偏執の貴婦人 中編 ~本物の陰謀~

 
「マ=ザーダは話を避けているな。よほどの事情があるのだろうが、ここは一旦別の手を探そう」
 
 
 クルーシブル地区にて――
 
 シル公爵の依頼で最高尋問官に任命された俺は、公爵を亡き者にしようとしている陰謀を暴こうとしている。
 娯楽室――もとい看守のハーディルの考えでは、マ=ザーダは怪しいが口を割らないので、一旦別を当たってみようということだった。
 彼の考えでは、クルーシブルには情報通が居るはずだと言う。
 
 さて、そろそろ日も暮れてきたことだし、病弱バーニスの酒場で宿を取ることにしようか。
 ついでに奇跡の水を届けて、ついでに陰謀について知っていることを述べてもらおうか。
 
 
 
「お願い! 薬があるなら言って頂戴、そろそろ限界よ!」
「まぁ慌てるな。奇跡の水は本物だぞ」
 

 俺はバーニスの前で、ねじれ窟ノッティー・ブランブルで汲んできた奇跡の水を取り出してみせるのだった。
 ゾンビ犬をも復活させる、正真正銘本物の奇跡の水だ。
 
「そっ、それよ。それを私に頂戴」
「それはどうだか?」
「何が目的なのよ!」
「そうさなぁ――、シル公爵を取り巻く陰謀について、何か知っていることはないかな?」
「陰謀の事は、何も知らないわ!」
 

「そうか、仕方がない。奇跡の水は、俺たちで頂くことにしよう。民主主義に乾杯!」
「ちょっと待って! やめて、私の分が無くなる!」
「だったら質問に答えてもらおうか? いいかね、同じ質問を繰り返すのにも疲れた。陰謀とは何か?」
 
 なんだか変な具合になってきたりする。
 ハーディルに頼らず、アイテムを利用して尋問するとは、俺の最高尋問官も板についてきたか?
 就任して2時間も経っていないけどね。
 
「私が知っているのは、マ=ザーダがネルリーンと話している所を――私は見てないわ」
「ハーディルさん、奇跡の水はいかがかな?」
「待って、ネルリーンと会ってました」
「ネルリーンとは何ぞ?」
「シルの衛兵隊長です! 深夜に外出しているみたいです、二人を監視してみたらいいのよ!」
「聞いたか諸君、バーニスは物知りだ。早速奇跡の水で乾杯と行こう」
「なんですって?!」
「冗談だ、はいどうぞ奇跡の水です」
 
 まぁあんまり意地悪をするのもアレだから、ちょっとした情報を得たところで奇跡の水を与えたのであった。
 それを飲んで、明日からは元気なバーニスになるんだぞ、と。
 
 さて、バーニスの話では、マ=ザーダは深夜にネルリーンなるシルの衛兵隊長と密会をしているらしい。
 ここで深夜まで時間をつぶして、こっそりと尾行となるので俺一人で向かうことにしよう。
 
 ぬ、ヒラスの時と同じだな。
 
「何よ、マ=ザーダとどこかにしけこんでしっぽりするんでしょ」
「反応がワンパターンになっとるぞ」
 
 緑娘の反応も、いつも通りだ。
 これもヒラスの時と同じ、相手はカジートの男性だぞ?
 俺はそんな趣味は無いっつーの!
 
 

 なんだか珍しく、バーニスの宿に客が居たりする。
 そんなわけで、三人で仲良く宴会でもしていてくれたまへ。
 俺はスパイ大作戦に行ってくる。
 

 バーニスの宿を出たところで、丁度目の前を通過するマ=ザーダを見かけたりする。
 探す手間が省けたな、このまま尾行開始としましょう。
 
 マ=ザーダは宿の裏に回り込み、そのまま階段を上がっていく。
 

 そしてそのまま、三つ巴のバトルを始めたのであった。
 ファイトクラブかよ……(。-`ω´-)
 
