ユニコーンに乗るためには? ~処女と童貞~
さてと、旅は道連れ世は情けとか言われているが、なんやかんやあって、俺は許婚を自称する元幼馴染らしき美女と旅をすることになった。
まずはブルーマギルドの様子を見聞、その後はこの娘を魔術師ギルドに入れるために、それぞれの街で推薦状を書いてもらうことになると思う。
まぁアークメイジの俺が、「俺の推薦だ、推薦状を書け」と言えば簡単に済むのか、それともやはり規則は規則で、何かしらの仕事をこなさなければならないのか。
とりあえずこの娘は戦闘力はあるみたいなので、どうなってもたぶん大丈夫だろう。
帝都を発つ前に、一つ確認しておくことがあった。
「ここが帝都の神殿地区。この国の宗教は、変なのしか知らないから自分で調べてね。まぁお勧めはメリディアとか? 逆にシェオゴラスとかメファーラには近寄るな」
「宗教かぁ、あまり興味ないわ。で、ここで何をするの?」
「さっきハゲオヤジが襲ってきただろう? あれはこの帝都で汚職をしていた衛兵で、ちょっと前にここの住民と協力して摘発してやったんだ」
「それで恨まれたのね、お人よしすぎるのも相変わらずねぇ」
「その時に協力した人たちが心配。まぁあいつのメモ書きには俺からつぶすとか書いていたから大丈夫だと思うけど」
「好かれていたり、嫌われていたりするのね」
「基本的に善人には慕われているけど、なんか悪人に恨まれているみたい。吸血鬼とか……」
「あたしは吸血鬼になんか好かれたいとは思わないわ」
「正論だが、スキングラードという街では、あまり大声で言うなよ」
というわけで、ルスランとルロンクの場所へと向かっていった。
よし、無事だな。よいよい。
「どうした? 久しぶりだな?」
「オーデンスが脱獄して襲い掛かってきたからね、心配して顔を見に来たんだ」
「奴が? だから警備隊長を告発して不正の事実を証言するなんて危ないことをやりたくなかったんだ! お前のせいでもう危ない目に会うのはごめんだ、もう行ってくれ」
やっぱり嫌がっていたもんな。仕方ないか。
しかしそこに、黙って聞いていたあの娘が割り込んできた。
「ちょっとあんた、あたしは聞いた話でしか知らないけど、衛兵の不正に苦しんでいたところをラムリーザに助けてもらってその言い草は無いと思うわ」
「な、なんだと?」
「それに自分達で決めて告発に協力したんでしょ? いや、ラムリーザが居なくてもあんた達のことはあんた達だけで解決すべきだったのよ。おかげで彼は――」
「まあ待て、無理を言っていたのは俺のほうなんだ。彼らは困っていただけでさ」
「じゃあこんな人達なんかほっとけばよかったのに、このお人よし!」
まあたぶん、俺があの時尾行してなければ、この人たちはやられていたかもしれない。
そう考えると、俺が危険を引き受けてあげたのも間違いではなかった、と思おう。
俺は、彼らに対して不満をあらわにしている娘を引っ張るように外へと連れ出し、ブルーマギルドへ向かうことにした。
「あいつらを助けたせいで、あたしのラムリーザが危険な目に……」
まだなんかぶつぶつ言っているが、帝都を出て馬屋へと向かった。そこに愛馬ユニコーンの名前未設定を預けてもらっているんだ。
俺は娘にユニコーンを見せ付けるように自慢してやった。
「さて、ブルーマまで馬でひとっ走りだ。ただし、俺の馬はユニコーンだけどな」
「ユニコーンって処女しか乗せないんじゃなかったの?!」
なんだか知らんが驚いている、してやったりだw
「たぶん雄のユニコーンは処女しか乗せなくて、雌のユニコーンは童貞しか乗せないんだ。それで、このユニコーンはたぶん雌だ」
「なんであなたが童貞なのよ!」
突っ込むところはそこか?
いや、俺には経験した記憶はないのだが……
すると娘は、少し残念そうな表情を浮かべてぽつりともらした。
「あたしは、乗れないな……、もう処女じゃないから……」
「なんだ、非処女だったのか」
思わず驚いてみせたが、別に処女厨とかそんな考えを持っているわけではない。ただ、この娘は俺の許婚だと言っている、にも関わらず他の男と関係を持っていることが許せん――ってそれが処女厨の考え方か(。-`ω´-)
まぁしかしなんだ、このなまめかしい姿態に、整った顔立ちの美人。他の男が放っておくわけがないか。
だが、その娘が激怒して次に発した言葉は、俺をさらに驚愕させた。
「なっ、何が非処女よ! あなたがあたしの初めてを奪ったんじゃないの! それにあなたとしかやってないからやましいことなんて全く無いわよ!」
「おっ、俺が?!」
すげーな、過去の俺! こんな美女とやったのか! 覚えていないのが非常に悔やまれるぜ!
だが記憶が無くなっているのはもう二人の間では周知の事実なのでそれ以上口論には発展せず、帝都の馬屋から馬を一頭借りて旅を続けることにした。
「なんかあなたがユニコーンで、あたしが普通の馬だとなんかずるく感じる」
「じゃあどんな馬がいい?」
「ペガサスとか?」
「うん、探して見ようか」
そんな感じに馬を飛ばし始めたが、帝都入り口の橋に差し掛かったところで娘は不平を言い出した。
「やっぱり馬での旅は慣れてないから嫌だわ」
それは言葉通りに取っていいのか? それともユニコーンに嫉妬しているだけか?
まあ別にこの娘が馬旅を嫌がるならそれでもいい。
元々俺も自分の足で世界を回っていたのだし、相棒が欲しくてユニコーンに乗っていただけだ。急ぎの用事でどうしても飛ばさなければいけない時以外は、この娘と二人でのんびりと過ごすのも悪くないだろう。
そういうわけで、ユニコーンは帝都のすぐ外にある民家の庭に置かせてもらうことにした。
「さて、ブルーマは最初に訪れた場所だから分かると思うけど、北の方角だからね」
娘はユニコーンに未練があるらしく、じっとユニコーンを見つめている。
そしておもむろに、ぽつりともらしてきた。
「ああでも、ここに来て過去がリセットされてあなたが童貞扱いされるのなら、あたしもここでは一からやりなおしで処女かな?」
「記憶障害で経験はリセットされても、膜はリセットされないだろ?」
「それなんかずるい。あ、でも膜にヒーリングをかけたら回復するかな?」
「知らん、試して見たらどうだ?」
もしそんなことが可能なら、世の中の価値観がすごく変化すると思う。主に不貞において……(。-`ω´-)
だいたい膜がどうのこうのって、こんなところでする会話じゃないだろう?
まあでもあれだね。
物言わぬユニコーンとの旅より、やっぱり会話のキャッチボールができる相手と一緒の方が楽しいね。
ユニコーンには急ぎの用事の時と、それ以外の時にも時々会ってあげればいいか。
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