第三話 ~仕事・雑用編~
ヴィルカスに剣の腕を認められ、とりあえず雑用としてだが同胞団へ参加することは認められた。
そして、まず最初の雑用は、ヴィルカスの剣をエオルンドに渡すということであった。
エオルンド・グレイメーン――
ジョルバスクルの裏手にあるスカイフォージという炉で鍛冶を営んでいる者だ。
噂ではホワイトラン一の鍛冶屋だとか。
そこにヴィルカスの剣を持って行き、研いでもらうのが仕事だと。
「どうしてここに居る?」
エオルンドは作業をしていた手を止め、こちらを振り向いた。
「ヴィルカスに言われて彼の剣を届けに来た」
「という事は、新入りだな?」
「言われたとおりに頼まれたことをそのままやっただけだ」
「その態度は役に立つぞ。つまらない商人か、首長の踏み台になるにはな」
エオルンドはニヤリと笑い、話を続けた。
「このあたりでは、自立した生き方が学べる。忘れるな、『同胞団』では誰の指図も受けることは無い」
やれと言われたことをやるんだ、と同胞団のメンバーから言われたのだが……、と男は思った。
どうやら同胞団というものも、ややこしいもののようだ。
「頼みたい事がある」
「どうした?」
エオルンドが言ったのは、アエラの盾を作ったので彼女に届けて欲しいというものだった。
アエラと言えば、農場で出会い、男に同胞団に加わろうかと考えさせた女だ。
しかし、こういった誰がやっても良いような雑用をわざわざ頼みつけるのは、男の忠誠心でも試しているとでも言うのか?
私情を挟まずに、任務をこなす者を集めているのだろうか? と考える。
とくに反抗するような理不尽な雑用でもなかったので、男はここでも言うとおりに動くことにした。
自立した生き方を学べと言われても、誰かが雑用をやらなければ物事は動かない。
こういうのは新米のやるべきことだと納得させていた。
しかしどうせなら、戦いの仕事が欲しいものだ、と考えていたが。
盾――
男には盾は不要だった。
利き腕という物が無く、両利きだったのだ。
ヴィルカスとの戦いで見せた、両手に二本の剣を持って戦う二刀流が男の戦闘スタイルだった。
スカイフォージからジョルバスクルを見やる。
このまま雑用で終わるのか、それとも出世できるのか……
今は誰も分からない……
アエラは、ジョルバスクルの居住区に居るところだった。
早速エオルンドから言付かった盾をアエラに手渡す。
「ああ、よかった。これをまっていたのよ。あら? 見たことある顔だわ」
アエラは農場で会ったことを覚えていたようだ。
もっとも、つい先ほどの事でもあるのだが。
「さてはあの爺さん、貴方が関心を持ったと思っているのね」
アエラはヴィルカスと戦った感想を男に聞いた。
本気で戦ったらヴィルカスを倒せると思う? と。
しかし男は、自慢する気はなかった。
あくまで行動で示すという男の態度を、アエラは気に入ったようだ。
「ほら、ひと休みする場所をファルカスに見せてもらいましょう」
そう言うと、アエラはファルカスを呼び、男を居住区に案内するよう言った。
「新顔か? ああ、お前は覚えているぞ。さあ、ついて来いよ」
ファルカスとは誰かと思えば、農場で助けてくれた3人組の一人だった。
少しでも馴染みのある顔があることが、男を少し気楽にさせてくれた。
「ずっといてくれる事を願うよ。辛い人生になるかもしれないからな」
ファルカスの言葉に、男は少し戸惑った。
ずっと一人で旅してきた男は、仲間というものに疎かったのだ。
「部屋はここだ。疲れてるんならベッドで休んでくれ」
「よし、あんたはここの一員だ。他の連中もあんたに会いたがっている。」
部屋を案内してくれたファルカスは男を振り返りって言った。
案内された部屋は、それほど広くは無いが、ベッドや棚が整然と並んでいる。
ティルマといしう使用人がいつも部屋を掃除してくれているそうだ。
「ベッドで寝るのは久しぶりだな……」
放浪の旅を続けてきた男は、最近はほとんど野宿で過ごしてきた。
どうせなら稼げる仕事がしたいものだ。
同胞団に、ちょっとした期待を抱きつつ、男は眠りについた。
前の話へ/目次に戻る/次の話へ