 ――って、クラブの名前がファイトクラブと決まったわけではないけどね。
 今日はマ=ザーダと、知らないダークエルフの女性、そして犬使いのウシュナールが戦っている。
 

 こっそりと試合場裏の屋根に登り、そのままバトルが終わるのを待つことにする。
 あのダークエルフの女性がネルリーンの可能性もあるが、衛兵隊長と聞けばディメンシアでは黒い鎧で身を固めた衛兵みたいなの連想するけどね。
 
 
 ………
 ……
 …
 
 
 二時間後――
 

 ファイトクラブは解散となったようで、戦っていた者も観客も、何事もなかったかのようにその場を立ち去り始めた。
 メンバーはこの四人だけなのか?
 四人で持ち回りで戦っているのか?
 
 とりあえず今は考えず、俺は再びマ=ザーダを尾行し始めるのであった。
 
 

 ――と思ったけど、マ=ザーダはそのまま自宅へと戻ってしまった。
 深夜の密会は嘘か?
 俺はバーニスに嵌められたのか?
 やはりハーディルに頼らずに、奇跡の水を使って勝手に独自の方法で尋問したのがアカンかったのかなぁ……
 

 それでも仕方がないので、朝帰りにならないように気を付けながら、ひたすら家の前で待つのだった。
 
 ぬ、帝都にてジェンシーンの依頼で、ソロニールについて調査していた時、アガマーの家の前で張り込みをしたことを思い出す……(。-`ω´-)
 
 
 ………
 ……
 …
 
 
 さらに二時間後――
 

 日付もそろそろ変わろうかという時刻、マ=ザーダは再び姿を現して、どこかに向かい始めた。
 これが密会か?
 
 そのまま気づかれないように、再び尾行開始。
 
 

 マ=ザーダの行った先は、下水道の側。
 そして、ディメンシアの衛兵と一緒になるのだった。
 
「進展はあったか? アーニャはどうだ?」
「ダメだ、尋問官に嗅ぎつけられた。他の協力者を探そう」
 
 二人は、ヒソヒソと話している。
 尋問官は俺の事か? そしてあの衛兵が、ネルリーンなのか?
 
「一刻も早く探し出すんだ。協力者が見つからなかったら、お前は消されることとなる」
「絶対にやってみせる。シルの最後を見たいからな。あんな真似をした女を生かしておけるか」
「よし、尋問官に感づかれるなよ」
 
 ここまでで二人の会話は終わったようだ。
 俺はあいつらが二人であろうが負ける気はしないので、その場に飛び込んでやったのだ。
 
 

「オコンバンハ」
「また君か? マ=ザーダの輝くスプーンとか、壊れたビンとかを探してくれないか?」
「黙れ猫人間。さっき二人で話していたことを聞いたんだぞ?」
「なっ――、それはクルーシブルのためなんだ! 分かるだろ! 何でもするから見逃してくれ!」
「さー、わからんねー。で、そっちの衛兵がネルリーンか?」
 
 とりあえず相手を確認しておく。
 これがネルリーンじゃなかったら、陰謀のための密会じゃなくなるからな。
 バーニスの情報が、本物ならば――に限るが。
 
「いかにも私はネルリーンだが、言いがかりはしない方が無難だぞ、定命の者よ」
「今さっきマ=ザーダと話してたやん」
「で? その証拠は?」
「二人が話していたのを見てたのだけどねー。まあいいや、マ=ザーダに聞こう。ネルリーンはバイバイ」
 
 相手がわかれば、あとはそれぞれを問い詰めるだけだ。
 この場は与しやすそうなマ=ザーダを問い詰めることにして、ネルリーンには立ち去ってもらう。
 尋問官に感づかれるなと言っていたので、二人が一緒にいたのでは話は聞けないだろう。
 
 ネルリーンが立ち去ったところで、マ=ザーダに尋ねる。
 なぜ、シル公爵を殺そうとしているのか、と。
 ここまでくると、公爵はパラノイアではない。本物の陰謀が動いていると見るべきだろう。
 
