第八話 ~ギャロウズ・ロック~
男がウェアウルフと化して暴れついた先は、ギャロウズ・ロックという砦の近くであった。
そこは、ウェアウルフを狩りに来た連中が野営している所だそうだ。
そしてこのままアエラと共に、ウェアウルフハンターであるシルバーハンドの立てこもる砦に潜入することになった。
既にスコールは斥候として潜入した後であり、彼の後を追う形での突撃である。
砦の外には、ハンターの見張りが何人か居た。
しかし見張り程度では、男とアエラ二人の敵ではなかった。
見張りを蹴散らして、砦の中に突入する。
男の双剣が唸り、アエラの弓矢が確実に敵を仕留めていく。
ハンターは次々に襲いかかってくるが、その都度二人に返り討ちにされて行くのだ。
そしていよいよ奥の間を残すのみとなった。
「ちょっと待って」
アエラは男が疲労しているのに気がつき声をかけた。
「少し息を整えてから行きましょう」
「いや、俺の事なら大丈夫だ」
――と言いながらも男の呼吸は荒い。
しかしスコールが既に突入して戦っているのだ、のんびりすることはできない。
「そうだわ、あなた、力を使いなさいよ」
「どうやって?」
先ほど血を飲んだ時は、自分の意志とは関係なくウェアウルフ化したものだった。
しかし今ウェアウルフ化しろと言われても?
「自分の中の野生の血に語りかけるの。最初は難しいかもしれないけど、やってみて」
野生の血……
男は目をつぶり、意識を集中させた。
数秒後、異変が現れ出した。
全身の筋肉が盛り上がり始め、指からは鋭い爪が生えてくる。
顎がせり出し、全身が黒い毛に覆われていく。
ウェアウルフだ。
これまでに蓄積された疲労感は吹き飛び、代わりに強い狩猟衝動が生じる。
男は一声大きく遠吠えをすると、ハンターの立てこもる奥の部屋に駆けだしていた。
さあ、狩りの時間だ!
ウェアウルフの強靭な肉体から繰り広げられた力は、一撃で敵を吹き飛ばした。
一人、また一人とハンターはウェアウルフ化した男の一撃で沈んでいく。
男は強い狩猟衝動の赴くまま、狩りを楽しんでいた。
太い両腕、鋭い爪、時には鋭い牙で噛みつき、やりたい放題である。
「私の出る幕はないわね」
アエラは男の暴れっぷりを見て微笑した。
自分も参加してもよかったのだが、ここは男の初めての狩りを存分に楽しませてやろう。
――などと考え、ここでの戦いは傍観に徹することにした。
最後に残されたハンターは、まさかここまでやられると想像していなかったのだろう。
やけくそになってウェアウルフに飛びかかっていったが、押し倒されてのしかかられる形になってしまった。
馬乗りになって、がむしゃらに引っ掻き回す。
ハンターが肉塊となり果てるのに時間はさほど必要なかった。
血が欲しい!
肉が欲しい!
男はハンターにむしゃぶりついた。
そして最後に、勝利の遠吠えを上げる。
戦いはあっけなく、しかし凄惨な後を残して終わることとなった。
「お疲れ様。おっと私は味方よ、まさか分別つかなくなっているってわけじゃないでしょうね」
ウェアウルフとなり何度も戦ってきたアエラは落ち着いたものだった。
「その力、気に言ってくれるといいんだけど……、あら? スコール?」
部屋の中央に倒れていたのはスコールの遺体だった。
どうやら二人が突入した時には既にハンターによってやられてしまった後だったようだ。
「あいつら……、汚い手でスコールを殺したのよ」
アエラは静かに言った。
「彼は私達の中でも精鋭だったけど、数には勝てなかった。盾の兄弟なしに来るべきじゃなかったんだわ」
その一方で、男は欲望を満たすため、残されたハンターの遺体を食い漁っていた……
スコールの弔いだ……、とでも言うのかのように。
「ここから出て行って。私は奴ら一人残らず仕留めたか見届けて、死体から何か手がかりを探してみるわ」
――などと言うので、男は途中で倒してきたシルバーハンドを貪り食うために引き返して行ったのであった。
~ Mission Complete ~
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