってきた。誘ってるのか? 手を出していいのか?
――って、俺がこいつの初めてを奪ったことになっているんだったっけ……(。-`ω´-)
「前は一緒に寝てくれていたのに、どうしてこんな仕打ちをするの?」
「知らんがな、ここで寝たければそうしたらいい。俺が右の部屋に行ってやるから」
「どうしてそうなるのよ、また一緒に寝てよ」
……しょうがないな。
俺は疲れきった感じですぐに寝入った娘の寝顔をじっと見つめていた。
しばらくだったころ、娘はポツリと一言漏らした。
「ラムリーザ、会いたかったよ。また会えてよかった……」
娘の閉じた瞳から、一滴の涙がこぼれた。
どうやらこの娘は、過去の俺を本気で愛していたみたいだ。
この娘のためにも、なんとか思い出してやらなければならないな。