アイレイドの秘密 後編 ~ネナラタ事件~

 
 えーと、隠された財産については黒歴史にして無かったことにして、リンダイの王冠を手に入れたところだ。
 しかし物の勢いで、ヘルミニア・シンナの家からネナラタの王冠を盗み出してしまった。
 これには意味があるのだ。
 
 ウンバカノはネナラタの王冠を欲している。ヘルミニア・シンナは譲りたくない。
 そこでどうせ見分けがつかないからと、代わりにリンダイの王冠を持って行けとヘルミニア・シンナは言ったのだ。
 しかし見分けが付いたらどうする? 偽物を持っていったら怒られるぞ?
 
 そこで俺は思いついた。
 二つの王冠を持って行って、ウンバカノに選ばせるのだ。
 もし当たりを引いたらヘルミニア・シンナは諦めろ。外れを引いたら後でこっそりと返しておけば問題ない。
 

「なんだか王冠は二種類あるみたいなので、念のために両方を持ってきました!」
「こっちはリンダイの王冠ではないか。私が欲しいのはこっちのネナラタの王冠の方だ。まぁリンダイもネナラタと同じぐらい価値があるから、こちらも頂いておこう」
「さすがに研究されてますね、それでは俺はこれにて失礼」
「まぁ待て、最後にもう一つだけ仕事を頼みたいのだ」
 
 ウンバカノの眼力は本物だったので、ヘルミニア・シンナには諦めてもらおうと思ってそのまま帰ろうとしたのだが、最後の仕事とやらを依頼されてしまった。
 それは、ネナラタの玉座の間に連れて行って欲しいというものだ。
 ネナラタから戻ったら望むだけの報酬を与えると言っているのでやってやるか。
 
「わかりやした、てめぇを玉座に連れて行ってやるから精々感謝しやがれ!」
「なっ、何だ突然口が悪くなって?」
「あ、ごめんなさい。ネナラタ菌に感染したようです」
「それはネチラタ菌ではないのかね?」
「…………(。-`ω´-)」
「玉座の間は厳重に封印されていると思うので、準備は万全に頼むよ」
「了解しまくりました」
 

 こうして、ウンバカノはネナラタの遺跡へ旅立ったのである。
 
「どうするの? 行くの?」
「ここまで関わったのだから、最後まで面倒見てあげよう」
「またお人好し発動ね」
「名声のためだ」
「盗賊ギルドで悪名高めているくせに」
「おかしいな、正義の信念を持って潜入しているのに、なぜ悪名が高まるのだろうね」
 

 というわけで、俺達もネナラタの遺跡へ向かうことになった。
 ここはインペリアル・ブリッジのあったシルバーフィッシュリバーの河口辺りだね。
 

「ちゃんちきちゃんちゃんどうですか?」
「はい? どうしたの?」
「ちゃんちきちゃんちゃんできますか?」
「意味わかんない」
「橋を渡り終わったら道を右に逸れて川沿いに進めばいいね」
「…………」
 

「やっと来たな。私は玉座がの間が何処にあるのか正確に知っている。君の仕事は、私をそこまで護衛することだ」
「それはいいけど、なんで横取り野郎が居るのだ?」
 

「安心しろ、今回は味方だ。ウンバカノは我々両方に護衛を依頼したわけさ」
「ではどっちが先に護衛できるか競争するのだな?」
「……?」
 
 なんだかクロード・マリックも同行するようで。
 クロードは「君がこの探検のリーダーだ」などと言っているが、リーダーはウンバカノではないのかねぇ?
 まあいいか、先導してやるからついて来い。
 
 

「らむたん探検隊! 号令! いち!」
「…………」
「…………」
「……あなた、今日はなんだか頭おかしくなってないかしら?」
「ノリが悪いなぁもぉ、一度こういうのやってみたかったんだよ!」
「らむたんを認めるのね?」
「あっ……」
 
 なんだかちぐはぐだが、遺跡の探索はうまく行っている。
 

 リッチが住み着いていたりするが、緑娘が突撃して魔術師ギルド謹製の魔剣でサクッと退治してしまうのだ。
 俺以外に人がいるから魔剣を使うのな、蹴り技は奥の手として隠すの徹底しているな。
 もっとも俺が思うに、緑娘の蹴り技もえぐいけど、魔剣の方が威力があると思っているけどね。
 

 魔剣は物理攻撃だけでなく魔力の放出もあるので、幽霊相手でも通用する。
 俺は見ているだけで、緑娘が魔剣片手に無双しているのを眺めているだけでいい。楽なリーダーだ。
 

 しかし時々魔剣の魔力が反射されて、緑娘も動きを封じられることがある。
 もうこれは諸刃の剣みたいなものだな。
 確かにリッチは時々魔法を反射することがある。魔術師には要注意なモンスターだ。
 
 
 

 そしてついに奥の間に到着。
 しかしそこは何も無い広間で、玉座らしきものはどこにも見当たらなかった。
 

 奥の壁には四角く窪んだ場所があるだけ。
 そこで初めて、ずっと後からついてくるだけだったウンバカノが前へと進み出たのだ。
 

 奥の窪みに、石版のようなものをはめ込む。
 あれはマラーダから持ち帰ったアイレイドの彫刻ではないかな?
 あの彫刻にも意味があったのだね。
 

 窪みに彫刻をはめると、壁がゆっくりと持ち上がるのだった。
 
「ここだ、アイレイド最後の王の玉座。そして私が古の栄光を蘇らせるのだ!」
 
 ウンバカノは不穏なことをつぶやきながら奥へと進んでいく。
 蘇らせるとは何か? いやな予感しかしないのだが、大丈夫だろうか?
 

