アンヴィルの推薦状 ~追い剥ぎが一番稼げる世界なのだから魔術師崩れの言い分も分かる~
あくる日の朝、俺はアンヴィル魔術師ギルドのマスターであるキャラヒルにいきなり呼ばれた。
なんでも推薦状を書くから、この周辺の街道で起きている問題を解決しろと言ってきたのだ。
それは逆だろう、問題を解決したら書いてやる、が正解じゃないのか?
ひとまず話を聞いてみると、ここから少し街道を北に向かった所にあるブリナ・クロス亭という宿屋に立ち寄った者が、殺人事件にあっているのだと言う。
しかも犯人は、魔術師崩れの奴ららしい。
魔術師崩れ……、ジ=スカール先輩の顔がちらつくんだが、あのイタズラ獣族。元気にしているだろうか?
そこで、顔が知られていない俺が、この任務に適任だというのだ。
アルゴニアンとかカジートにやらせたらいいんじゃないかね? あいつら馴染んでも顔の違いはわからんぞ?
そのブリナ・クロス亭で、アリーレ・ジュラードが作戦を立てるので、話をするように、以上だ。
しかしこのギルドの人々は本が好きなんだな。
マスターもそうだが、それ以外のメンバーもずっと本を見ている。
そのうち学者みたいに、本で敵を攻撃しだすんじゃないだろうかねぇ……
というわけで、ブリナ・クロス亭。
こんな中途半端なところに宿屋をつくらずに、アンヴィルの街中に作ればいいのに。そんなに街から離れていないしな。
宿屋の中には、イラーナの親戚みたいな顔をしたおばさんが居た。
このおばさん、街道に強盗が出るとかで怖がっているみたい。大丈夫だ、昨日ここへ向かっている最中には強盗は出なかった。
それに強盗と言っても、いわゆる追い剥ぎってやつだろ? 大丈夫、この国には至るところに居る。とくにカジートがやっているぞ、俺も何度か返り討ちにしてきた。
もう一人、小柄な女性が居た。
彼女がキャラヒルの言っていたアリーレのようだ。
アリーレは、最初は普通に挨拶をしてきたが、すぐにヒソヒソ話になり、俺にこの宿で部屋を借りろと言ってきた。詳しい話はそこで、だそうだ。
さらに、ギルドの準会員という素性は隠して、商人を装え、と。
ちなみにアリーレは、シェイディンハルがどこにあるか知らないそうだ。うん、ずっと東だよ、首都を挟んでこの国の反対側。
誘拐事件が多いし、井戸に沈められるかもしれないから、行かないほうがいいよっと。
さて、部屋を取って一休み。
………
……
…
ん、俺を呼ぶのは誰だ?
「起きなさい起きなさい、私の可愛い坊や」
それは、ラムリーザが16歳になる誕生日のことであった。
ん? 俺は16歳だったのか? 大学生設定じゃなかったか? 飛び級か?
「今日はお前が始めて行商をする日だったでしょう?」
ん、目を開いて身を起こす。なんだアリーレか。行商? ああ、今回の任務では商人設定だったな。
「この日のために母さんはお前を勇敢な男の子として育てたつもりです」
「いつ親子関係になった~?!」
「ここで休憩したら、まっすぐクヴァッチをめざすのです。さあ行ってらっしゃい。ああ、あと任務中は中は話しかけちゃダメだからね」
なんか妙な具合になったが、とりあえず街道を西へと向かうことになった。
クヴァッチか、いずれは行ってみよう。
というわけで、ブリナ・クロス亭を出て東へと向かう。
どうでもいいが、この植物でかすぎないか?
俺よりも背が高い大きさだし、葉っぱもやたらとでかい。
そんな感じにただの行商人を装いながら進んでいくと――
――さっきの宿屋に居たおばさんと遭遇した。
って、この人が犯人でしたか、賢い人だ。
なぜ賢いかだって?
そりゃそうだろ? この世界では追い剥ぎが一番儲かるんだから。
ちまちま働くより、道行く人たちに襲い掛かって身包みを剥いで売る。散々追い剥ぎを返り討ちにして、逆に剥ぎ取ってきた俺が言うのだから間違いない!(`・ω・´)
魔術師崩れと呼ばれていただけあって、召喚術で変な蜘蛛を呼び出しやがった。
高度な技を身につけた人だって、最終的に一番稼げると分かってたどり着く道が追い剥ぎ。良いのか? この世界……
あっ、援軍が来た。骨も援軍か? もうわけわからん。
この場合、俺はどうすればいいのだろうか?
加勢するべきか? それとも行商人を貫き通すべきか?
しばらく戦闘が続いた後、追い剥ぎ強盗の魔術師崩れは退治された。
確かに追い剥ぎは稼げる。しかし、相手に勝てなければ、逆に剥がれてしまうという、ハイリスク、ハイリターンな業種なのだ。
夕日に向かって凱旋。
こうして街道の強盗は成敗され、安全は確保されたのだった。
そして俺も推薦状を書いてもらい、また一歩大成への道を開いたのである。
魔法の技量、魅力、強い意志。ラムリーザは大成するよ、それは間違いない。
魔術師ギルドクエスト アンヴィルの推薦状 ~完~
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