アザニ・ブラックハート 前編 ~オレインとの密約~

 
「お前に頼みたいことがあるんだが、ここじゃちょっと話せねぇ。日が落ちてから俺の家に会いに来てくれないか? これ以上はその時に話そう」
 
 ブラックウッド商会について、オレインは調査が必要だと言った。
 その後、オレインから内密の相談を持ちかけられたようだ、緑娘テフラがな。俺は手伝いだから違うぞ。
 

 その後、オレインは自宅へと戻っていったようだ。
 
「さて、オレインは君をご所望のようだが?」
「当然あなたも来てくれるでしょう?」
「いや、君に内密な話があるんじゃなかったっけ?」
「あたしがオレインと二人きりで会ってたら、あなたは嫉妬するでしょ?」
「いやいや、なんで俺が嫉妬するんだ?」
「嫉妬しないの? あなたはあたしが他の男と密会しても不安にならないの?」
「俺は君を信用しているから――というより、なんで疑問系の会話が続くのだ?」
「何よ、疑問系の会話が続くと何か困ることがあるの?」
「いや、なんか以前アリ――じゃなくて、わかった一緒に行ってやる。で、オレインは日が暮れたらと言ってたけど、それまでどうするのだ?」
「決まっているでしょ? 分からないの?」
「さぁ、ヴィラヌス・ドントンに会いに行くのか?」
「なんでよ、あいつしつこいから嫌い。もういい、ついて来て!」
 
 あ、やっと疑問系会話が途切れた。
 なんか以前、アリーレさんとそんな会話をやっていたなぁとか思い出していたが、名前を出すとまたうるさいのが見えていたから誤魔化したけどな。
 
 

「日が暮れるまでここで過ごすわよ」
「また羊か、もふーもふーか」
「そう、もふーもふーよ」
 
 緑娘が向かったのは、コロール郊外にある羊牧場だった。
 まぁ多少なりは予測はついていたけどね。
 
 ………
 ……
 …
 

 結局緑娘は、日が暮れるまでもふもふやっていたみたいだ。
 そこまで羊が好きか! 羊フェチか! そんなの初めて聞いたぜ!
 
「もふー、もふー」
「そろそろ日暮れだな、行くか?」
「もふー、もふー」
「……ダメだこりゃ(。-`ω´-)」
 
 
 この後、なかなか羊から離れようとしない緑娘を引っ張って、コロールの町へと戻りましたとさ。
 
 

「オレインの家ってどこだっけ?」
「さあ、あたし知らないわ」
「しょうがない、一軒一軒回っていくか」
 
 そんなわけで、コロールの町からオレインの家を探すのに苦労したが、この国の人は就寝時間以外は、たとえ知らない人でもいつでも家に訪問OKみたいな感じがあるので、それ以外の時間なら自由に他人の家に出入りできるんだよな。
 もっともそれ以外の時間になると「衛兵を呼ぶ」などと言い出して、逆らえば牢屋行きだけどな。
 極端なんだよ、どいつもこいつも……
 
「ふと思ったんたけど、やっぱり内密の話だから俺が行くのはまずくないか?」
「どうせ後であなたに話するから、結局一緒のことよ。お互い秘密を抱えた関係なんて嫌」
「……そうなるか」
「だからあなたも、この国であたしの知らない女性関係があるなら包み隠さず全部白状してね」
「そんなん無いって! ああ、それならマゾーガ卿――」
「あんな怪物なんてどうでもいいから!」
 
 オークを怪物扱いですか……(。-`ω´-)
 ある意味否定はできないけどな。
 

 というわけで、オレインの家である。
 
「おや、アークメイジも一緒かね?」
「ミ――テフラが一緒じゃないと嫌というので仕方なく」
「何よ、別にあなたと一緒じゃないと嫌なんて言ってないんだからね、手伝って欲しいだけ。勘違いしないでね」
「こほん、俺達には果たすべき義務があるんだ」
 
 なんか緑娘がツンデレチックな事を言ってるなと思ったが、オレインは特にそれには言及せずに話を始めた。
 ブラックウッド商会についてオレインは探っていたようで、いくつかの不穏な噂を聞いたようだ。
 しかし周知の通り奴らは仕事が早くて、戦士ギルドにとっては脅威になっている。
 俺は黙って、緑娘とオレインの会話に耳を傾けていた。
 