 ウンバカノはネナラタの冠をかぶり、玉座に着いた。
 すると、周囲は激しい光に包まれる。
 
「あれ、大丈夫なの?」
「わからん。しかしもしもゾンビみたいなのが蘇ったらマズいことになると思う」
 
 俺の感じていた不安は現実のものとなり、ウンバカノは邪悪なアイレイド王へと変身してしまった!
 
「ふはははは! 蘇ったぞ! この力があれば私は世界を――」
 

 
 …………(。-`ω´-)
 
 見も蓋もない緑娘の行動と、魔剣の威力。
 ウンバカノが邪悪に取り付かれて襲い掛かってきた途端、緑娘も素早く反撃して、ほとんどチートな魔剣で一刀両断してしまったのだった。
 こうしてウンバカノの野望は、最後まで語られること無く潰え去ったのである……
 

 後は、ウンバカノの死体を尻目に、蘇ったリッチや骨の群れと戦う緑娘とクロード。
 なんだクロードのやつ、横取りするだけが取り枝と思っていたけど、意外と戦えるじゃないか。
 緑娘と背中を庇い合って、うまく立ち回っているじゃないか。
 その隙に、ウンバカノが持っているネナラタの冠を奪ってやろうかな。こうなったら仕方が無いので、ヘルミニア・シンナに返してあげる必要があるからね。
 

 何もせんのもアカンと思うので、俺もとりあえず一体だけリッチを退治しておく。
 しかしヘルミニア・シンナの言った「ネナラタの王冠を手にすれば、恐ろしい力を解放して危険」というのは事実だったな。
 魔術師ギルドにも危険な研究をしているものが何人か居るが、ウンバカノも似たようなものだったということか。
 これはシンドリの行動にも注意しておかないとな。
 

 気がつけば周囲の喧騒は静まっていて、生き残ったものは玉座の周りに集まっていた。
 
「心配するな、感謝はしているよ。あんたは助けてくれた」
「主に緑娘がね。それにしてもクロードやるじゃないか、それだけの腕があるなら横取りなんかやってないで自分で戦えば良いのに」
「脳ある鷹は爪を隠す、さ。俺はそれほどの価値がある人間だからな! しかしこれで俺も雇い主の無い浪人に逆戻りか。まあよい、ではまた会おう!」
「ん、幸運を祈る」
 
 雇い主のウンバカノは死んだ。
 結局この仕事は何だったのかわからんが、危険な思想を持っていた蒐集家が自滅した、それだけのことだろう。
 
 さて――
 

「何をやっているのかしら?」
「いや、俺もアイレイドの王になれないかなってね」
「なってどうするのよ」
「ふはははは! 蘇ったぞ! この力があれば私は世界を支配できるぞ! 手始めに貴様らから葬ってやろう!」
「やっとその気になってくれたのね! さあ、あの皇帝をどこかに追いやって、この国を乗っ取ってしまいましょうよ!」
「…………(。-`ω´-)」
 
 ダメだ、この冗談は緑娘に通用しない。
 むしろ利用されるだけだ、いかんいかん。
 
 さて、馬鹿なことはやってないで戻るか――

 ――と思ったのだが、来るときに降りてきた階段がなくなってしまっていた。
 クロードも右往左往している。
 他に出口を探さないとダメなのか、この壁をよじ登らないとダメなのか。
 
 とまぁ別の通路を見つけ出して、無事にネナラタの遺跡から脱出できましたとさ。
 

「よし、ここまで来たら安心だな」
「助かったよ、階段が無くなっているのを見たとき、俺はもう終わりかと思ったぜ」
「そうだクロード、もしよかったらだけど、戦士ギルドに興味は無いかい?」
「戦士ギルドかぁ」
「君の腕だと戦士ギルドでもやっていけると思うのだけどなぁ」
「それもいいか、金持ちのウンバカノのついていれば安泰だと思っていたけどこうなったら仕方が無い。戦士ギルドに参加するか」
「よろしく頼むよ、俺も戦士ギルドのチャンピオンだから、分からないことがあったらなんでも聞いてくれ」
「待って! 戦士ギルドのマスターはあたし! 勝手に話を進めないで!」
「というわけだ、コロールに住んでいるオレインって人に会ってくれたら大丈夫。ギルドマスターのテフラも承知しているとな」
「だから勝手に決めないで!」
「コロールだな、わかった。何か仕事で会うことがあれば、その時はまたよろしく」
「ん、幸運を祈る」
 

 こうして、クロードと二度目の別れをしたのだった。
 戦士ギルドの人材が増えた、ウンバカノ絡みの仕事では、これが最大の成果だったと捕らえよう。
 
 
 ネナラタ事件、完!
 
 
 そしておまけ!
 

 これはもうウンバカノには必要ないと思うから回収な!
 鍵がかかっていたけど、ウンバカノが持っていた鍵で開いたよ!
 別にアイレイドの彫像が欲しいわけじゃないけど、これもクリーンな盗品と言うことで一つ役立たせてもらうからな!
 
 
 
 




 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Posted by ラムリーザ