支部の人事 後編 ~シノヤのジュラーエル~
さて、レヤウィンギルドのアルヴェスから聞いた話では、ジュラーエルはブラヴィルの東、シノヤという遺跡に居るらしい。
地図によれば、豹の口より川を上っていったところ。
今回のスタート地点はここ、後方に見える岩礁が、豹の口である。
川は東へと続いている。この川を上流へと向かっていけば、遺跡があるはずだ。
川は蛇行しているようなので、最短の直線コースを取れば何度か川を横断することになる。
そら飛び込めーっ、未来はそこにある! 何の未来かは知らんけどな。
しばらく進むと、見覚えのある場所に出てきた。
確かこの辺りで、海難事故に倒れたグランサムが残した宝があった場所だったっけ。
あの時は宝石に喜んだものだが、後になって上質なダイヤモンドが宿賃十日分にしかならないと気が付き、この国では宝石はそんなに貴重ではないのだなと分かってがっかりしたものだ。
さて、上流へとしばらく進んだところ、目の前にアイレイドの遺跡が見えてきた。
あれがシノヤの遺跡だろうか?
山肌にめり込むように作られている遺跡。
しかしその入り口は、硬いシャッターで閉ざされており開きそうに無かった。
そこには、「冷たい魂に炎を触れよ」とだけ書かれていた。
なんだろう? なんか最後にダケイルの予言がちらっと聞こえたような気がしたが、「冷気、魂縛、炎という順番」とか言っていたっけ?
そういうわけで、試しに冷気の魔法、魂縛の魔法、炎の魔法を「触れよ」ということで近接魔法としてぶっ放してみた。
うん、開いたね。面白いしかけだったけど、シャッターを冷やしたり熱ししたりするのはわかるが、魂縛する意味はあるのかな?
遺跡の中に入ってすぐの場所は、客室? のような感じになっていた。
手紙には「親愛なる友へ」だの、「骸骨達を倉庫に入れた」だの書いているが、誰が誰に宛てて書いたものだろうね?
J、J――、ジェイ、ザルゴ? 誰だそれは!
奥に進むと、そこは宝の山。ウェルキンドストーンが大量に飾られているではないか。
千個集めたら願いがかなうらしいが、何を願おう? アークメイジの私室の改築かな?
記憶は――、記憶はなぁ……(。-`ω´-)
どうも記憶について考えると、俺の許婚と語った名も知らぬあの娘のことが脳裏に浮かぶ。
まぁ王様ごっこならいつでもできる。
こんな遺跡で王になっても仕方ないが――
しかしこの遺跡で、あまりよろしくないものを見つけた。
やっぱりジュラーエルは死霊術師? 側には黒魂石まで転がっているし……
まだ新しい異体で、腐敗していないのでゾンビには見えない。
生と死について研究、普通に生き返らせようとしたのかな?
他に遺跡を調べて回ると、奥に居住区のような場所を発見した。
なんか骨が居るけど、別に襲ってくる気配は無い。
そして部屋の奥で、眠っている人が一人。この人がジュラーエルなのだろうか?
うーん、起こすか寝かせとくか? しかし起こさないと話が進まない。それに起こしていきなり襲い掛かってくることはないだろうか?
とりあえず警戒しながら、彼の肩をゆすった。
「起きなさい起きなさい、私の可愛い坊や――ってアリーレさんじゃねぇかこれじゃ!」
「なんだやかましい!」
一人でボケ突っ込みをやっていたら、起こしてしまったみたいだ、まあよい。
「お前は誰だ?」
「某はラムリーザというもので候――って、変な口調が直っていない! えっと、ジュラーエルさんですか?」
「いかにも、私はジュラーエルだが?」
「ブルーマ支部の人事のことで話しがあります。みんなあなたを支部長にって言ってますよ」
なんか頓珍漢な会話の取っ掛かりになってしまったが、なんとか要点を伝えることができた。
しかしジュラーエルはあまり乗り気ではないようだ。
トラーベンは自分を受け入れないし、あの偽善者と働きたくないと言っているが、そうか、喧嘩別れしたんだったな。
「ハンニバル・トラーベンは、亡くなったんだよなぁ……(。-`ω´-)」
「何? 何と言った? どういうことだ?」
そこで俺は、先代アークメイジのハンニバルが、マニマルコと戦うために命を捧げたこと、そしてマニマルコを退治してギルドに平穏が戻ったことを教えてあげた。
ジュラーエルはハンニバルの犠牲を悲しみ――って、むっちゃ気にしとるやん。やっぱり喧嘩するほど仲が良いってやつですかな?
俺は、彼の犠牲のおかげでマニマルコと戦うことができて、勝つことができたのだということを語った。ハンニバルの犠牲が無ければ、マニマルコの術で操られていたかもしれないのだ。
「彼は勇敢だったよ、そしてこれが彼の選択した道だったのです」
「ああそうだ、彼は勇敢だった。その戦いの時に側に居てやれなかったことを残念に思うだけだ……」
「時は戻せません、最善だと思う道を選んでください」
「わかった、君の申し出を受けることにしよう。ブルーマの支部だね、さっそく出発しよう」
最後にジュラーエルは、忙しくて大学に立ち寄ることができないので、今のアークメイジにあったらよろしくと言ってから立ち去っていった。
ふっふっふっ、あなたの目の前に立っているこの俺が、アークメイジなのですよ、などと威張ったりはしない。人間いつ何時も、謙虚さを持つべきだ。
そして俺は、ジュラーエルが遺跡から立ち去るまでずっと後姿を眺めていた。
なぜそんな感傷に浸るようなマネをするのかだって?
決まっているじゃないですか、お宝を全部独り占めするためですよ! 大量のウェルキンドストーンゲット、やったね! ラムちゃん!
しかし時は戻せないか……
そうだね、過去は過去だ。あの娘には悪いけど、今度遭遇した時は、今の俺は昔の俺ではない、昔のラムリーザは死んだんだと伝えよう。
さて、支部長の人選は決まった。
大学に戻ってラミナスに報告しておくか。次は構成員を集めたりしなければならないからな。ジ=スカールしか今は居ないもんな。
あ、ジュラーエルはジ=スカール先輩のイタズラを受け流すことはできるだろうか?
まあいいや、イラーナのおばさんよりはしっかりしていそうなので大丈夫だろう。
あと、こんなところもあったけど、やばそうなので省略――
前の話へ/目次に戻る/次の話へ