雑用も荷物整理も終わり、いよいよシェオゴラスの杖を復活させる時が来た。
 ダイウスの話では、シェオゴラスの宮殿にある狂気の泉へと行かなければならないようだ。その泉に杖を浸して、全ての力を己に解き放つ必要があるという。
 そうすれば、俺は晴れてシェオゴラス二世――いや、ラムリーザ一世としてこの世界を支配できるのだ。

 待っておれ、戦慄の島よ。
 3E433の7月、狂気の大王は天空に消えたが、彼は新しい支配者を誕生させ、その前後はラムリーザが幸福に支配するであろう。
 
 なんだか予言みたいだって?
 
 ダイウスの予言も外れたし、俺には予言は通用しないのだ。
 たとえ俺のことが予言に書かれていたとして、そのページを焼き捨てたとしても、俺の存在は消滅しないのだ。
 なぜなら、俺は予言全てに反する者だからだ。
 
 
 さて、シェオゴラスの宮殿だが――いずれは俺の宮殿になるけどね――ハスキルと話をする前にちょっとした寄り道。
 

「これはまだ見てなかったな。再生したゲートキーパーの武器が置いてある」
「そう言えば、こん棒にしたんだったね」
「あれはどうみても力馬鹿だから、多少は技術が必要な剣や斧を使うより、ストレートに叩いた方が強いのだ」
 
 レルミナか。
 俺の支配する世界では、まともな研究しかさせないからな。
 

「次はこれは――予言書かな、ダイウスの」
「全然当たらない予言書ね。でも34857巻って書いてあるわ」
「世界最長の書物か――ってやばいぞそれ!」
 
 例えば一巻に千文字しか書いていないとしても、この書物を書いた人は3485万7000文字も書いたことになる。
 一巻一万文字なら、全3億文字だ。
 すげーな! 世界一長い本でも、900万文字ぐらいだが、その比じゃないぜこの予言書!
 世界一長いシリーズであるペリー・ローダンシリーズも3000巻ぐらいだから、この予言書の異常さがわかると思う。
 
「一巻に一文字しか書いてなかったら、普通に3万文字よ」
「それは本と言えるのか?」
 
 文字カードじゃないんだからさ。
 それにひらがなだけだと、どうやっても46巻までしか作れないぞ、と。
 そもそも予言書100巻、内容は「ま」とかで、何を予言していると言うのだよ。
 
 
 さて、これまでの歩みを振り返ったところで、ハスキルに狂気の泉について尋ねますかな。
 

「ハスキルさぁん」
「わおっ、戻りましたか! お気づきかもしれませんが、少々問題が……」
「杖は未完成で、狂気の泉に浸さなければならない、ですか?」
「戯れのおつもりですかな? お上手ですよ」
「いや、マジなんだけど……(。-`ω´-)」
「玉座の裏にある狂気の泉を見てごらんなさい」
 
 そうか、狂気の泉は玉座の裏にあるのか。
 それなら話は早いね、さっさと浸して力を得てしまおう。
 

「こんなところに噴水があるなんて、知らなかったなー」
「残念ながら、オーダー軍に汚染され、クリスタルで閉じ込められてしまいました」
「何だと?」
 
 泉に触れようとしたが、オーダーのクリスタルで覆われているためか、何も受け付けてくれないのだ。
 これでは、杖を泉に浸すことができない。
 
「このままでは、別の主人に仕える羽目になりそうですな」
「ここでハスキル殿の、下剋上宣言ですか?」
「それも面白いですが、違います。恐らくジャガラグの手先が、泉を汚染する方法を見つけたのでしょう」
「汚水をスプーン一杯垂らすのですね」
「は?」
 
 いや、樽一杯のワインに汚水をスプーン一杯垂らしたら汚水になるだろ?
 逆に樽一杯の汚水にワインをスプーン一杯垂らしてもワインにならないから理不尽だよな。
 
 さて、狂気の泉にスプーン一杯の秩序を垂らしたら、それは狂気だろうか? 秩序だろうか?
 悪魔は狂気の中に秩序を混ぜる――いや、嘘の中に真実を混ぜるだったか。
 
「狂気の源泉が秩序の泉となれば、ジャガラグの勝利です」
「それなんか引っかかるなぁ? まあいいや、止める方法は?」
「泉の供給源を正すしかないでしょうな」
 
 ハスキルの話では、マニアの池とディメンシアと池があり、それが泉の供給源となって狂気の泉を作り出しているのだと言う。
 それを裏切り者のセイドンが、何らかの方法で汚染させたと言うのだ。
 ジャガラグはこのような妙案を思いつくはずがないからということで。
 だから、地下の水源に入って、汚染の原因を探さなければならないのだ。
 
 
 この機会に、狂気の泉についてハスキルに詳しく聞いてみたりした。
 
 宮殿の地下深くからくみ上げられている泉の流れには、狂気の木の樹液が含まれていること。
 水源は、王国の住民の狂気が溜まるディメンシアとマニアの池まで続いていること。
 そしてジャガラグは、この狂気の源泉を秩序化させようとしていること。
 池を浄化しないと、オーダーの勝利として終わってしまうこと。
 
 ここで俺は、ようやく引っかかっていることがわかった。
 
 
 俺は、狂気の世界を支配して、そこに整然とした秩序を作ってまとも化させようとしている。
 俺のやろうとしていることは、ジャガラグの求めていることと同じなのだ。
 
 
 まあよい。
 
 何をするかを重要視しないでおこう。
 この際、誰がするかが大事なのだ。
 
 戦慄の島は、ジャガラグの手によって秩序化されるのではなく、俺の手によって秩序化するのだ。
 オベリスクの力を使わず、俺のやり方でな。
 
 
「それで、その水源への入り口は?」
「玉座の裏側にある木の裏側ですよ」
 

 この木の裏側か。
 
 そこはシェオゴラスの聖域。
 根を世話する従順なナールに囲まれた場所。
 普段の水源は穏やかな聖域だが、秩序の汚染でどんな変化が生じているのかわからないと言うのだ。
 
 

「よし、行くぞう」
「こんな島、嫌かしら?」
「うむ、オラこんな狂気の島嫌だー。だから秩序を取り戻す」
「それジャガラグじゃないの?」
「ジャガラグではない。俺が俺による秩序を作るのだ」
「なんかかっこいいように聞こえるね」
 
 
 そんなわけで、まだまだシェオゴラスの意思を継ぐまでの道のりは遠い。
 次は、狂気の泉の復活だ。
 
 
 続く――
 
 
 
 




 
 
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