 しかし、マ=ザーダの答えは、ドス黒い疑惑ではなかった。
 どちらかと言えば、桃色の疑惑というかなんというか――
 
 曰く、シル公爵は、マニアのセイドン公爵と密会しているらしい。
 そして、二人の関係は、恋仲なのだと言う。
 
「それがどうしたんや?」
「許されざることだ! 打倒せねばならない!」
「なんでやねん、ええやん恋するぐらい。ひょっとしてお前、シル公爵が好きなん?」
「違う! だが、いかんのだ!」
 
 何がいかんのかわからんが、とりあえずこいつに同調して話を進めることにした。
 ここで愛だの恋だの、禁断の関係だの語り合う気は無い。
 
「まーええわ、二人の恋路を邪魔してやろう。で、他に仲間は居るのか?」
「マ=ザーダはネルリーン以外の仲間は知らん。でも彼女も他の誰かから指示されているらしい」
「それは誰だ?」
「わからない。でもそいつを突き止めたら見逃してくれるかい?」
「まあいいだろう。黒幕を探したまへ」
 
 こんなに簡単に主義主張を変える奴は信用ならんが、この場ではとりあえず味方にしてやろう。
 こいつごときが裏切ったところで、恐るべきことは何もない。
 マ=ザーダは、明日の晩までに調べておくので、そしたら家に来てくれと言ってきた。
 俺はこの場ではそういうことにしてやって、一旦こいつは釈放してやるのだった。
 
 さて、ネルリーンの方だが、これはハーディルの力も借りよう。
 一旦宿に戻ってハーディルを呼び、ネルリーンの居場所を突き止めるのだった。
 
 

「こら、ネルリーンか?」
「しつこいな、何も言わんぞ」
「よろしい、ハーディルさん懲らしめてやりなさい」
 
 これまでと同じ流れだ。
 俺の命令で、ハーディルはネルリーンに電撃を浴びせる。
 死なないよう、しかし痛いように調整された、拷問用の電撃だ。
 俺にそんな手加減は難しい。
 

「くっ、分かった。私はシルを血の海に沈むよう願うグループの一人だが、首謀者ではない」
「でも願っているのだったらいかんねー。ハーディルよ、どんどん懲らしめなさい」
「ぐぬぬ……、首謀者が捕まったら私は諦めよう」
「よろしい、首謀者は誰かな?」
「ミューリーンだ」
「誰やそれ?」
「それ以上は言えない。それでは失礼する!」
 
 それだけ言い残すと、ネルリーンはさっさと逃げ去ってしまった。
 まあいいか、首謀者の名前はミューリーンと分かった。
 後は聞き込みをして、そいつが誰なのか突き止めたらいい。
 
 しかし、そいつが誰なのかは、意外なところから情報が入ってきた。
 
「あ、そいつ知ってる」
「なんで知ってるんだ?」
「だってあたし、あなたを待っている間、ミューリーンっておばさんと一緒に食事していたもん」
「ぬ、あの時宿屋に居た珍しい客がそれだったか」
「あたし覚えているから、探し出せるわ」
 
 これは偶然中の偶然、緑娘と顔見知りになっていたとはな。
 この分だと、マ=ザーダとの情報と合わせて、早いうちに陰謀を終わらせることができそうだな。
 
 
 しかし、今日はもう遅いので、一旦宿に泊まって明日出直すことにした。
 マ=ザーダが情報を集める時間も必要だ。
 ミューリーンが首謀者だとわかっただけで、証拠が何も存在しないのだ。
 まさか名前が挙がっただけで逮捕するわけにもいかない。俺は風聞によって逮捕することはしない。
 慌てる必要は無いのだ、俺たちは陰謀の中心へと着実に向かっている。
 
 
 バーニスの宿にて――
 

「あなたは別の部屋に行って!」
 
 まあそうなるわな。
 この宿には複数部屋が存在するようなので、ハーディルは別の部屋に泊まってもらうことにした。
 

 それではおやすみ。
 
 今夜は朝帰りもせず、よその家に泊まることもなく、緑娘と一緒に宿泊しましたとさ。
 
 
 後編に続く――
 
 
 
 




 
 
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Posted by ラムリーザ