第五話 ~栄誉の証明~
仕事らしい仕事が再びやってきた。
「寝て居るところにわるいが、もうひとつやってもらたいことがある」
一仕事終えて男がくつろいで居る所に、再びファルカスが話しかけてきた。
ファルカスは、今度はスコールに会うように言ってきた。
どうやら話があるそうだ。
彼がスコールである。
スコールは、最近学者から聞いたことを男に教えてきた。
「ダストマンの石塚」という所に「ウースラドの破片」があるのだそうだ。
そして今回はその破片を回収するのが任務なようだ。
その破片とは、同胞団を設立したイスグラモルが愛用していた武器ウースラドの破片のことを言うのだと。
男は、雑用を連れていくような場所とは思えないが・・と考えた。
だが、ここは少しでも心象を良くしておこうと、素直に引き受けることにした。
「それを回収するのは光栄だな」
「尊敬とゴマすりには明確な違いがあるんだ。しかし、その根性は気に入った」
どうやらうまくいったようだ。
「これをお前の試練とすることにした。上手くやれよ、そうすれば同胞団の一員として認めてやる」
ついにこの時が来た、と男は思った。
「準備ができてるといいんだが」
と言ったのはファルカスだ。
今回の任務は、ファルカスが盾の同士として、男と行動を共にすることになったのだ。
ダストマンの石塚で落ち合うことを約束し、男は旅の支度を始めた。
………
……
…
ダストマンの石塚は古代ノルドの墓である。
墓石の周りでは、ドラウグル・・墓場で生き続けている死体が、墓への侵入者に襲いかかってくるのだ。
もっとも、そのドラウグルも、二人の敵ではなかったが……
順調にダストマンの石塚の探索を進める二人。
しばらく進むと、墓場は無くなり、ちょっとした広間に到着した。
あちこちを探索してみると、小部屋になっているところにレバーがあった。
「これか?」
男は何も迷うことなくレバーを引いてみた。
ガラガラガラドシン!
背後で大きな音が響いた。
「…………」
小部屋の入り口が鉄格子で閉ざされている……
どうやら男は閉じ込められてしまったようだ。
「心配するな、じっとしてろ。何とかしてみる」
ファルカスはそういって周囲の探索を始めようとした。
その時である。
「ここに来るのは分かっていた。『同胞団』め、過ちだったな」
突然現れた者たちに囲まれるファルカス。
男は、戦いに参加できないことを悔やんだが、ここはファルカス一人でどうにかしてもらうしかない。
多勢に無勢、ファルカスがやられたあとは次は自分か?
男は覚悟を決め、じっと見守る……、しかなかった。
その時だ!
ファルカスの姿が変貌したのだ、大きな二足歩行の獣に!
ウェアウルフだ!
「いったい何なんだ?!」
男はつぶやいた。
野獣化したファルカスは、男の見ている前で次々にハンターを蹴散らしていく。
これは戦闘とは言えない、一方的な虐殺だ……
数分もしないうちに、ハンターの一団は全滅していた。
そしてどこを触ったのか知らないが、閉じ込めていた鉄格子が開き、男は再び自由の身となったのだ。
そこには、さきほど襲い掛かってきた一団の遺体が転がっているだけだった。
「怖がらせてしまったらすまない」
ファルカスはどこかで鉄格子を開ける所を探してきたのだろう。
しかし……
「あれは、何だったんだ?」
男は先ほどの野獣化について尋ねてみた。
いや、尋ねずにはいられなかったと言うべきか……
ファルカスは、誇らしげに答えた。
「我々に与えられる祝福だ。野生の獣のように、恐ろしい存在になれる」
「まさか、ウェアウルフに?」
「いや、ビーストブラッドを持つのはサークルの者だけだ。己の高潔さを仲間に示してみろ」
「…………」
「地平ではなく、獲物を見よ」
同胞団のみながウェアウルフというわけではない。
ファルカスはこれは誰も口にしてはいけないことだと言った。
同胞団の中での秘密事項ということだろう。
そして先ほど襲い掛かってきた連中はシルバーハンドと言い、ウェアウルフを憎むものだという。
だから同胞団の事も嫌っているのだ。
この先は、ドラウグルではなくシルバーハンドの一団が何度も襲いかかってきた。
それらを二人で片付けつつ、奥へと進んでいった。
ダストマンの石塚の奥は、祭壇のようになっていた。
そしてウースラドの破片は一番奥の祭壇に置かれていた。
これを持ち帰るのが、今回の任務である。
「さあ、ジョルバスクルに戻らないと」
ファルカスに言われるまでも無く引き上げるつもりだったが――
まだ戦いは続くようだ。
………
……
…
その夜、男は同胞団のサークルに呼ばれ、囲まれた。
「サークルの兄弟姉妹よ。今日我々の定命なる家族の中に、新しい魂を迎え入れよう」
皆が集まったところで、コドラクは声高々に宣言した。
「この男は耐え、挑戦し、己の勇気を示した。彼を代弁するのは誰か?」
「目の前にいる者の勇気の証人になる」
そう返答したのは、共に戦ったファルカスだ。
「彼を守るために、盾を掲げるか?」
「私なら、二度と世界に裏切られないよう彼の側につく」
「彼を称えて、剣を掲げるか?」
「敵の血が見たくてうずうずしているようだな」
「彼の名を称えて、祝杯を上げるか?」
「酒場では彼の話で盛り上がっている。勝利の歌でも歌おうか」
コドラクとファルカスの応答は続く。
男はすこし照れくささを感じながら、二人のやり取りを聞いていた。
まぁ、悪い気はしなかった。
「ならば、このサークルの判断は決まったな」
男は、功績を認められ、改めて同胞団の一員として正式に認められることになったのだ。
同胞団としての戦いは、今はじまったのであった。
前の話へ/目次に戻る/次の話へ