「なぜあいつらにあんな力があるのかしら?」
「いい質問だ。噂があるが、確証はない。魔術師の協力者がいるとか、単に訓練が厳しいだけかもしれん」
 
 そこで緑娘は俺の顔をじーと見つめるが、知らんぞ協力者なんて。
 死霊術師が協力しているのならともかく、正規の魔術師がブラックウッド商会に協力しているといった話は聞いたことが無い。
 
「確かなのは、どんな契約も引き受け、手段を選ばずに遂行すると言うこと。そして、邪魔者には容赦しねぇ」
「なんでそんなになるまでギルドは放っておいたのよ」
「ブラックハートの任務以来、ヴィレーナには迷いがある。死人が出るのを恐れているのだ」
 
 ヴィレーナとは、戦士ギルドのマスターを勤めるヴィレーナ・ドントンのことだ。
 その息子に、ヴィラヌス・ドントンというのが居るのだが、緑娘は彼を避けていたりする。
 
「ブラックハートって何かしら? 黒い心なの?」
「あの任務が始まりだった……」
 
 オレインは神妙な表情を浮かべながら、ブラックハートについて語りだした。
 ヴィレーナの長男で、ヴィラヌスの兄ヴィテルスが戦死したのにブラックハートが関わっていたのだ。
 アルゴスというウィザードの依頼で、ブラックハートからある宝剣を奪還することになった。
 オレインは20名の部下と共に出撃したが、帰ってきたのは5人だけ。そしてヴィテルスはその中に居なかった。退却を援護しようとして彼は死んだというのだ。
 任務は失敗だった……
 
「そのヴィテルスって人は、黒色槍騎兵から傷ついた艦艇を一隻でも多く逃がすために戦場に留まったけど、逃げようとした時に撃沈された旗艦みたいなことをやったのね」
「は……? シュワルツ――何?」
「でもその艦隊は半数は脱出できたのに、あなたはの部隊は4分の1しか脱出できなかったのね、ダメじゃないの」
「何の話だ? 先に進めるぞ」
 
 オレインは、その仕事をブラックウッド商会が代わりに片付けたと言った。戦士ギルドの精鋭20人が向かったので、連中の手に負えるはずが無いと。
 うーん、百戦錬磨もあっさり負けることがあるし、近い例だと死霊術師に魔術師ギルドの面々は全く歯が立たなかったからなぁ。
 この地点で読めたね。
 緑娘は戦士ギルドの頂点に立てるだろう。
 しかし、俺のように使いっ走りの名ばかり頂点に……(。-`ω´-)
 
「続きがある。アルゴスは何者かに殺され、宝剣は消えた。まるで仕組まれたかのように。きっと連中は、ブラックハートと裏で取り引きしていたのだろう。証拠は無いが……」
「――で、何をするのかしら?」
「真実を明らかにする。そして暴露する。ブラックウッド商会の正体を、白日の下に晒してやりたい」
 
 アルゴスの依頼など元々無く、戦士ギルドを罠に嵌める為だけに存在したとかかな?
 この場合、ブラックウッド商会がなにやら不正をしているというのか、戦士ギルドは実はそんなに強くないかどっちかだろう。
 戦士ギルドが十分強いのなら、商会はなにか不正をやっているのということになる。
 逆にギルドが弱いのなら、商会がきちんと実力通りに高度な仕事をしていて、ギルドはただ足を引っ張ろうとしているだけだ。
 魔術師ギルドは俺頼みでちっとも強くないけどね!
 
「お前に協力しろと命令はできん。危険だし、ヴィレーナが承知せんだろう。お前に任せる」
「あたしやる!」
「よし、レヤウィンのギルドホールで落ち合おう。アルペニアにあるブラックハートの根城を探るのだ」
 

 
「アークメイジも協力してくれような、戦士ギルドの修行者よ」
「え? 俺も?」
「手伝ってくれないと、あたし魔術師大学に行かない」
「…………(。-`ω´-)」
 
 まあいいか、レヤウィンね、向かいましょう。
 ダケイルの予言は緑娘が対処するんだぞ。
 
 
 ひとまず今日はもう夜遅いので、明日の朝一番でレヤウィンに向かうことにしよう。
 

 それではおやすみ――
 
 
 
 




 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Posted by ラムリーザ