ミスカルカンド ~グレート・ウェルキンド・ストーン~
「さて、進展ありましたか?」
「残念ながら、ザルクセスの神秘の書の解読はスローペースでね。タイバー・セプティムの鎧の探索はどうなっている?」
ここはクラウドルーラー神殿。
クヴァッチの後継者問題が片付いたので、鎧を届けに戻ってきたわけだ。
「このミニスカ鎧ですか?」
「おお、私にはセプティムの血が流れているかもしれないが、君には英雄の魂が備わっているようだ。タイバー・セプティムその人の鎧! ジョフリーが見たら驚くだろう」
「気をつけてくださいよ。こいつは鎧は鎧でも『よろい注』という危険な奴で、自由への壁を突破しようとするのを邪魔してくるのです」
「大丈夫、必要なのはこびり付いたタロスの聖なる血だけだ。鎧はジョフリーに管理してもらおう。ところで、だ」
「まだ必要な物があるのですか?」
「儀式に必要な第三の鍵、グレート・ウェルキンド・ストーンだ」
「巨大黒魂石ならありますよ」
これは、先代アークメイジハンニバルの形見だ。今でも俺を守ってくれている、と信じたい。
マーティンの言うグレート・ウェルキンド・ストーンは、その名の通り大きなウェルキンド・ストーン。
小さなものなら、アイレイドの遺跡でいくらでも見つけることができ、千個集めたら願いが叶うとかなんとか言っていたが、いつのまにかうやむやになってしまった物だ。
それに、魔術師や神秘主義者たちの間で高値で取り引きされるため、古くから盗掘の対象とされてきたそうだ。
ん、魔術師大学でそんなものを取り引きしていたという話は聞かないぞ? どの分野の研究だ? 古代の遺跡担当なら、シンドリ辺りか?
「まだそれが残っていると噂される場所が一つだけある。アイレイドの都市遺跡、ミスカルカンドだ」
「ミドガルズオルムとヨルムンガンドを足して二で割ったような名前ですね」
「その地にある石を求めて、多くの命が失われたと聞く。そこで君には、誰も成し得なかった領域に足を踏み入れなければならないのだ」
「つまり、俺に取ってきてと言いたいわけですな」
「噂や伝記など意識する必要はない。君の才能なら自ずと必要な物を集めてきてくれる。私はそうなることを望んでいるのだ」
「しかし、別に俺でなくとも――」
「君しかおらんのだ、これからは」
「マーティン殿は、いつでも俺に重過ぎる課題を与えてきますね。タイバー・セプティムの鎧の時もそうでした」
「だが君は、見事にやり遂げた。今回もやれるはずだ、期待している」
どいつもこいつも何かというと俺に頼る。少しは自分で解決しろとは言わんが、シロディールの住民、これで大丈夫なのか?
他に有能な人材は居ないものだろうか?
「テフラ、君が取ってくるかい?」
「嫌よ。あなたが皇帝になるためだったら喜んで行くわ」
「おおっと! それではマーティン殿、ミスカルカンドへ行ってくるぜ!」
さて、クヴァッチとスキングラードの中間地点に広がる遺跡、これがミスカルカンドだ。
ここは、人類が台頭する前のシロディール、アイレイドの諸王国が栄えていた時の首都だという。
最後の王の怨霊が彷徨っているそうだが、幽霊とか今更驚かない。太古の遺跡都市は、東部連峰でも経験済みだからね。
迎えてくれたのはゴブリン。
誰も成し得なかった領域は、ゴブリンの巣となっているようだ。
意外とたいしたことないかもしれないね。
さて、アイレイドの遺跡探検の始まりだ。
ここに住み着いているゴブリンは、苦魚族らしい。苦い魚って何だろうね? 鰯とかかな?
遺跡の中に入ると、なにやら血糊がべったりと。
「あっ、奥にゴブリンがいるわ!」
「おい、ちょっと――」
奥にゴブリンを発見したらしい緑娘は、そのまま階段を飛び降りていった。
飛び上がって踏みつけるだけでやっつけるだけの戦い、高台に陣取ればそれだけ有利になるわけか。
そして奥では、ゴブリンがゾンビに襲われてやられていたりした。
これは放置していたら、ゴブリンかアンデッドのどちらかだけが残るようになっているのかな。
残ったほうのアンデッドに、高台から熱線を浴びせかける。
漁夫の利という言葉があってだな、敵を共倒れさせて美味しいところだけ頂くって戦いもあるものだ。
「デイゴンと皇帝を共倒れさせて、あなたがそのあとに出てきたらいいのに」
こんなとんでもない思想を持った人も居るから気をつけようね。
「あ、ほら、そこにグレート・ウェルキンド・ストーンがあるじゃないのよ」
「いや、これは普通のウェルキンド・ストーンだな。どれだけ集まった?」
「どこかの家に全部置いてきちゃったわ」
「家か、全部の町にあるからな、探すのめんどくさいや」
このように、普通のウェルキンド・ストーンならいくらでも手に入る。
マーティンが必要としているグレート・ウェルキンド・ストーンとは、いったいどんなものなのだろうか……
遺跡の奥へと進むと、なにやら奥の間に強く輝いている場所があったりした。
あの輝きは普通じゃない、まさかあれがグレート・ウェルキンド・ストーン?
近くまで来てみると、普通とは大きさの違う台座に、光り輝く物体が置かれていた。
「こ、これがグレート・ウェルキンド・ストーン――」
「ねぇ、ネコババしてあたし達の家に飾りましょうよ」
「マーティンが使った後、必要なくなったらもらうことにしようね」
――我らの墓を荒らすのは誰か?
――我らの眠りを妨げるのは誰か?
グレート・ウェルキンド・ストーンを手にすると、まるで地獄の底から響いてくるような声が広間にこだました。
そして周囲に生臭い風が吹き抜けた――
最後の王の怨霊が現れたぞ!
腐った死体と化してしまっているけどな!
ひとぉーつ!
ふたぁーつ!
「またエルスウェアの時みたいに、ゾンビの群れが現れるかもしれないから、さっさと撤退するぞ」
「撤退ですって? あたし達の勝利を目前にして? ゾンビごときになにができるって言うのよ」
「では走りながら考察タイム。今回の戦略は何か考えてみよう」
「ゾンビを蹴散らしてグレート・ウェルキンド・ストーンを持ち帰ることよ」
「少し違うな。グレート・ウェルキンド・ストーンを持ち帰ることだけだ。何もゾンビを殲滅させる必要は無いのだよ」
「あなた最近戦わない主義になっているわね、オブリビオン・ゲートとか」
「目的を考えた場合、無理に戦わなくても済むということがあるのに気が付いたからな」
世の中には、戦わずに勝つという言葉もある。
脳筋の諸君、このような戦い方もあるのだよ、うおっほん。
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