第十九話 ~脱走犯……ハーシーンの狩人~
「イーストマーチは戦争で手一杯のため、囚人どもを抑え切れていないらしい」
ジョルバスクルに戻ってきた男に、新たな仕事を持ちかけてきたのはヴィルカスだ。
なんでもイーストマーチ地方に脱獄犯が逃げたので、始末しろというのが内容だ。
「今となっては、連中もこっちとしても、その男がどうなろうが構わない。殺して終わらせてしまうのが一番だろう」
というわけで、男はその脱獄犯の人相を聞き、さっそく馬車でウィンドヘルムに向かった。
イーストマーチ地方と言えば、ウィンドヘルム周辺だが、結構広さはある。
男は、脱獄犯が堂々と道を通って逃げるとは考えず、道から外れたとこを逃げていると考えた。
森の中に入って行く。
こんなやりかたで見つかるのか? と思いながら、それでも周辺の捜索を続けることにした。
数時間後――
男はイーストマーチの森の中を、彷徨っている者を発見した。
その者は、なにかに警戒するように辺りを見ながらウィンドヘルムから離れていっていた。
奴だ……
ヴィルカスの言っていた人相と一致する。
始末するべき相手はこいつだ……、と男は気を引き締めた。
その時である。
男の精神に異変が起こった。
突如、強い狩猟衝動が生じたのだ。
気が付いたらウェアウルフ化していた。
昼間にもかかわらず……
変身を望んだわけでもないのに……
気がつけば飛びかかっていた。
狩りを楽しむ獣になっていた。
突然の襲撃に、脱獄犯はかなり驚いたようだった。
脱獄したこともあり、そのうち追手が来ると予測はしていたが、まさかウェアウルフが襲ってくるとは想定外だった。
抵抗むなしく――
ウェアウルフの餌食となってしまった。
勝利の雄たけび
だが、男の気持ちは複雑だった。
ハーシーンは確かに言った、いつでも戦える力が欲しいか? と。
その通り、これまでは夜にしか使用できなかった力を、昼間から使う事が出来た。
しかし問題はそこではない。
今回は望んでいないのに、獲物を見つけた瞬間ウェアウルフと化してしまったのだ。
男はハーシーンが「獣の血の力を増幅することができる」と言っていたのも思いだした。
このままハーシーンの狩人と化してしまうのか? という不安が生まれた。
しかし、なにはともあれ仕事は果たした。
とにかく、引き上げることにした