第十一話 ~血の栄誉~
ある日、男はコドラクに呼ばれた。
どうやら、アエラはコドラクには内緒で秘密任務を行っていたようだ。
それに男は何度も手を貸してきたということを察知したようだと。
「まぁ、座ってくれ」
コドラクに促され、男は隣の席に身を下ろす。
「最近は忙しそうじゃないか」
男はどう答えたものかと考えた。
実際はアエラと一緒にスコールの死に対して報復しているのだ。
だがアエラはそのことはコドラクには秘密にしておきたがっているようなので、その場をとりつくろうことにした。
「仲間の名誉のために働いている」
「よく聞け、『同胞団』の各々が名誉をかけて何かをするなら、いちいちそれに干渉するつもりはない」
コドラクはじっと男を見据えて言葉を続けた。
「だがこれはちょっと別だ。君のような気高い者には相応しくない行為だよ。アエラにも君にも、もっと分別というものがあるはずだ」
……どうやらコドラクは全てお見通しだったようだ。
しかし、コドラクはスコールの死に対して何も思ってないのだろうか?
男がそう考えているとコドラクはとうとつにウェアウルフについて聞いてきた。
「我々がなぜウェアウルフになったか、その理由を聞いた事があるか?」
「スコールはハーシーンからの祝福だと言っていた」
「ああ、彼の言いそうなことだ」
そこでコドラクは、ウェアウルフとの馴れ初めを語りだした。
同胞団が結成されたのは5千年前だが、ビーストブラッドの歴史が始まったのはほんの数百年前だと。
前任者の中に、グレンモリル魔術結社と取引した者が居て、ハーシーンのために狩りをするなら巨大な力を授けてもらったのだ。
もし治癒をするなら、グレンモリルの魔女の力から解放することだと。
「やつらの首を持ってくるんだ。魔法の力の源だよ。首があれば、数世紀に渡る我々の不幸な運命に終止符を打てるだろう」
男はウェアウルフの力を捨てる気にはなれなかった。
だがコドラクがこの祝福を取り除きたいというのなら、それもよかろうと考えた。
ウェアウルフは死ぬとハーシーンのハンティング・グラウンドに呼ばれて、永遠に狩りをするのだと言う。
だがコドラクは、ノルドとしてソブンガルデで魂を休めたいと考えているのだ。
そこで男は、魔女が棲むと言われているホワイトラン南部の洞窟に向かった。
魔女を警戒しつつ、音を立てないよう隠密行動で洞窟を進む。
入口から続いていた細い通路を抜けると、内部の広間にたどり着いた。
魔女だ……
どう攻めるか? と男は考えた。
野獣化して戦えば、魔女の一人や二人、あっという間に蹴散らせることもできるだろう。
しかしウェアウルフには月夜にしかなれない。
その制限がもどかしく感じ、かといってここで夜まで待つには長すぎる。
相手は一人だ。
一対一なら十分勝機はある、と考えた。
意を決して岩影から飛び出す。
男の突撃に気がついた魔女は、魔法を放ってきたのだ。
しかしそれは男の想定の範囲内であった。
魔女の放った火球を飛び越え、一気に間合いを詰める。
接近戦なら男に分があった。
次の魔法を使わせる暇を与えずに、連続攻撃を叩きこむ。
魔法の使えない魔女は、男の敵ではなかった。
魔女の次の一撃は無く、男の操る二本の剣の前に魔女は崩れ去ったのだ……
さて、必要なのはこの「首」だ。
グレンモリル魔女の首……
こんなものをコドラクはどう使うのか……と考えながら、首をつかみ立ち上がった。
そして首の無くなったグレンモリルの魔女の遺体をそのままに、男は洞窟を立ち去った……
~ Mission Complete ~
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